ph109 新たな相棒
「タイヨウくん!精霊とのマッチはその精霊と同レベルまでという召喚制限がある!気をつけてくれ!!」
「分かった!ありがとな、シロガネ!」
タイヨウくんは植物系のモンスターと向かい合う。そして、
「楽しいマッチにしようぜ!コーリング、アグリッド!」
「負けないんだゾ!」
タイヨウくんに召喚されたアグリッドは炎に包まれ、立派な成竜となった。しかし、姿は大人になっても、頑張るんだゾ!と言う彼の口調は幼いままのようだ。
「キシャアアアアアア!!」
相手の精霊も戦闘態勢になったようだ。マッチが始まり、一色触発の空気が流れる。
私は情報収集を兼ねてヒョウガくんにカードを見せてもらい、精霊の能力を確認する。あの植物系の精霊の名前はヒトクイソウ……物騒な名前だな。レベル3で属性は植物、闇、大地か……対するアグリッドの属性は大地、炎、竜か……なるほど、炎の大地で太陽ね、分かりやすい。
タイヨウくんのデッキは大地、ブリテン主軸のデッキだけど、竜属性のカードもそこそこ入れていたし、アグリッドとの相性も悪くないだろう。
「俺のフェイズだな!ドロー!俺は手札から装備カード、大地の斧をアグリッドに装備!これでアグリッドの攻撃は3から4になる!そんでアグリッドでヒトクイソウを攻撃だ!!」
アグリッドが斧を振り回しながらヒトクイソウを攻撃する。防御系のカードはなかったのか、ヒトクイソウはそのまま攻撃を受けた。ヒトクイソウの体力が15から11まで下がる。
……いや、ちょっと待て。普通に脳内でマッチの状況を整理してたけど、精霊ってマッチできるの?どうやってカードをドローすんの?魔法カードの発動は?あの精霊、人間の言葉は喋れないのか、キシャアみたいな鳴き声しか言ってないけどまともにマッチできるの?というか、マッチできる知能はあるの?
「……あの、シロガネくん」
「なんだい?今タイヨウくんの応援で忙しいんだけど」
「あ、すみません……ただ、精霊ってマッチできるんですか?」
「君は馬鹿なのか?それとも目が悪いのかな?この状況を見てよくそんな事が言えるね」
そうなんだけど!シロガネくんの言うことはご最もなんだけど!そうじゃないんだよ!
「……聞き方を変えます。レベル3以上のモンスターを送還する時ってどうやるんですか?」
「簡単さ。今みたい精霊をマッチで倒し、弱らせてから送るんだよ」
「そうなんですね。教えてくださりありがとうございます」
マッチを挟む意味いいい!!当然のようにマッチ言うなよ!普通に攻撃で弱らせりゃいいじゃん!マッチしなくても物理で弱らせばいいじゃん!筋力ゴリラの癖に!!お前の二次元特有の程よい筋肉はこういう時の為に鍛えたんじゃないのかよ!?
でも、シロガネくんの言葉で精霊も問題なくマッチができるのは分かった。この世界ではどう足掻いてもマッチする羽目になるようだ。やはりマッチか、マッチが全てを解決するのか。対話がダメならマッチで殴れば良いってか?やかましいわ!!
「キシャアアアアア!」
ヒトクイソウの咆哮にビクリと肩が揺れる。そうだった。タイヨウくんがマッチ中だったと思考を戻す。
ヒトクイソウの体から光り輝くカードが現れ、目の前に浮かんでいる手札に加わる。あ、そういう感じでドローするんですね。
浮かんでいるカード6枚のうちの3枚が飛び出し、効果を発動する。
「キシャアア!」
最初に発動したカードは魔法カード、根の強化。MP1を消費してこのフェイズ中、モンスタースキルによる回復量を2倍にする。更に、手札から道具カード栄養剤を使用してこのフェイズ中の自身の攻撃力を1アップし、攻撃力が2から3になった。最後にMP1を消費して装備カード、荊棘の装飾を装備した。これで相手モンスターへの攻撃が成功した時、自身の攻撃力分の追加ダメージを負わせることが出来る。
なんか、あれだな。言葉が喋れない相手だとカードの効果を読まないといけなくなるから面倒だな。もし、今後精霊とマッチする事があれば、なるべく人の言葉を喋れる精霊を選ぼう。
ヒトクイソウは攻撃の準備が整ったのか、アグリッドに向かって蔦を伸ばす。
「俺はMP1を消費して手札から魔法カード、大地の壁を発動!相手モンスターの攻撃によるダメージを0にする!」
地面が盛り上がり、大きな土の壁を形成した。ヒトクイソウの蔦は壁に阻まれ、アグリッドに届かない。
「キイシャアアアア!」
ヒトクイソウが奇声を上げる。MP1を消費して魔法カード、侵食する根を発動させた。植物系のモンスター1体に貫通の効果を付与する魔法カードだ。土壁の中に蔦から伸びた根が侵食していき、壁が破壊される。そのまま荊棘を纏った蔦がアグリッドの体を切り裂いた。
「ぐっ!!」
タイヨウくんはフィードバックの痛みで顔を歪ませる。しかし、ヒトクイソウの攻撃は終わらない。
ヒトクイソウは荊棘の装飾の効果を発動させ、追加ダメージをアグリッドに与えた。
「あああああああ!!」
「うわあ!」
「タイヨウくん!!」
「タイヨウ!」
蔦が引かれていくのと同時に、装飾された荊棘によって傷口が抉られる。見てるだけで痛そうだ。
タイヨウくんはふらつきながらも、真っ直ぐとヒトクイソウから視線を逸らさなかった。ヒトクイソウはMP3を消費して自身のスキル、吸血を発動させる。相手モンスターを攻撃によってダメージを与えた時、その与えたダメージ分の数値分回復するスキルだ。荊棘の装飾のダメージもカウントされているのか、ヒトクイソウの体力は11から23まで回復した。
これで攻撃が終わり、タイヨウくんのフェイズに移行すると思っていたが、ヒトクイソウは更にMP1を消費して魔法カード、種の射出を発動させる。効果はこのフェイズ中、回復した体力分のダメージを相手モンスター1体に与えるものだ。この効果によって、アグリッドの残り体力が9から3になった。
タイヨウくんは膝を突きながらフィードバックのダメージを耐えた。そして、ヒトクイソウがフェイズを終わらせるのを見ると、ゆっくりと立ち上がった。
「へへっ、俺のフェイズだな……ドロー!」
タイヨウくんは勢いよくドローをする。自分の手札を確認し、ニッと笑った。
「いよっし!勝つぞ!アグリッド!」
「当たり前なんだゾ!!」
アグリッドの残り体力は3だが、手札は5枚。MPは7もある。対するヒトクイソウは体力は23もあるが、手札もMPも1。これはもう大丈夫だなと安心して見守る。
「俺は手札から道具カード地精霊の金槌を使用!大地の斧を破壊して、地龍の大剣をアグリッドに装備だ!地龍の大剣の効果を発動!相手モンスター1体の攻撃力を0にして、減少した数値分の攻撃力を加算する!」
アグリッドの攻撃力が5になる。
「更に俺は道具カード、世界樹の枯れ枝を使用!このフェイズ中、自身のフィールドにいるモンスター1体にフィールドにいる大地属性のモンスターの数だけ攻撃力を加算する!」
フィールドにいる大地属性のモンスターはアグリッドとヒトクイソウの2体だ。アグリッドの攻撃力が7まで上がった。
「アグリッド!ヒトクイソウを攻撃だ!!」
「うおおおなんだゾ!!」
アグリッドは地龍の大剣でヒトクイソウの蔦を切り落とした。しかし、ヒトクイソウは倒れない。まだ体力は16も残っている。
「俺はMP3を消費してアグリッドのスキル、大地を照らす炎を発動する!アグリッド!」
「ぐぬぬぬぬ!パワー全・開なんだゾおお!!」
「これでフィールド上に存在するモンスターの数分、攻撃力が加算され、攻撃回数も増える!これでアグリッドは後2回攻撃できる!いけぇ!ヒトクイソウを攻撃だぁ!」
アグリッドの攻撃力が更に上がり9となった。あと2回ダメージが通ればヒトクイソウを倒せる。
アグリッドの攻撃が当たり、ヒトクイソウの体力が残り7になる。もう一回とアグリッドが大剣を振り上げたタイミングでヒトクイソウが鳴いた。
MP1を消費して魔法カード、力を吸い取る根を発動させた。効果は相手の攻撃力分の体力を得るだ。ヒトクイソウの体力が16まで回復し、アグリッドの攻撃が当たってもまた7残った。
「そ、そんなんずるいんだゾおお!!」
「大丈夫だぜ!」
トドメを刺せなかった事にアグリッドは泣き叫ぶ。しかし、タイヨウくんは余裕の笑みを浮かべながら魔法カードを発動させた。
「俺はMP1を消費して魔法カード、竜への鼓舞を発動!俺からの声援だ!受け取れ、アグリッド!」
「ふえ?」
「自身のフィールドにいる竜属性モンスターを攻撃してない状態に戻す!」
アグリッドの体が輝き、魔法カードの効果がその身に宿る。
「勝つって言ったろ?」
「タ、イヨウ……」
「だからさ、泣くなよ」
「な、泣いてなんかいないんだゾ!!」
アグリッドは頭をフルフルと横に振って涙を吹き飛ばした。そして、最後の攻撃をヒトクイソウに仕掛ける。
手札もMPも0のヒトクイソウに攻撃を防ぐ手段はない。アグリッドの攻撃が当たり、ヒトクイソウの体力は0になった。タイヨウくんの勝利である。
マッチが終わり、バトルフィールドが消えていく。結界も消えてシロガネくんがタイヨウくんに向かって走り出した。
「タイヨウくん、大丈夫かい!?怪我は?どこか痛いところはないかい!?」
「うわわ!だ、大丈夫だって!この通り、俺は全然元気だぜ!」
「それなら良いんだけど……」
シロガネくんがタイヨウくんの安否確認する傍らで、私は歪みの位置を特定させる為に集中する。
ここからは、あまり離れてなさそうだ。精霊はシロガネくんに任せて問題ない。私は歪みの修復に向かおうと一歩踏み出した。
「サチコ!」
タイヨウくんに名前を呼ばれ、止まる足。けれど、振り返れなかった。私はタイヨウくんの決意を蔑ろにしたのだ。結果的には良かったかもしれないが、面と向かって彼を見る勇気はなかった。
「ありがとな!」
タイヨウくんの言葉に、思わず目を見開く。ありがとう、だって?私は別に、彼にお礼を言われるような事はしていない。彼の気持ちを考慮せず、合理的だと思った考えを、私の意見を押し付けただけなのだ。
「俺、目が覚めたよ」
「…………」
「ドライグを待つのはもう止める」
待つのを止める、か。私の言葉はそこまで彼を追い詰めてしまったのか……。罪悪感できゅっと胸が痛んだ。
「やっぱ待つってのは性に合わねぇや。だから俺がドライグを迎えに行く事にした」
「え」
「コイツと一緒にな!」
私が後ろを振り向くと、タイヨウくんが親指でアグリッドを指差しながら笑っていた。今度は作り笑顔なんかじゃない。本当の笑みを浮かべていたんだ。
「なんか、ずっとモヤモヤしてたけどスッキリした。サチコのおかげだな!本当にありがとな!」
「別に……感謝されるものではないよ……私の考えを押し付けただけだし……」
「でも嬉しかったから言いたいんだ。ありがとな!サチコ!」
あぁ、本当に叶わないな。さすがタイヨウくんだ。何でも前向きに捉えて、眩しすぎて、そのポジティブ思考に否定の言葉か消されていく。
「そう、ですか……そこまで言うのなら……素直に受け取るよ……どういたしまして」
「おう!」
タイヨウくんの器の大きさを再認識しながら、止めていた足を動かした。
「じゃあ、私は歪みの修復に向かうけど……シロガネくん、精霊は任せても良いですか?」
「最初からそう言っていたじゃないか。君の頭はニワトリ以下なのかい?」
コ イ ツ は !!
本当に私の事嫌いだな!!隙あらば嫌味言ってきやがって!表情には出さないけど結構傷ついているんだからな!
そう心の中で文句を言いつつも、口に出したら3倍以上で返ってくるので、諦めてヒョウガくんと一緒に歪みの場所へと向かった。
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