ph125 タイヨウVSハナビーsideタイヨウー

 ハナビの足元の魔法陣が回る。先攻はハナビのようだ。


「私のフェイズ……ドロー」

「ハナビっ……」


 ハナビがカードをドローする姿を見ながら、俺はぐっと拳を握った。


「私は手札から装備カード、猿の手を狒々に装備させる。狒々と山童でブルフレイムを攻撃」


 俺でも感じるほどの黒いマナ。早く助けなきゃハナビが危ないって事が嫌でも分かっちまう。


「俺はMP1を消費してアーチピットの……っ!!」


 ハナビの攻撃に合わせてカードの効果を発動させようとした。けど、初めてマナ使いとマッチした時の事を思い出して発動できなかった。


 俺がマナ使いじゃなかった時、マナ使いとのマッチで感じたフィードバックはとんでもなく痛かった。シロガネの父ちゃんが言ってたように、精霊の痛みが軽減されずに伝わったせいだろう。だから、ここで俺がカードの効果で反撃しちまったら、ハナビを傷つけちまうんじゃないかって、俺の下手なマナコントロールじゃ、ハナビが死んじまうじゃないかって思うと怖くて、動くことができなかった。


「ああああああ!!」


 狒々と山童の攻撃を受け、そのまま伝わる痛み。ブルフレイムの体力が5から2まで下がった。


「私はフェイズを終了させる」


 ハナビの攻撃が終わり、俺の足元の魔法陣が回りだす。ドローしなきゃいけないのに、手に力が入らない。


「タイヨウ!何をしている!早くドローしろ!」


 ヒョウガの声が聞こえる。頭では分かっていても、腕が上がらない。


「辛くとも戦わねばならん時がある!それが今だ!覚悟は決めたのだろう!!」


 そうだよ。何やってんだよ俺、早くドローしろよ。みんなを信じてマッチするんだろ!


「お、れの……」


 あぁもうなんで……何で動かないんだよ!!早くドローしないと、ハナビがもっともっと黒いマナで傷つくのに!!早くマッチを終わらせなきゃなんねぇのに!


「深呼吸ーーっ!!」


 サチコの珍しい大声が聞こえた。俺がビックリして振り替えると、サチコは結界に両手を着きながら俺を見ていた。


「!……サ、チコ?」

「深呼吸だよ!ほら、ゆっくり息を吸う!」

「え、あ……お、おう」


 サチコに気迫に押され、戸惑いながらもゆっくりと息を吸う。


「そう、いい感じだよ……そのままゆっくり息を吐いて……うん、上手」


 サチコに言われるままに深呼吸を続けていると、少しずつ心が落ち着いていった。


「今の落ち着いた気持ち、絶対に忘れないで。マナコントロールには必要な事だから」

「あ……」

「大丈夫、君のマナコントロールはちゃんと上手くなってる。君がハナビちゃんを傷つける事は絶対にない」


 サチコの自信が溢れた言葉に、心の中のモヤモヤが薄れていく。


「だから君は、君の思うがままのマッチをすればいい……みんなでハナビちゃんを助けよう」


 さっきまで動かなかった腕が動く。デッキの上に手を置いて、真っ直ぐハナビを見つめた。


「……サチコ、ありがとな」


 俺は思いっ切りドローして笑う。


「俺のフェイズだ!ドロー!」


 躊躇ってる暇はないんだ。ハナビを助けるんだろ、俺。


「俺はMP1を消費して大地の剣を自身に装備!」


 俺は1人じゃない。何があってもアグリッドが、サチコが、みんなが助けてくれる。


「俺は大地の剣の効果を発動!このフェイズ中、自身のフィールドにいるモンスター1体の攻撃力を1上げる!俺はアグリッドの攻撃力を3から4にする!」


 だから今は、ハナビを助ける事だけを考えてマッチをするんだ!


「さらにMP3を消費してアグリッドのスキル、大地を照らす炎を発動!このフェイズ中、フィールド上にいるモンスターの数分、自身の攻撃回数を増やす!」


 これでアグリッドの攻撃回数は6回になった。アーチピットの攻撃力は1、ブルフレイムの攻撃力は2だ。俺のMPは4も残ってるし、上手く通ればこのフェイズでハナビを助ける事ができる!


「アグリッド!山童を攻撃だ!」

「任せるんだゾ!」

「私は猿の手の効果を発動!」


 アグリッドが山童に向かって行くのと同時に、ハナビがカードの効果を発動させる。


「相手はこのカードを装備しているモンスター以外のモンスターを攻撃及び、効果ダメージの対象にできない」

「あ、れれ?体が勝手に動くんだゾ!?」


 山童に向かっていたアグリッドの体が、狒々の方へと向く。強制的に狒々を攻撃対象にさせられたようだ。


「子分んん!」

「大丈夫だ!そのまま狒々を攻撃しろ!」

「MP3を消費して、狒々のスキル翻弄する暗雲を発動。自身は相手モンスターの攻撃及び効果ダメージの対象にならない」

「なっ!?」


 狒々に当たろうとしたアグリッドの拳が止まる。猿の手の効果と狒々のスキル効果で、ハナビのモンスターを攻撃する事が出来なくなってしまった。


「こ、攻撃できないんだゾぉ!どうするんだゾぉ!!」


 アグリッドが涙目で見てくるけど、大丈夫だと安心させるように頷いてから、フェイズを終了させた。


「私のフェイズ……ドロー」


 またハナビのフェイズへと移った。ハナビのMPが5に回復して、手札が6枚になる。


「猿の手の効果を発動。このカードを装備しているモンスターが相手フェイズ時にダメージを受けなかった時、自身のフェイズ時のMP消費量が1軽減する」


 猿の手にそんな効果が!?もしかして、1フェイズ目に攻めてこなかったのも、ここで決めるため!?


「私はMP2を消費して狒々のスキル、緋色の染料を発動。このフェイズ中、自身の装備している武器に自身の残り体力の半分の攻撃力を付与する。猿の手に攻撃力7が付与される」


 猿の手に攻撃力7だって!?じゃあ狒々の攻撃力は9になったのか!?


「狒々でアグリッドを攻撃」


 ここでアグリッドへの攻撃を通したら、一気に不利になる!


「俺はMP1を消費してアーチピットのスキル、落とし穴を発動!1フェイズに1度だけ相手モンスターの攻撃を失敗させ、ダメージ1を与える!」


 今度こそ発動できたスキル。狒々の足元に落とし穴が出来る。


「私はMP1を消費して山童のスキル、発破音を発動。1フェイズに1度、相手モンスター1のスキルを不能状態にする」


 けれど、発破音に驚いたアーチピットの動きが止まった。落とし穴が出来た地面も元通りになり、狒々がアグリッドに向かって来た。


「俺はMP1を消費して魔法カード、大地の壁を発動!相手モンスターの攻撃によるダメージを1度だけ0にする!」


 狒々の攻撃が届く前に現れた大地の壁。これでアグリッドを守れたと安心していると、ハナビが手札から1枚のカードを取り出した。


「私は手札から魔法カード、攻撃祈願を発動。自身のモンスターが攻撃で相手モンスターにダメージを与える事が出来なかった時、もう一度だけ攻撃する事ができる。私は狒々でアグリッドを再度攻撃する」

「うわあああ!」

「アグリッド!?うぐっ!!」


 アグリッドの体力が15から6まで下がる。


「私はMP1を消費して山童のスキル、童の手助けを発動。自身のフィールド上にいるモンスター1体を選択する。選択したモンスターの攻撃が成功した時、攻撃によって相手に与えたダメージ分の体力を回復する」


 狒々の体力が15から24まで上がった。体力がどんどん離されていく。


「手札から魔法カード、健全なる魂を発動。自身のモンスターが回復した時、その数値分のMPを回復する」


 ハナビのMPが10まで回復した。このまま引き離されてたまるかと、俺も魔法カードを発動させる。


「俺はMP1を消費して、手札から魔法カード燃え上がる闘志を発動!自身のモンスターの体力が減った時、その数値の半分のMPを回復する!」

「私は山童でアグリッドを攻撃」

「うぐ!」

「……これで私のフェイズは終了させる」


 良かった……なんとか耐え切った……。


「俺のフェイズだ!ドロー!!」


 狒々のスキルは自分の体力が上がれば上がるほど攻撃力が上がる。これ以上上げさせる訳にはいかない!なんとか狒々の体力を削らねぇと。


「私は猿の手の効果を発動。相手はこのモンスター以外のモンスターを攻撃及び、効果ダメージの対象にできない」


 ハナビは猿の手の効果を発動させた。そして、ハナビのMPは10もある。次に何をやるのかは簡単に分かった。


「私はMP3を消費して狒々のスキル、翻弄する暗雲を発動。自身は相手モンスターの攻撃及び、効果ダメージの対象にならない」


 2フェイズ目と同じ流れ。これで俺はハナビのモンスターを攻撃できなくなった。でも!


「俺は大地の剣の効果を発動!ブルフレイムの攻撃力を2から3にする」


 対象にできないのであれば、対象を取らなければいい!


「MP1を消費して、ブルフレイムのスキル飛散する火花を発動!自身の攻撃を放棄する代わりに、自身の攻撃力分のダメージを相手フィールド上にいる全てのモンスターに与える!」


 ここで狒々がダメージを受けたら次のフェイズで猿の手は発動できない!だからハナビは絶対に山童のスキルを発動させる!


「私はMP2を消費して山童のスキル、発破音を発動。1フェイズに一度、相手モンスター1体のスキルを使用不能状態にする。対象はブルフレイム」


 やっぱり発破音がきた!これでアグリッドのスキルを不能状態にされる心配はない!!


「俺はMP2を消費して地龍の大剣をアグリッドに装備!そんで、地龍の大剣の効果を発動!相手モンスター1体の攻撃力を0にして、減少した数値分の攻撃力を得る!更にMP3を消費してアグリッドのスキル、大地を照らす炎を発動だ!これでアグリッドの攻撃回数は6回になった!!アグリッド!狒々を攻撃だ!」

「狒々のスキル効果で、攻撃対象にはできーー」

「俺はここで地龍の大剣の効果を発動!この剣の効果によって攻撃力を奪われたモンスターを攻撃する時、そのモンスターのスキル効果を無視して攻撃できる!!」


 これで狒々を攻撃対象にできる。山童のスキルも怖くない!


「私はMP2を消費して、魔法カード自責の怨念を発動。フィールド上にいるモンスターの攻撃力分のダメージを、相手モンスター1体に与える。私はアグリッドを選択し、ダメージ対象もアグリッドとする」


 アグリッドの今の攻撃力は5。残り体力も5だ。このままこの魔法カードを通せばアグリッドは消滅しちまう!


「俺はMP1を消費して、魔法カード大地の誘導を発動!自身のモンスター1体に生じたダメージを別のモンスターに変更する!俺は効果ダメージ対象をアグリッドからブルフレイムに変更だ!」


 ブルフレイムの体力が0になる。ブルフレイムは消滅して、アグリッドの攻撃回数も6回から5回に減るがかまわない!集中しろ、俺!大きく深呼吸して、アグリッドの攻撃に合わせてマナを操るんだ!


「いけぇ!アグリッド!」

「うおおおおお!なんだゾ!」


 俺は、絶対にハナビを傷つけない!!


 アグリッドの攻撃が狒々に当たる。ハナビは無表情のままで、痛がっている様子はなかった。よし、これならいける!!


「アグリッド!そのまま連続攻撃だ!」

「任せろ!なんだゾ!」


 1回、2回3回とアグリッドの攻撃が決まる。4回目の攻撃もそのまま通り、狒々の残り体力は4になった。あと1回攻撃を当てれば狒々を倒せる、そのまま山童を倒せば勝てる!そう、確信したタイミングでハナビは魔法カードを発動させた。


「私はMP1を消費して魔法カード、猿公の悪癖を発動。自身フィールド上にある装備カードを別のモンスターに移す。私は猿の手を狒々から山童に移動させる」


 地龍の大剣の効果では装備カードの効果を無効にできない。狒々を狙っていたアグリッドの攻撃は逸れて山童を攻撃した。山童の体力が残り5になる。


 今の狒々は攻撃の対象に出来ない。ここで倒しておきたかっま。でも、今の俺の手札には猿の手の効果を破れるカードはない。


「……俺はアーチピットで山童を攻撃!」


 アーチピットの攻撃通した山童の体力は4になる。狒々も残り体力を4も残したままハナビのフィールドに立っている。


「なぁ、ヒョウガ」

「……なんだ?」

「黒いマナに操られると、マッチも強くなったりすんのか?」

「いや……黒いマナはあくまでも精神汚染するだけだ。マッチの実力は本人のままだろう」

「そっか……」


 正直、ハナビなら簡単に倒せると思っていた。ハナビを長く苦しませたくなかったし、このフェイズで本当に決めるつもりだったんだ。でも、倒せなかった。


 俺はずっと、ハナビは守らなきゃいけないって思ってた。ハナビは昔から誰かに泣かされたり、危ない目に合う事が多かったから……だから俺が守らなきゃって……ハナビじゃ抵抗できないから、俺が守らなきゃいけないんだって決めつけてた。……でも、それは……ハナビは弱いって……俺より下だって決めつけてるのと同じだったのだろう。


「ごめん、ハナビ……」


 俺、お前の事を分かってるつもりで、全然分かってなかった。今だって全力で戦って追い詰められてんのに……一方的に守る存在だって決めつけて……お前の事、ちゃんと見れてなかったんだな……。


「俺のフェイズは終了だ!」

「私のフェイズ……ドロー」


 ハナビのMPが5に、手札が3枚になる。俺のMPは4で手札は2枚だ。


「私は手札から道具カード、呪いの数珠を使用。自身の装備カードを1枚破壊し、相手の装備カードも1枚破壊する。私は猿の手を破壊して地龍の大剣を破壊する」


 粉々に砕かれる地龍の大剣。カードがダストゾーンに送られるのを見たあと、ハナビの方へと顔を向ける。


「私はMP1を消費して手札から呪詛棍棒を狒々に装備。自身のレベルと同じ数値分の攻撃力を得る」


 狒々の攻撃力が2から5になった。アーチピットも、アグリッドも残り体力は5。この攻撃が通ればどちらか片方は消滅する。


「狒々でアグリッドを攻撃」


 ハナビが狙ったのはアグリッドだった。俺はアグリッドを倒される訳にはいかないと、アーチピットのスキルを発動させる。


「俺はMP1を消費してアーチピットのスキル、落とし穴を発動!相手モンスターの攻撃を失敗させ、ダメージ1を与える!!」

「私はMP2を消費して山童のスキル、発破音を発動してアーチピットをスキル使用不能状態にする」


 けど、それも山童のスキルで無効にされる。俺の考えなんてお見通しだと言わんばかりに、俺の手を全部打っていく。


「ハナビ、お前……こんなに、強かったんだな……」


 でも、俺はお前に負ける訳にはいかない。お前だけには負けたくないんだ。


「俺は大地の剣の効果を発動!アグリッドの攻撃力を3から4に上げる!」


 例えお前が強かったとしても……これからもっともっと強くなったとしても……。


「更にMP1を消費して手札から魔法カード大地から蘇る力を発動!俺はブルフレイムのスキル飛散する火花を発動させる!」


 お前を守るのは俺でありたいから。


「俺はアグリッドの攻撃行動を放棄する代わりに、相手フィールド上にいる全てのモンスターにアグリッドと同じ攻撃力のダメージを与える!!」


 お前を守り続けたいからこそ負けられないんだ!!


 狒々も山童も残り体力は4。どちらもアグリッドの攻撃力と同じだ。


「ハナビ……」


 アグリッドから放たれた火花が狒々と山童に降りかかる。


「……遅くなってごめん」


 狒々と山童の体力が0になると同時に、ハナビに向かって駆け出す。バトルフィールドの光が消えて、ハナビの体がフラついていた。


「ハナビ!!」


 俺はハナビを抱きしめ、支える。ハナビの存在をしっかり確かめながら強く抱きしめた。


 ーーーーちゃんと助けられて良かった……。


 これでもう安心だと思っていたのに、ハナビの体から黒いマナが噴き出した。


「ああああああああ!!」

「!?は、ナビ!?どうしたんだよ!?」


 突然、叫び声を上げるハナビ。黒いマナの暴走だろうか?痛々しいハナビの姿に、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


「ハナビ!おい!しっかりしろ!」

「あああああああ!!」

「ハナビ!!」

「タイヨウくん!そのまま抱えてて!!」


 俺の頭が真っ白になりかけていると、いつの間にかサチコが隣に立っていた。


「サチコ!どうしよう!マッチしたのに、ちゃんと勝ったのにハナビが、ハナビが!」

「大丈夫だから落ち着いて!……ユカリちゃん!シロガネくん!」

「分かってるさ!」


 シロガネもサチコの隣に並んでハナビを見ている。


「こ、れは……」

「なんだ!?どうしたんだ!?」

「サチコさんと天眼ユカリは周囲を警戒!ヒョウガくんはハナビちゃんに同調して精霊との繋がりを断ってくれ!」

「精霊との繋がりって……ハナビに何があったんだ!?」

「タイヨウくんごめん!今は説明してる時間はない!とにかく君は彼女をそのまま支えてーーくそっ、きたか!」


 七大魔王ヴェンディダードが現れた時と同じようなヒビが空中にできる。シロガネは焦った顔で辺りを見渡しながら、大きく口を開いた。


「みんな!聞いてくれ!また歪みが発生する!しかも大規模な物だ!僕はコレの発生原因を探す!サチコさんは歪みの拡大を抑えて!天眼ユカリは歪みから現れる精霊の対処を!」


 シロガネの指示通りにみんなが動き出す。俺は訳が分からず、せめてハナビは守ろうとグッと引き寄せた。


「おいおい、面白ェ事になってんじゃねェか」

「お前はっ!?」


 すると、今までいなかった渡守センが槍を肩に担ぎながら現れた。


「テメェ等はそんままお坊ちゃんの言う通りにしてろ、大元は俺が……」



「ブッ壊してやるからよォォ!!」


 渡守センは俺たちの横を通り過ぎ、そのまま歪みの一番近くにあった柱を攻撃した。


「これで全部の筈だ!そんまま閉めろ!影女!!」

「ナイス!渡守くん!!」


 渡守センの声に応えたサチコは、歪みの方へと手を向けながらマナを送っていた。


「サチコちゃん!僕も手伝うよ!」


 天眼ユカリがサチコを手伝おうとしたけど、サチコは首を振って断った。


「私よりもハナビちゃんをお願い!」

「え、あ。うん!」


 天眼ユカリはサチコを気にしながらも、俺たちの方へと向かって走ってきた。そしてヒョウガの隣にしゃがみ込んだかと思うと、これはと目を丸くしていた。


「な、なんだ?これはってなんなんだ!?」

「……黒いマナの触媒にされたようだねぇ。このままだと危険だよ」

「触媒って……そんな、ハナビはどうなるんだよ!!」

「落ち着いてよ。触媒といっても一時的な物だし、黒いマナの精霊との繋がりを絶って、あの歪みを修復してしまえば問題ないからさぁ。まぁ、ヒョウガくんだけなら時間がかかりそうだけど?僕なら秒で終わるよ。だからサチコちゃんも僕に頼んだんでしょ。君はそのままその子の名前を呼んでればいい……その方がもっと早く終わるしね」


 ヒョウガと同じように、目を閉じて集中し始めた天眼ユカリ。サチコもどんどん歪みを小さくしていた。


 状況はちゃんと良くなってる。でも、1秒がすっごく長い。不安な気持ちが口から飛び出そうになった。それでも皆を信じてハナビの名前を呼んでいると、ハナビから黒いマナの気配がなくなった。


「う、んん……」

「ハナビ!!」


 うっすらと目を開けたハナビに、心の中にあった黒いモヤがじわじわと消えていく。


「たい、よう……くん?」

「ハナビ!?気がついたのか!?大丈夫か!痛い所はねぇか!?」

「うん。大丈夫……私は大丈夫だから……そんな顔しないで……」


 ハナビは悲しそうな顔で、俺の顔に手を当てた。


「迷惑かけて、ごめん、ね。私のせいで……こんな……」

「ハナビのせいなんかじゃねぇだろ!!迷惑なんかでもねぇ!……そんな言葉は……聞きたく、ない。俺は……ただ……っ!!」


 ハナビが無事で良かったとぎゅっと抱きしめる。色々と言いたい事はあったけど、これが精一杯でずっと抱き締めていると、ハナビは少し考えるように間をあけてから口を開いた。


「そっか……じゃあ、助けてくれて……ありがとう……」

「……、おう!!」


 ハナビのお礼の言葉に、助けることが出来たという実感がわいて、自然と笑顔になる。


「本当に、ありが……」

「ハナビ!?」


 でも、不自然にハナビの言葉が止まる。また心配が込み上げてきて必死に呼びかけていると、シロガネが俺を落ち着かせるように大丈夫だよと言った。


「疲れて寝てるだけさ。時期に目を覚ますよ」

「シロガネ……」

「アイギスの医療班にも連絡したからさ、ゆっくり彼女を休ませてあげよう」

「そうか……そうだな……」


 俺はハナビを優しく抱え直してから立ち上がった。


「ありがとな、シロガネ」

「お安いご用さ。君のためなら、ね」


 シロガネがウインクして応える。俺はヒョウガと天眼ユカリにもお礼を伝えてから、サチコにも言おうと周囲を見ると、サチコが渡守センに蹴り飛ばされていた。


「サチコ!?」

「影薄!?貴様!何を……」

「あ゛?ンだよテメェ等……面倒臭ェなァ」


 ヒョウガが、ズカズカと渡守センに近づきながら怒っている。でも、渡守センは、気にぜずサチコに何かを囁いていた。なんて言っていたのかは聞こえなかったけど、サチコはそれに6秒ですと返していた。


「バカかテメェ、5秒だろ」

「いけると思ったんですよ」

「誰が尻拭いすると思ってんだ、殺すぞ」

「お手柔らかにお願いします」

「……はぁ」

「うごふっ!?」


 渡守センがサチコを肩に担いだ。ヒョウガは慌てて止めようとしてたけど、渡守センは構わずフレースヴェルグを呼び出して背に乗った。


「貴様!影薄を離せ!!」

「ウッセェなァ……ピーピーピーピー喚くなよシスコンくん……おい、お坊ちゃま!」

「……僕の事かな?」

「テメェ等はその姫さんを連れて先に帰ってろ……アイギスに戻りゃァ文句はねェだろ」

「貴様!聞いているのか!?」


 渡守センは、無視するなと怒鳴るヒョウガをスルーしてシロガネと向き合う。


「まぁ、別にいいけど……よからぬ事を企んでるんじゃないだろうね?」

「誰がすっかよ、ンな面倒な事」


 馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う渡守センに、シロガネは目を細めながら言い返す。


「君には前科があるからね、信用できないんだよ」

「そォかい、それじゃあ言動に気をつけねェとなァ?」


 もういいかと、渡守センはサチコをフレースヴェルグの背中に埋めた。今にも飛び立ちそうだったけど、飛び出した天眼ユカリが引き留める。


「センくん」


 そして、天眼ユカリの姿を見て、俺はハッとある事に気づいた。そういえばと、サチコが大好きなあいつが、渡守センのサチコに対する扱いに何も言わないのは変だなと思った。


 いつもなら絶対に何か言うのに、何でだろう?


「任せて、いいんだね?」

「……なんの話だ?」

「君になら……いや、なんでもないよ!サチコちゃんに変な事したら許さないからね!」

「ざけんな!!誰がするか!!」


 妙な勘違いすんなと怒鳴りながら、渡守センは、フレースヴェルグを飛び立たせた。天眼ユカリが言いかけた言葉が気になったけど、渡守センから嫌な感じはしなかったし、なんとなく大丈夫そうだと思ったんだ。だから今はハナビを休ませた方がいいだろうと、不満そうなヒョウガを説得してから、シロガネに案内されるままにアイギスまで戻った。



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