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 里花ちゃんを私達の家へ泊められないかと聞こうとしたら、カナエは私が何か口にする前に首を振った。


「それはダメ。だけど、今日は里花ちゃんが眠るまで一緒にいよう」


「……分かった」


 誰かの運命を変えたら他にも影響が出る……以前聞いたカナエの言葉が頭の中で響く。どうにかしたくても、それを思い出したら諦めるしかなかった。

 影響が出る、なんて言葉で濁しているけれど、つまり亡くなる運命になかった人がそうなってしまうこともあるということだ。そんな恐ろしいことは……できない。

 空が暗くなってきて、家路を歩く里花ちゃんの両手を私とカナエそれぞれが繋ぎ、夕日が家族のようなシルエットをつくる。カラスの鳴き声を聞きながら私達の同行を喜ぶ里花ちゃんの笑顔を見つめていると、過ぎゆく時間が儚く感じた。

 里花ちゃんの家には何もなく、カナエがいつもの如くどこから出してるのか分からない食事を用意してくれて三人でテーブルを囲み食べる。里花ちゃんは私達といる間、お母さんといた時の辛そうな表情を微塵も見せることはなかった。

 里花ちゃんが寝入ると、私とカナエは足音を立てないようにしながら外へ出る。

 里花ちゃんが眠るまでとは言わず、もっと一緒にいたかったけれど、カナエは応じてくれなかった。もしかしたら、明日の一日で里花ちゃんの身に何かが起こるのかもしれない。


「もう、里花ちゃんとは会えない……?」


「……仕方のないことだから」


 カナエは一瞬言葉に詰まった様子で、カナエ自身もこうすることが本意ではないことが伝わってくる。もっと里花ちゃんに何かしてあげたくて、カナエの言葉に食い下がりたい気持ちをぐっと呑み込むと、ただ前を見た。

 割り切らないと、私はもっとカナエを困らせてしまうだろう。カナエだって、やりたくてやっているわけはなさそうなのに無理を言うのは違う気がした。

 次の日、夜も更けた頃。カナエは私を連れて里花ちゃんの元へ向かうと、私を一人里花ちゃんの家の前へ置いて死神の役割を果たしに行く。私はただ黙ってその後ろ姿を見届けることしか出来ない。

 里花ちゃんと過ごした時間、笑顔を思い出すと涙が溢れてきて、塀にもたれて声を上げて泣いた。人が通り過ぎても見向きもされなかったから、きっとカナエは誰にも見えないようにしていたのだろう。

 帰り道、しばらく続いた沈黙を破ってカナエは言う。


「里花ちゃんのおかげで、あの頃を追体験できた気がする」


「あの頃……?」


 私が首を傾げると、カナエは首を振って「なんでもない」と呟く。

 あの頃、と聞いて浮かぶのは、カナエが人間だった頃だ。


「何か、大事な思い出?」


「……あの公園で、救われたの」


 言うつもりはなさそうだったのに、カナエはそれだけ答えてくれた。私もそれ以上聞くつもりはなかったけれど、もう聞かないでと言わんばかりに手を引っ張られ、次の瞬間私の身体は宙へ浮かんでいた。

 不安定だった私の身体をしっかりと抱きかかえ、カナエは私達の家へと飛んでいく。カナエの首元に掴まりながら、里花ちゃんの家の方向を見た。もう、里花ちゃんはあの家にはいない……なのに、私達と一緒にいるときに見せてくれた、あの笑顔が浮かんだ。

 カナエに見えないようにしながら声を押し殺して泣く。

 それに気づいているのかいないのか、カナエは私を抱き留める力を強くした。

 死を身近で感じたからこそ、生を儚く感じる。佐藤さんも里花ちゃんも、いなくなりたくてこの世界から旅立ってしまったわけではない。

 カナエの服の布を握りしめ、私は今自分がここに存在していることが当たり前の境地ではないことを深く思い知った。

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