第14話天使

 舞い落ちる、激しい雨の中、君は歌った。

 雨に歌って、夜明けは近い。そう、疾走の接触、そして、君のニュアンス。

 レラ、君は今どこにいるのだろうか。

 僕は、君の面影を追って、夜明けまで走り続けた。

 そして、静寂の予感が、風のうなりとなって、日差しの降り注ぐ夢のような時間をプレゼント。それから、センスの全的な肯定。後ろめたさもなく、前へ進む、その中で、預言めいた言葉が、とどろく髑髏の幻影。

 僕は言う。

「レラ、ここはどこ?」

レラが横にいた。

「私はいつだってあなたの隣にいるよ」

 とレラが言った。

 レラは、一体何者だろうか?

 僕は、崩れゆく意識のルシフェルを呼んだ。

 第四の人格を形成。

 それから、イマージュのジェノサイダーが、こう言った。

「君は弱い」

「え?」

「君はレラを疑った」

「なんで? 俺は何も疑っていない」

「いや、君はレラの魂を疑った」

「俺は……」

「そうだ、有罪者だ」

 と言って、コップの水を飲んで、夜明けを待った。

 震える。苦しみと世界の苦しむ子供たちに、僕は偽善者で、有罪者。でも、救済者。

 そんな錯覚に陥って、夜明けの街を自転車で、走っていると、不意におまわりさんに出会った。「おいおい、君、君は一体何なのかね?」「夜明けの街を走っているだけです」

 僕は泣いていた。

 そして、イヤホンを耳に突っ込んでいたから、止められた。

「君は不審者だね」

「なぜ?」

「考えてもみなさい、夜明けの街を涙を流しながら、走っていく、君を保護する。すぐに手配する」

「マジで?」

「いや、ジョークだよ」

「それは面白いジョークですね」

 僕は、涙を拭きながら、朝の訪れを、待った。イヤホンのボリュームを上げた。

「パラノイド・アンドロイド」

 僕の好きなレディオヘッドの歌。

 パラノイドが、アンドロイドになって踊っている。

 それから、朝日が昇ってきた。

 曙光。

 僕はニーチェを想い出した。

 そして、こう言った。

「力への意志、それは、あまりにも人間的な、人間的な、問題だ」

 するとルシフェルは、こう答える。

「日没までにはまだ時間がある。すなわち、日が落ちる時、世界は落ちて、君は恋に落ちる」

「何を言っているんだ?」

 と僕は言う。

 ルシフェルは尋ねる。

「さあ、ところで、青いアルルカン、君の意見を聞きたい」

 すると第五の人格が現れた。

 フリードリッヒ・ニーチェ。

「放っておくことだ、すべてを見抜いたなら」

 ツァラトゥストラはこう言った。

 そして、青いアルルカンがこう答える。

「平和が一番。僕が守っているんだよ、子を抱えた女性を」

 そして天使がラッパを吹いている。

 僕はこう言う。

「なあ、ニーチェ、そろそろ行こうか。イエスのところまで」

 すると、十字架が瞼の裏に兆した。

 僕は、一瞬、凍りついたように、目を伏せて、ペダルをこいだ。

 

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