ph103 VSサタン決着ーsideタイヨウー

「俺のフェイズだな……ドロー!!」


 俺はカードを手札に加えながら、サタンを見る。


 サタンの3つあるスキルのうち2つは分かった。どっちも強力なスキルだ。特に次元操作なんて、本気でやべぇ。


「俺は手札から大地の斧をドライグに装備!さらに手札から道具カード、地精霊の金槌を使用!自身のモンスターが装備している装備カードを破壊し、デッキから大地属性の装備カードを装備させる!!俺はデッキから赤龍の秘宝をドライグに装備!!」


 正直、どうやって勝つのかなんて分かんねぇし、本当に勝てるのかも分かんねぇ。


「俺はMPをーー」

「おおーっと!その前に俺ちゃん、MP1を消費して魔法カード魂の代償を発動!フェイクソウルを一つ使い、自身のモンスターのスキルを一つ発動する事ができる!!俺ちゃんが発動するのは黒マナの侵食だぁ!!」


 けど!それでも俺は!


「効果は相手のMPを全て奪う!!」


 絶対に勝つんだ!!


「ゔっ!」


 元々のMPが0だったヒョウガは何ともなかったけど、俺とシロガネは黒いマナに襲われてMPが0になった。ヒョウガの父ちゃんを操っているナニカのMPを5も回復させちまった。


「俺ちゃんはぁ!MP5を消費してサタンのスキル、次元操作を発動ぉ!強制的に俺のフェイズまで進めるぜぇ!!」


 でも、どんなにピンチになっても絶対に諦めねぇ!体力が0になる瞬間まで、いや、0になっても諦めない!!


「さぁ、俺ちゃんのフェイズだぁ!ドロー!!」


 最後まで仲間を!デッキを!みんなを信じる!


「俺ちゃんはぁ、MP1を消費して手札から魔法カード深淵の力を発動!!このフェイズ中、選択したモンスター1体を自身のフェイクソウル分だけ攻撃力を加算し、相手のモンスターの数だけ攻撃できる!!」


 サタンのフェイクソウルは5。サタンの攻撃力は8になった。


「さぁサタン!ドライグを攻撃だぁ!!」

「ぐぬぅ!!」

「うああああああ!!」

「タイヨウ!」

「タイヨウくん!!」


 ドライグの体力が1になった。サタンの攻撃はあと2回残ってる。ミカエルの体力は3、ニドヘッグルは5。全員一発でもくらったら終わりだ。


「さぁて、誰から殺すかぁ?んー、迷っちゃうなぁ。俺ちゃん選べなぁい。ど、れ、に、し、よ、う、か、なぁ?……きぃめた」


 ヒョウガの父ちゃんの姿をしたナニカは、俺たち3人に人差し指を向けていったかと思うと、最後に俺を差して止まった。


「てめぇからだ!サタン!赤いトカゲをぶっ殺せ!!」

「誰がトカゲじゃあ!!」


 MPがない俺には何もできない。でも、このまま攻撃を受けるわけにはいかない!何か、何か方法はないのか?絶対に負けられないんだ!考えろ!俺!


「僕はダストゾーンの贖罪への祈りをゲームからドロップアウトさせて効果を発動!攻撃対象をドライグからミカエルに変更する!!」

「シロガネ!?お前っ、何してっ!?」

「タイヨウくん……」 


 シロガネは満足そうな顔で笑った。その笑顔に、とても、凄くとても嫌な予感がした。


「後は、頼んだよ……」

「シロガネぇええぇえ!!」


 サタンの攻撃によってミカエルが消滅した。強い風が吹いてシロガネの姿が見えなくなる。


 アイツ!俺を庇って!!


「シロガネ!返事しろよ!シロガネぇ!!」


 シロガネは答えない。呼びかけても返事をしてくれない。まだ風は吹いていてシロガネがどうなったか分からない。


「え?何何何ぃ?お友達庇って死んじゃった感じぃ?何それ感動してふひっ、な、泣いちゃふひっ!泣き笑いしちゃうぅひゃはははははは!!」

「お前っ!」

「落ち着けタイヨウ!」

「でもっ!」

「奴はお前に託したんだ!」

「!」

「冷静さを失うな。怒りを、その感情をぶつけるのはマッチが終わってからだ」

「ヒョウガ……」


 そうだ。父ちゃんがあんなふうになって、一番辛いのはヒョウガなんだ。なのに、俺が我慢できないでどうする!


「……そもそも、奴がそう簡単に死ぬとは思えん」

「そう、だよ……タイヨウくん」

「シロガネ!!」


 風が止んで、シロガネの姿が見えた。ボロボロだけど無事だったようだ。俺がホッと肩を下ろしていると、シロガネが震える手でサタンを指差した。


「僕は大丈夫、だから……サタ、んを……」

「あ、あぁ!」


 シロガネに言われて俺は前を向いた。後ろで倒れた音が聞こえて、すぐに駆け寄りたかったけど、シロガネを信じて振り返らなかった。


 次は俺かヒョウガ。どちらかに攻撃を仕掛けてくるはずだ!マッチに集中しねぇと!


「え?マジ?生きてんの?そこは死んどけよ。面白くねぇなぁ。虫ケラの癖に。……いや、虫ケラだけに虫の息みてぇだなぁ!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!ひーっ!面白ぇ!!んじゃあ不完全燃焼だしもっかい殺るか!!つぅわけでアデュー!赤虫くぅん!」


 今度こそ俺の番か!マナの扱いは苦手だけどやるっきゃない!!


「……タイヨウ」

「ヒョウガ?」

「天眼家の当主が、サタンに対抗する為にはお前の膨大なマナが必要だと言っていたな……」

「き、急にどうしたんだよ。それ、今関係あるのかよ……」

「奴は俺の手で倒したい。……が、残念な事に俺では力不足のようだ……それに、マナを使ったサタンの攻撃だ。下手すれば死ぬ」

「何言ってーー」

「マナの扱いなら俺の方が上手い」


 ヒョウガはサタンに向かって銃を構える。


「奴の攻撃は俺が引き受ける。後は任せるぞ」

「そんなっ!?やめろ!ひょうーー」

「死ねえええええ!!」

「俺は氷結ダガーガンの効果を発動!!相手モンスター1体にダメージ1を与え、そのモンスターの攻撃対象を自身の任意のモンスターに変える!俺は対象をドライグからニドヘッグルに変更させる!」


 ヒョウガの銃から短剣が発射される。短剣はサタンにダメージを与え、ヒョウガの方を向いたサタンはニドヘッグルを攻撃した。


「ヒョウガあああああああ!!」


 ニドヘッグルが消滅する。また強い風が吹いてヒョウガの姿が見えなくなった。


「なんだよなんだよ。庇い合いちゃんかよぉ」

「くっ!おまえっ!!」


 言いかけた言葉を止める。ヒョウガに言われたじゃないか。冷静になれって。なら俺のやることはここで怒る事じゃない。俺が今やるべき事は……。


「しょーがねぇーなぁ。赤虫ちゃんはぁ最後のメインディッシュにしてやるかぁ。俺ちゃんのフェイズ終了」


 アイツに勝つ事だ!!


「俺のフェイズだ!ドロー!!」


 全力でマッチして、アイツに勝つんだ!


 2人を信じて……2人が作ってくれたチャンスを無駄にしない為にも!ここで絶対に決める!!


「さぁ、見せてくれよ!虫ケラの悪あがきってやつを!!お通夜気分でテンション爆下げの赤虫ちゃんがどこまでやれんのかをよぉ!!」

「俺は手札から道具カード、世界樹の枯れ枝を使用!このフェイズ中、自身のフィールドにいるモンスター1体にフィールドにいる大地属性のモンスターの数だけ攻撃力を加算する!ドライグの攻撃力が3から4になる!!」


 サタンの体力は7だ。これじゃまだ足りねぇ!


「MP1を消費して手札から魔法カード、受け継がれる意思を発動!このフェイズ中にモンスターのスキルを使用する時、自身の倒されたモンスターの数だけMPを軽減することができる!!」

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!何やってんだよお前ぇ!残りMP1しかねぇのにんなカード使っても意味ねぇだろ!てめぇの死んだモンスターは2!赤トカゲのレベルは4!もしかしてぇ、赤虫くんはぁ引き算できないんですかぁ?」

「2体じゃない」

「あ゛?」


 そう、倒れたモンスターは2体じゃない。ミカエル、エウダイ、ニドヘッグル、ウェンディゴを合わせたら。


「合計6体だ!俺はモンスタースキルを使用する時は消費MPを6軽減できる!!」

「何ぃ!?」


 そうだ。今の俺には2人の力が、思いが宿っている!


「ドライグ!解かれた封印を発動だぁ!このフェイズ中、ドライグの攻撃力が2倍になる!!」


 いや、俺にじゃないな。俺とドライグ。俺達2人にみんなの力が宿ってるんだ!


「ドライグ!サタンを攻撃だ!!」

「あい分かった!」

「俺ちゃんはMP1を消費して手札から魔法カード魔王への畏怖を発動!相手モンスターの攻撃力を0にし、減少した数値分のMPを得る!」


 ヒョウガの父ちゃんを操っているナニカは、不気味な顔で笑う。これで勝ったと言わんばかりに。


「頑張ってぇ、攻撃力を上げてたみたいだけどぉ、無駄な努力でしたねぇ?はいざんねぇん!俺ちゃんの糧となれぇ!!」

「俺は赤龍の秘宝の効果を発動!!」


 こっちが能力値を上げてもアイツが邪魔しないのは、その力を奪うためだってのは分かってた。そういう人の努力をバカにするようなマッチをする奴だって分かってたんだ。だから俺は準備してたんだ。


「このカードを装備しているモンスターの攻撃力は相手のカードの効果によっては下がらない!!」

「なんだとっ!!」

「いけぇ!ドライグ!!」


 赤龍の秘宝によって守られたドライグの攻撃力は下がらない。攻撃力が8まで上がっているドライグの攻撃にサタンは耐える事ができない。ドライグの攻撃でサタンのフェイクソウルが壊れる。


「ダブルアタックだぁ!」


 サタンの残りフェイクソウルが3になる。


「まだまだぁ!俺はMP1を消費して魔法カード、龍への鼓舞を発動!竜属性モンスター1体を攻撃行動前の状態に戻す!!もう一回攻撃だ!ドライグ!!」


 残り2枚。


「ダブルアタックだぁ!」


 1枚。


「俺はドライグのスキル、導きの彗星を発動!ダストゾーンの魔法カードを1枚ゲームからドロップアウトさせる事で同じ効果を得る!!」


 あと2回攻撃が決まれば勝てる!!


「俺が選択するのは龍への鼓舞だ!!俺からの最後のエールだ!受け取れ!ドライグ!!」

「そんなに大声を出さずとも……」


 ドライグの攻撃が決まる。これでサタンのフェイクソウルは全部なくなった。あと一回!


「ドライグ!ダブルアタック!!」

「おヌシの声は聞こえておるわい!!」


 ドライグが大きく腕を振り上げる。これが決まれば全部終わるんだ!


「俺ちゃん、MP1を消費して黒き王の加護を発動」


 ドライグの爪が結界のようなものにぶつかった。


「1度だけ相手モンスターの攻撃、及び効果ダメージを0にするぅ」


 アイツが最後に残していた魔法カードの効果は強力で、このままじゃあドライグの攻撃は通らず、アイツを倒せない。MPも手札も0になった俺は、アイツのフェイズになったら負けてしまうだろう。


「はいはい!残念無念一昨日来やがれ!負け犬虫!どうだったぁ?気持ちよぉく攻撃してたみたいだけどぉ、最後の最後でぜぇんぶ無駄になる気分はぁ?ひひゃっ!さ、さぞかし、ひひっ面白ぇ気分でしょぉねぇ!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「……なぁ、知ってるか?」

「んんー?」


 だから、ここで引くわけにはいかない。絶対にこのフェイズで倒すんだ。


「ドライグは勝利の竜なんだぜ?」


 それが俺が成すべき事。俺がやらなくちゃいけない事だ!


「俺はドライグのスキル、勝利の一撃を発動!このフェイズ中、必中及び防御貫通を得る!!」

「なんだと!?」


 ドライグの爪に赤い光が宿る。


「頼む!俺を、俺たちを勝利に導いてくれ!!ドライグ・ペンドラゴン!!」

「その願い……」

「いけええええええええええ!!」

「聞き入れたぁあぁぁあ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 ドライグの最後の一撃が決まった。サタンの体力は0になり、ヒョウガの父ちゃんは倒れた。


 でも、バトルフィールドが消えるまでは気を抜けないとデッキを触っていると、バトルフィールドがフッと消えた。


「…………終わったのか?」


 けど、終わったにしてはサタンは消えていない。黒いマナもそのままだ。いったいどうして?


「ごふっ!がはっ……げほっ!」

「ヒョウガの父ちゃん!!」


 倒れていたヒョウガの父ちゃんが大きな咳をした。俺は急いで駆け寄ろうとしたんだけど、ドライグが俺を止めるように手を出したので素直に止まる。


「ドライグ?どうしたんだ?」

「あれを見ろ」

「あれって……!?」


 ドライグに言われてヒョウガの父ちゃんをじっと見ていると、ヒョウガの父ちゃんの口から黒いモヤモヤしたモノが出てきた。


 その黒いモヤは人に近い形になって俺を見る。


「く、くくっ……楽しかったぜぇ?虫ケラにしちゃあ良くやった方じゃねぇかぁ?」

「おまえは!?……もしかして、ヒョウガの父ちゃんを操ってた奴か!?」

「はいはい大正解!赤虫くんにぃ、花丸あげちゃう!よっ!名探偵のご誕生だ!こりゃ盛大に祝ってやらねぇと、なぁ!!」


 黒いモヤは指をパチンと鳴らした。すると、サタンに黒いマナが集まって、悲鳴みたいな声を出した。


「な、なんなんだ!?お前、何したんだよ!!」

「俺ちゃんからの最後のプレゼントさ」


 俺が黒いモヤを睨み付けていると、黒いモヤが少しずつ消えていることに気づいた。


「お前!?体が消えて……逃げる気か!?」

「逃げるたぁ人聞きの悪りぃ……てめぇらのせいで力がなくなったんだよ。消えちまうの俺ちゃん」

「え」

「まぁ死なねぇんだけどねぁ俺ぇ!!」

「なっ!?」


 黒いモヤは体が消えながらも空に浮かび上がった。


「俺ちゃんは悪意そのもの!!悪意がある限り死なねぇ!!」

「何言って……」

「つぅう訳でぇ、いい暇潰しだったぜぇ赤虫くん!また遊んでくれよな!!」

「待て!!」


 俺は走って黒いモヤを捕まえようとしたけど、俺の手が届く前に完全に消えてしまった。回りを見渡しても見当たらない。黒いマナによって暴走しているサタンがいるだけだった。


「アイツ、どこ行って……」

「小童!奴に構っている暇はないぞ!」

「でも!」

「サタンを封印する方が先だ!優先順位を見誤るでない!!」


 ドライグの言う通りだった。せっかくサタンを倒したのに、封印できなければ意味がない。あの黒モヤのせいでサタンの力が増しているみたいだけど、大丈夫なのだろうか?


「……何か、俺達に出来ることってあるのか?」

「あの陰気臭い小童が封印を作動するまで時間を……いや、必要ないようじゃ」


 空の上に、大きな魔方陣が現れる。ドライグが広げていた翼を戻した。


 俺もサチコが封印を作動させた事を知って力を抜く。


「これで全部終わるのか?」

「分からん。が、一先ずは落ち着くじゃろうな」


 サタンの事はこれで終わるんだろう。でも、まだあの黒モヤの事がある。これからどうなるか分からないけど、取り敢えず、倒れてるヒョウガとシロガネを手当てして貰わないと。呼吸はしているみたいだけど、意識がない。心配だし早く落ち着いた場所にーー。


「……なんか、変じゃないか?」


 封印が作動している筈なのに、サタンの様子が変わらない。暴走が止まる気配がない。それとも、封印ってこういうもんなのか?


「……あのふざけた奴の仕業か」

「え」

「奴が黒いマナを与えたせいで封印の力が押されておるようじゃ」

「そんな!!」


 サタンが封印できないとどうなるんだ!?分かんねぇけど、それがヤバい事であるのは分かる。どうしよう。どうしたら封印できる!?


「……誰かが、サタンを抑えねばならんようじゃな」

「!そっか、それならエンラ達を呼んでみんなでやれば!俺、みんなと連絡をーー」

「のう、タイヨウ」

「何だよドライ……え?今、名前で……」

「おヌシと過ごした数ヶ月間は……存外楽しかったぞ」

「……な、なんだよいきなり」


 ドライグのらしくない言葉に嫌な予感がする。


「そんな……これからだって一緒に!」

「おヌシが主君で良かったと思っておる」

「……やめろよ」


 なんだよその言い方……そんな、最後の別れみたいな言葉を言いやがって……。


「ワシは勝利の竜じゃ。主君に勝利を運ぶブリテンの由緒正しい竜なのじゃ」


 ドライグが大きな翼を広げて飛びだつ。俺の手の届かない場所まで飛んだ。


「奴を封印するには誰かが犠牲にならねばなるまい。この場で動けるのはわしだけーー」

「聞きたくねぇ!!」


 俺はドライグの言葉を大声でかき消した。


「なんだよ犠牲って……そんなの……そんなの嫌だ!……ドライグを犠牲になんかさせない!!何か別の方法があるはずだ!!もっと、みんなが笑えるような、そんな良い方法が絶対にある!!」

「タイヨウ」

「俺は諦めない!だって、そんなの……嫌だ……俺、ドライグともっと……もっと一緒に!!」

「タイヨウ」

「っ!!」


 ドライグの真剣な声が聞こえる。俺は何も言えなかった。


「人生とは難儀なもんじゃ。どんなに努力しても、どうしようもない事もある」


 本当は分かっていたから。


「よりよい未来を掴むために、苦渋の決断を下さねばならん事もあるのじゃ」


 これが、俺の我が儘だって事が……。


「もう時間がないんじゃ」


 ドライグの言っている事が正しいって事が!


「わしとこの世界……どちらの天秤を傾けるべきか……おヌシなら分かるじゃろう?」


 ちゃんと、分かっていたから!!


「……なぁに、別に死ぬわけではない。……ちょっと、奴と一緒に封印されるだけじゃ。ついでに、サタンの奴に説教でもしてやろう。奴には言いたいことが山ほどあるんじゃ……全部を言うには随分と時間がかかりそうじゃのう……が、いずれ、必ずおヌシの元に帰る……じゃから、そんなに気にやむでない」

「ドラ、イグ……」

「……そう泣くな……わしはおヌシの笑った顔を気に入っておる」


 なんだよ……こんな時ばっか優しくしやがって……。


「どらっ、いぐ……が……らしくない事ばっか……ひっく……言うから、だろ……おまえ、そんなんじゃ……ないくせ、に……俺の、知ってるお、まえは……もっとせい、かく……悪い、ぞ……」

「なんじゃと!?わしほど寛大で偉大な竜を前にして!!もっと敬意を払わんか!小童!!」

「……へへっ、やっぱ……そっちのが……お、まえ……らしいよ」

「……そうかのぉ」


 俺はゴシゴシと力強く涙を拭いた。


「……本当にそれしか、方法はないんだな?」

「あぁ、残念な事にな」

「そっか……」


 本当は、こんな事言いたくない。もっとドライグと一緒にいたい。ドライグに無茶をさせたくない。けど!


「じゃあドライグ、約束だ。主君としてじゃない。お前の友達として……相棒としての約束だ!」


 これしか方法がないのなら。


「絶対に帰ってこいよ!!」


 俺は信じてドライグを待つ。


「何年……何十年かかっても……俺がおじいちゃんになっても待ってるから……だから!!」

「あぁ」




「必ず帰ると約束しよう!我が盟友ともよ!!」


 ドライグが飛び立つ姿を見送る。視界がぼやけて、前が見えづらくなった。ぼやけた目に映るドライグは小さな赤い星みたいになって……俺はずっと、ずっとその星を見つめていた。



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