第24話ジ・エンド&スターブラスト・スタート

 自殺者。

 そんな物騒な言葉が、不意に僕の耳元で聞こえた。

 僕はナイフとフォークを握って、ステーキを食べていた。

 おいしい、と感じた。

 または、まずいと。

 あるいは、吐くほどだと。

 全身がけいれんを起こしたように、うごめく、マムシにかまれた、トラのように。痛みがループする。煉獄の、清らかなイメージ、そして虐殺のオマージュ。地獄から生還した神は、呪いをかけた。その呪いは、愛の形をしていて、ふっと意識をかすめ飛ぶトゥータティス。

 

 他殺者。

 そんな沈痛な怒りが、ふいに横切った。

 俺は、ステーキを食べ終え、フォークで、均等に切られたリンゴを刺して、そのまま大きな口を開けて、上品に食べた。

 おいしい、まずい、あるいは、存在の吐き気。

「ほら、残さず食べな」

 と母が言う。

 

 僕の脳は超空間でビックバンを起こしたようになり、三次元を出て、四次元に飛んでいった。

 アインシュタイン。

 相当タフな理論を持った私は、時計を気にした。

 時計の針は、「四」。

 死から目覚めた私は、一日ずれた。

 そう三日後に復活する予定だった。

 四次元をさ迷い歩いて、とある国に来た。

「復活」

「快活」

「洞察」

 それから、「爆発」。

 でも、一切を退ける、喜悦、はたまた法悦。そして、レザーセックス。

 脱ぎ捨てる皮、そして着替える人格者たち。

 無数に入れ替わる、約七十億以上の人格。

 

 僕は俺は私は……。

 それから、四次元、多次元、空間も時空も越えて、すべてを超克していく旅が、今終わり、そして始まろうとしていた。


 誰か……。

 清らかな祈りが、翼を与え、僕は背に乗って、星を目指す。

 精神性の淵にあるさわやかな果実。もぎ取る、あくまで冷静に、静かに。

 レモン。そう、黄昏のレモン。斜陽の誘惑。


 意識が途絶える。

 海岸線にいた。

 僕はサニーと手をつないでいた。

 最後のデート。

 僕らは、笑い合い、あるいは沈黙して、打ち寄せる波で足を浸し、ただ、ただ、生まれたままの姿で、セックスをした。海岸線にこだまする喘ぎ声。海鳥がかき消していく、僕らのすべてを。

 そして、風が、ひどく僕の心に、入ってきて、思わず、喜んだ。

 サニーは言う。

「このまま、デートが終わったら、一緒に行かない?」

「どこへ?」

 と僕は言う。

「決まってるじゃない。月下のホテルよ。そこで、もっと愛し合いましょう」

「俺は、海の中へ行きたい」

「はあ?」

「私は、天国へ行きたい」

「そう、なら一人で行って」

「空へ行きたいのです」

「ばか」

 すると、地球が、共振した。

 僕とサニーは、翼をもった天使に手を引かれた。

 そのまま、ゆっくり、太陽に飲み込まていった。

 太陽が、笑う。ケラケラケラ。

 サイケデリックな夢の中。


 僕らは、そのまま自殺した。

 夜明けまじかのことだった。しかし、遠い昔のことかもしれない。


 そして、目を覚ました。

 3000年後の世界。

 世界は、変わった。

 だけで、僕とサニーは、何ということもなく、機械的楽園で、電子の雨に打たれ、蘇った。それが夢なのか、何なのか、誰にもわからない……。きっと福音書記にさえわからないだろう。




 


 

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シーサイド・スーサイド 鏑木レイジ @rage80

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