ph126 コガネとクロガネのやり取りーsideクロガネー
「ユピテル、ヘルハウンドを攻撃」
「ヘルハウンド!!死の誘引だ!!」
「よし来た!」
くそ親父の攻撃に合わせてヘルハウンドのスキルを発動させる。これが決まれば俺の勝ちだと口角が上がった。
「私はMP2を消費して神の封印紋を発動させる。このフェイズ中、全てのモンスターはスキルを発動できない」
「なっ!」
チィッ!奴が最後に残してたのは封印紋かよ!!
「最後まで気を抜くなと教えただろう」
「くそが!!ぐっ!」
「ユピテル、ダブルアタックだ」
「がああああああ!!」
「クロガネ!!」
ブラックの体力が0になる。フィードバックで飛ばされた俺は結界で背中を強打し、地面に倒れ込んだ。
自身の敗北を突きつけられるように、バトルフィールドが消える。なんでだと、なんで奴に勝てねぇんだと地面を引っ掻きながら拳を握った。
俺と奴の違いはなんだ?俺に足りねぇのは何だ?奴に勝つにはどうすればいい?
何度も挑んでは負け続け、その圧倒的な実力差に敗北感を覚える。このまま勝てないのではないのかと諦めそうになるが、ここで折れる訳にはいかなかった。
「まだだ……まだ俺は、負けてねぇ!」
俺は絶対に奴に勝たなきゃなんねぇんだ。奴を超えなきゃならねぇ理由が俺にはある。サチコの側にいるために……サチコを守る為にゃあ奴を超えなきゃならねぇんだよ!何度負けようが関係ねぇ!ようは最後に勝ちゃいいんだ。諦めない限り、挑戦し続ける限り完全に負けた事にはならねぇ!!
「もう一回だ!もう一回!!次は絶対ぇ勝つ!」
乱れた呼吸はそのままに、
「お前は馬鹿なのか?」
「あ゛ぁ゛!?どういう意味だてめぇ!!」
「精霊界に行きたいのではなかったのか?」
「っ!?」
くそ親父に諭すように言われ、ピクリと指が動いた。
「目的を履き違えるな……お前がやるべき事は私に勝つことではない。……黒いマナの完全制御だろう」
親父の言葉に、唇を噛み締めながら俯く。
俺がくそ親父とマッチしていたのは、黒いマナを完全にコントロールするためだった。
黒いマナを纏う精霊ーー
なんで俺はいつも、サチコが危ねぇ時に側にいねぇんだって……どんだけ力をつけても、どんだけ守ると誓っても、肝心な時に側にいなきゃ意味ねぇだろと自分の無力さを痛感したんだ。
俺にサチコが安心できるぐれぇの力がねぇから、サチコは俺を頼らなかった。俺が黒いマナを完全に制御できねぇから、一緒に任務に行くことができなかった。
「……うるせぇ」
いずれ奴を超えなきゃならねぇ……三大財閥を相手にすんなら、奴以上の力を持つのはマストだ。でも、それは今じゃねぇ。
「言われなくとも分かってんだよ」
マナをコントロールするには、マッチすんのが一番手っ取り早い。ちんたらと1人で修行するよりも、遥かに効率がいいのだ。それも、ネオアース最強と謳われているコイツとのマッチは、より莫大な効果を得られる。
悔しいが、奴を超えるのは現状では難しい。サチコと共にいたいなら、黒いマナを制御する方に集中しねぇと……兎に角今は数をこなして感覚を掴め!この忌々しいマナを完全に制御できねぇ内はサチコの側にいる資格すらねぇんだから!
俺は顔の汚れを拳で拭い落とし、くそ親父と向かい合う。
「……もう一回だ。次は完全に操ってみせる」
「ふむ。本当にマナの制御が目的なのだな」
「あ?」
どういう意味だと眉を顰めていると、くそ親父は「私の勘も鈍った物だな」と1人納得するように呟いていた。
「気にするな、お前が私の想像を超える馬鹿で驚いただけだ」
「喧嘩売ってんのかてめぇ!!」
んだコイツ!さっきから人をコケにしやがって……そぉやって余裕ブッこいていられんのも今だけだ!近いうちに絶対ぇぎゃふんと言わせてやる!!
「……影法師のレベルは?」
「は?いきなり何言ってんだてめぇ」
「いいから答えろ」
脈略もない問い掛けに、イライラしながらも2だと答える。
「影薄サチコとマッチはしたのか?」
「当たり前ぇだろ。サチコとは何度もやってーー」
「ならば、マッチ中の影法師の様子は?」
「!」
親父にそこまで言われ、先ほどの問いの意図に気付いた。
「レベル2以下の精霊はお前のマナに耐えられない。何故影法師だけ影響を受けない?」
「そ、れは……サチコのマナの扱いが上手いから……」
「マナ使いになる前はどう説明する?そもそも、影薄サチコが黒いマナの影響を受けない様にコントロールできるのであれば、影法師がサタンや
親父の言う通りだった。俺のマナはサタンや
「お前は既に黒いマナを完全に制御している……無意識下ではあるが、影薄サチコの前では完全に物にしているのだ」
「サチコの、前だけで……」
俺は左手の薬指に着けている指輪を眺める。
「影薄サチコと共にいる時、何を考え、何を思い行動している?手掛かりはそこにあるだろう」
「んなの……」
サチコといる時なんて、サチコのことを考えてーー。
サチコとの思い出が、声が、姿が頭の中を埋め尽くし、好きだという想いが溢れそうになるのをすんでの所で堪える。くそ親父の前で不用意な発言をしてしまわないよう、口元を片手で覆ったが、体の中の血液は暴れる様に激しく巡り、全身が熱くなる。鏡を見なくても自分の顔が真っ赤である事が分かった。
「……まぁ、そういう事だ」
「そういう事ってどう言うことだ!!勝手に納得してんじゃねぇよ!!おい!聞けや!!勘違いすんなや!!おい!何無視して……こんっの!くそ親父いいいい!!」
別にサチコへの想いを隠している訳じゃねぇが、親父にバレるのはなんか癪だった。……つぅか、何が悲しくてあんな朴念仁と恋バナ紛いの事をしなきゃなんねぇんだ!!気色悪ぃ!!
俺がどうにか取り繕えないかと試行錯誤していると、くそ親父はマッチをする気がなくなったのが、トレーニングルームの出口の方へと足を向けた。俺に背を向けて歩き出したくそ親父に向かって逃げんのかと声を荒げても、見向きもしない。
「私は忙しいのだよ。無駄な事に割く時間はない」
「はぁ?勝手に決めんな!俺はまだ!!」
「お前の影薄サチコへの想いが、黒いマナを制御する為の鍵となるだろう」
だからこれ以上マッチをする必要はないのだと言い切り、親父は出口の前で足を止めた。
「……守ると決めたのだろう?ならば強くなれ。他の追随を許さぬ程にな……。失えば最後、どんなに願おうと、どんなに望もうとも……決して取り戻す事はできない……そう。決して、だ」
親父は自身の左手を見つめながら呟く。背を向けられたままで、その表情は分からないが、弱々しく聞こえた声色に親父らしくねぇなと居心地が悪くなった。
「……実際に、あったみてぇに言うんだな」
「そうだな」
親父は少しだけ振り返る。髪の隙間から見えた瞳が悲しく揺れている事に気づき、思わず動揺した。
「経験談だ」
そんな親父の表情を見ていられず、咄嗟に視線を逸らした。遠ざかる足音。親父がトレーニングルームから出て行ったのだろう。ブラックは完全に親父の足音が聞こえなくなってから、俺の隣に並んだ。
「……お前の親父さん、色々あったみたいだな」
ブラックの奴を労る様な声。俺も思うことがない訳ではない。けれど、それよりも優先すべき事が俺にはある。
「関係ねぇよ」
くそ親父にも何かあんのかもしんねぇ。でも、それは奴の事情であって俺には関係ねぇ事だ。
「何があろうと、俺のやる事は変わらねぇ」
ネオアースについての情報は大体集まった。そんで、くそ親父が大気のマナを操れる存在に拘る理由が、その存在の用途についての最悪な仮説が浮上してしまったのだ。この仮説通りならサチコはーー。
「全てを知った時、か……」
RSE事件跡地に潜入した時に、ローズクロス家当主を名乗るロボットと対峙した光景が蘇る。
ー『彼女が大切であればある程……ザザッ……全てを知った時、……ザザッ……君は僕の手を取るよ。……そう、君なら絶対に……ね……』ー
「……クロガネ?」
大丈夫かと、心配するように覗き込むブラックに問題ねぇと返しながら、左手で作った拳を強く握り込む。
そうなると決まった訳じゃねぇし、そうだとしても、まだ時間はある。他の解決策を見つけだしゃあいい話だ。
「俺は、サチコが嫌がる事はしねぇんだよ」
奴の手だけは絶対に取らねぇ。俺は俺のやり方でサチコを救う。
「ブラック」
その為には解決すべき問題が山積みだ。黒いマナの制御如きに手間取ってる暇はねぇ。サチコが安心して過ごせる様に……これからもずっと笑顔でいられる様に……。
「
天眼家の奴らから、精霊界にある天上世界で新たな
「データベースから情報を抜き取って来い」
サタンの実体化、ネオアース、歪みの発生、黒いマナ、
「……いつも通り、くそ親父にバレない様にな」
「はいよ」
「全く、精霊使いの荒いご主人様だぜ」と言いながら消えていくブラックに「うるせぇ」と返しながらトレーニングルームの出口へと向かう。
これで7柱いる内の4柱の情報を得る事ができる。後はそれをどう利用するかだ。
これからの動きについて考えをまとめていると、ピリリと着信を知らせる機械音が鳴る。
……面倒だな……。
あのメガネからの連絡なんざ、アイギスの任務関連以外あり得ない。サチコは電波チビと任務に行ってるし、サチコとの任務である可能性も低い。だったらわざわざ出る必要はねぇなと、今はやる事があるしこれは無視していいだろうと判断したところで、ふとサチコの好みのタイプが誰にでも紳士的で温和で無闇に暴力を振るわない奴である事を思い出す。
……無視は、非紳士的行為になんのか?
しばらく熟考し、悩みに悩んだ末通信に出ることにした。
『よかった!出てくれた!』
通話ボタンを押すと同時に聞こえるうるせぇ声。メガネの『てっきり出てくれないと思ってたよー』と言う言葉に、だったら電話すんなや死ねと通話を切りそうになるが、紳士的で温和な俺は切らなかった。
『クロガネくん。今、どこにいるの?』
「……」
『……クロガネくん?』
「要件は?」
『……うーん。そういうとこ、五金総帥にそっくりだね』
くそ親父に似ていると言われ、青筋が浮き立つのを感じたが無言で堪える。
『実は……また、新しい
新しい
「そんだけか?」
『あぁ!待ってまだ切らないで!!』
俺はまだあんのかよと、苛立ちを誤魔化すように舌打ちをした。
『ちょっと、その
「知るか。勝手にやってろ」
『五金アオガネ』
もう聞く事はないと思っていた名前。五金家ではタブーとされている名前を口にしたメガネに、通話を切ろうとした指が止まる。
『その
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