第23話調和

 神秘主義者はこう言う。

「貴様は果てしなく、ワイルドサイドを歩く運命だ」

 ジェノサイダーは夜明けとともに、神になった。

 海岸線の向こうに、顔が見えた。半分出かかった太陽。

 私はこう返す。

「信仰の問題です。世界には飢えて、苦しむ子供たち、そんな子供たちがたくさんいるのに、お前は、ひとり荒野をうろうろさ迷って、働くことすらしない」

 すると、新しい人格ブレイクヘッドは誕生した。

 ブレイクヘッドは、寒さに震える子供の肩を抱き、歌う詩人だ。

 すべてが統合し始めている。

 神の人格は、その瞬間に超克された。

「神は死んだ」

 とブレイクヘッドは言った。

 ツゥアラトゥストラはブレイクヘッドをほめている。しかし、神は生きている。

 すべてが、無法領域。

 ここは新しいビジョンの世界。調和したシステムが、自由自在にイマジネーションで創りかえられるそんな絶対領域。

 ブレイクヘッドは、アダムとエヴァの楽園で、聖書を読んでいる。

 ジェノサイダーは、自由自在に女を殺す。それも最高の方法で。そう、ジゴロ。

 ただ女の嬌声が好きだ。愛の美薬、もってやればいい、もっとやればいい。世界が変わるその瞬間まで。

 今、ジェノサイダーは試された。神はこう言った。

「すべての罪は許された」

 神々しく響き渡る、世界に波及して、死者すらも、その声を聴く。

 恐れる者は、恐れればいい。怖がる者は、怖がればいい。信じる者は信じるがいい。セックスする者は、セックスして、快楽の海で溺死すればいい。

 そしてジェノサイダーは、こう返す。

「うっせえよ」

 ジェノサイダーは、どこまでいっても、ジェノサイダー。

 虐殺は死んでも死んでも人が死んでも、終わらない。そういうもの。エンドレスに続いていく虐殺のループ。それが人間です。元型です。

 これは……。

 救い。

 瞬間、統合された。

 まるでうたたねから覚める香しい乙女のように。

 そっとテーブルの上には赤い薔薇がある。花瓶に入って、香り続ける。

 永遠に消えることのない、楽園の元型の香りを漂わせる神秘の薔薇。

 エデンの香りだ。そして、ハーレーに乗って、旅は続く。瞬間の先にある無限のアフォリズム。深淵の先まで、ジェノサイダーは行って、帰ってきた。

 

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