第15話人類の自殺

 ジェノサイダーはある日、僕にこう言った。

「おい、お前、道を歩くときにバッハは聴いてはいけないぞ」

「……」

「運命愛、そう、お前が、望むままに生きろ。われは欲す。汝なすべし」

 とイメージのツアラトゥストラは叫んだ。

「われは欲す!」

 と僕は答える。

「うん。でもさ、時には踊ることも、とっても大事だから、音楽を聴こうね。最新の音楽を」

 青いアルルカンは言った。

「いや、俺はビジョンでいく」

 僕の痛みが呼応する。

 そして脳だけがぶっ飛んで、狂人の住む楽園めがけて、突っ走る。

 走り抜けた先に、ゴッホの太陽があった。太陽はゴッホの魂を代弁している。

 そして、僕の大好きな、似たフィーリングの、ペシミスティックな、弱さ、それは、真の強さ、そして憐れみ。

 僕は、闘う。何と? そう、楽園に咲くヒマワリを日差しが傷つけたなら、日差しすらも愛する、それが、例えば、神であり、悪魔であり、なんであろうと、愛が兆した瞬間に、ジェノサイダーは、トゥータティスになった。

「ん?」

 僕は首を傾げる。

「誰? 今のは?」

「そう、それは、ハートマークの十字架上の人間」

 僕はハートマークの人とあえて呼ぶ。

 いや、ハートマークでいい、と直感が言った。

 そして、ハートマークは、こう言った。

「希望なんてないんですよ。あるのは、君の心の中にいるその人格たちを一つに結ぶことそれが、きっと君自身を救うのです」

 とそして、ジェノサイダーたちは同時に頷いた。

「みんな罪びと、現実を背負ったときから、それはアダムがエヴァにキスした瞬間から、人類は丸裸で、それで葉っぱで恥部を覆って、はいさようなら」

 と僕は言う。

そして、神がこう言った。稲光、そう錯覚し、でも、急に雨が降り始めて、それが、神の涙。やがて、雨は大洪水になっていく。不意に舟が見えた。そして、あらゆる生命が、回帰していく。

 イメージのツァラトゥストラはこう気づいた。

 サクリファイス。クロスの夢。

 それは人類を、痛みを受けることによって逆説的に救うこと。

 しかし、僕はこう答える。

「ただ、愛を見守ること。そうすれば、神様が、愛を見守ってくれる」

 なんだそれは?

 とツアラトゥストラは首を傾げて言った。

「俺にもわからない!」

 と叫ぶと、人類が同時に唱和した。

「生きなさい!」

 それは怒号だった。僕らはみな震え上がった。そして、愛し合った。

 神は言う。

「それが、人間的な愛というものだ」と。

 しかし、自転車でペダルをこいで、田んぼのあぜ道を走っているときに、僕は気が付いた。

 


 

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