ph97 五金コガネと氷川ヒョウケツーsideセンリー
「ユカリ!?」
マナによって映し出されていた愛する娘の映像が途切れ、胸の中が不安という感情に支配される。
「センリ様」
ワタクシが動揺した事によって結界が不安定になり、それを指摘するように五金財閥の執事ーー確か田中だったかしら?がワタクシの名前を呼んだ。
「今は耐え忍ぶ時でございます」
「分かってるわよ!!」
あの子達をマナ石の元へ飛ばした後、結界を張り、敵の情報を得るためにあの子達の位置情報を使ってマッチの状況を映し出していた。ただ、結界を長く維持する為に、自分のマナを無駄には出来ないと設置されたマナ石を利用していた為、マナ石が壊れると同時に映像も消えてしまった。分かっていた事とはいえ、あんな不穏な状況で映像が終われば動揺もしてしまう。やっと見つけた愛する我が子なのだ。本当は今すぐ走り出してあの子の元に向かいたい。思いっきり抱きしめて、ごめんねとおかえりを伝えたい。けれど、それは許されない。
「分かってるわよ……嫌になるぐらいね」
ワタクシは天眼家の当主。私情を優先できないなんて身に染みて分かっている。それに、ユカリの事はあらかじめ五金クロガネに頼んでいる。アイツも腐っても五金ならどうするべきかは分かっている筈だ。アイギスにもエンラ達が目覚めたら火山エリアに向かうように伝言を頼んでいるし、今は信じで結界を張る事に集中しないと。ソレがワタクシが今やるべき事だ。
上空には不完全な状態でサタンを実体化させた氷川ヒョウケツと向かい合うように対峙している五金コガネがいる。状況把握の為にアイツ等の映像も目の前に出しているけど、お互い警戒しているのか、出方を伺っているようだった。
バカみたいに見つめあってないでさっさとサタンを倒しなさいよ!!ソレがアンタの仕事でしょ!?
『……どこかで見た顔と思えば……五金の当主か』
イライラしながら映像を眺めていると、氷川ヒョウケツが五金コガネに話しかけた。
『五金のトップが何用だ?』
『無論、貴公を捕らえに来た』
サタンにも劣らない膨大なマナが放出される。……ほんと、いつ見てもデタラメな強さね。
『戯言を……五金と言えどサタンの前ではーー』
『結構、無駄話は好きではない。やれば分かろう』
『ふん、強がりを……ならば分からせてやろう!!圧倒的な力と言うものを!!』
2人のマナがぶつかり合う。ついに始まるのかと結界の力を強めた。
『世界に終焉を!コーリング!サタン!!』
『貴公に引導を渡してやろう。コーリング、ユピテル』
アンタの事は嫌いだけど、アンタの実力だけは認めてんだから!!負けたら承知しないわよ!!
ワタクシは残り4人のマッチにも気を配りながら、無事にこの戦いが終わる事を強く祈った。
ーーーーレッツサモン!ーーーー
「そんな……」
ワタクシは目の前の光景が信じられなかった。
「こんなにも……一方的だなんて……」
息も絶え絶えに片膝をついている男と、ソレを汗ひとつかかずに見下す男。
『はぁ、はぁ……』
『どうした?そんなものか?』
五金コガネは強い。三大財閥の中でもトップに君臨する強さを誇っている。それは三大財閥に求められる役割が大きく関係している。ローズクロス家は知恵の力によって世界の技術を発展させること。天眼家は理の力によって司法を作り、世界の秩序を保つこと。そして、五金家は武の力によって世界に降りかかるあらゆる脅威を退け、世界の安寧を守らなければならない。言わば五金家は世界最後の砦。彼らの敗北は世界の敗北を意味する。だからこそ五金家は絶対勝利を求められるのだが……。
『……サタンも大した事ないな』
これ程だったとは!!
五金コガネは延々とした口調でフェイズを終了させる。
余裕のある五金コガネに対し、氷川ヒョウケツの手札は0。MPも0。サタンの体力もたった1しかない。フェイズ開始時に行われるドローとMP回復を考慮しても五金コガネの勝利は明白である。
『早くしたまえ。貴公の番だ』
『ぐっ!』
氷川ヒョウケツも己が敗北を悟ったのか、悪あがきするように五金コガネを睨みつけた。
『貴様は憎くないのか!?』
『何の話だ?』
『惚けるな!精霊界が!精霊の存在そのものが憎くないのか!!』
氷川ヒョウケツは、地を這うような声で精霊への憎悪を吐き出す。
『
『貴公の動機に興味はない。マッチをやらぬなら早く
『なぜ我々が故郷を奪わればならなかったのだ!!』
『!…………』
『奴らが奪わなければユキメは……ユキメは死ななかった!!こんな仮初の星ではなく地球であったのならユキメは生きていけた!!コユキも病気にならなかったのだ!!』
ワタクシは氷川ヒョウケツの言葉に目を見開く。何故、氷川ヒョウケツがその事を知っているのだと驚きで言葉が出ない。
『
『いい加減にしたまえ。貴公の妄想に付き合う気はない。やる気がないなら
『世界を想像したカード!“ネオアース”の力を使えば
『おい』
『最終通告だ。
もう出てるわよ、素が。全く、アンタの息子たちが今のアンタの姿を見たら驚くでしょうね。まぁ、無理もないけど。
“ネオアースのカード“。ソレはアイツにとっての禁句だ。アイツはあのカードを害するモノは許さない。ソレがなんであろうとね。その理由も知っているし、理解もできる。ワタクシだって、あのカードを害するものは許さない。
『うるさい!うるさいうるさいうるさい!!
何を犠牲にしても、ね……。
ワタクシは氷川ヒョウガと氷川コユキのマッチの状況を映し出していた場所に視線を向ける。
その犠牲の中に、アンタが大事にしたかったであろう家族もいるのにね……手段が目的に変わるなんて、救い用のない奴。
どんどん途切れていく映像。
こんな馬鹿に付き合ってらんないわ。もったいぶってないで早く倒しなさいよ。アンタなら相手のフェイズでも止めを刺せるでしょ。
ワタクシはあの子達の事は心配しなくても良さそうだと五金コガネと氷川ヒョウケツが映っている映像画面の方に視線を戻した。
母親として我が子を守れなかった癖に、罪には問うなんて……。ワタクシも氷川ヒョウケツの事を言えないわね。そもそも、2年間も見つける事が出来なかったワタクシを、あの子が母親と思ってくれてるのか……。いや、思ってるわけないわね。天眼ユカリの名前に嫌悪感を抱いていたし、あの子にとってはワタクシなんてーー。
「!?な、何!?」
突然感じる嫌な気配。発生源は分からない。けど、直感的にこの気配は危険である事を悟る。一体どこからと索敵しても見つからない。ただ、どんどんこっちに近づいている事だけは分かる。
何なのこの気配は!?サタンとは違う、もっと危ない何かがいる!?
「五金コガネええ!!」
ワタクシはマナを使い、アイツの耳に届くように叫んだ。
『……なんだ騒々しい』
「今すぐソイツを倒して!」
この気配は不味い!コレが来る前にサタンを倒させないと!!
『言われなくともーー』
「もう来る!!早くして!!」
『何を言って……!』
間に合わなかった!!
サタンとは違う、近くにいるだけで不快感を抱くような禍々しい存在がワタクシの側を通り過ぎた。そのまま氷川ヒョウケツごとサタンを飲み込む。
『この気配は!?』
五金コガネも驚いている。マッチを強制中断させ、ユピテルでサタンを飲み込んだ存在に攻撃を仕掛けるが、ソレから放たれた強い光によって妨害された。
「センリ様!!」
田中の声が聞こえる。ワタクシは結界だけは維持するために直ぐに体勢を持ち直して周囲を見渡した。
「何なのよコレ……」
地上から噴き出した黒いマナがモンスターに変わり、ワタクシに襲い来る。ワタクシも応戦しようと武器を実体化させるが、その前に田中がモンスターを掻き消した。
「……アンタ、マナ使えたのね」
「ほっほっほっ。五金家の執事として当然でございます」
当然であってたまるか!!
「そんな事よりもセンリ様。不味い状況でございます」
「そんな事って……まぁいいわ。確かにそうね。さっきの気配の正体は分からないけど、またアレが来る前にサタンをどうにかしてーー」
「いいえ。旦那様の救出が先です」
「はぁ?救出って何でよ。必要ないでしょ」
「感じませんか?境界が曖昧になっている事に」
田中に言われ、精霊界の気配を強く感じる事に気づいた。
「もしかして、サタンが完全に実体化したの!?」
「それは分かりません。ですが、境界が曖昧になった事。それが危険なのでございます」
「だから何でよ」
「旦那様はーーいけない!!」
田中が五金コガネが映っている映像を見て慌てている。どうしたのだとワタクシも見ると、五金コガネが血を吐きながら膝をついていた。
「は!?なんで!?アイツさっきまで……」
「旦那様は精霊界のマナが合わない体質なのでございます!」
「そんなの聞いたことないわよ!」
「説明は後で致します!今はお力をお貸しください!!」
もう!荒事はワタクシの担当じゃないのに!!
ワタクシはヤケクソ気味で拘束魔法も発動させてサタンを鎖で縛った。
「数分しか持たないわよ!」
「承知いたしました!!」
田中は自身の精霊を実体化させ、五金コガネの元へと向かう。ワタクシはモンスターからの攻撃を避けながら結界と拘束魔法を維持する。
今はまだ大丈夫そうだ。けれど、黒いマナによってモンスターは増え続けている。これ以上増えたら捌けない。
精霊を実体化させたいけど、マナの消費量が激しい。サタンを抑える結界と拘束魔法を発動させたままでは出来ない。どちらも解くわけにはいかないし、どうすれば!!
「ドライグ!!湖からの目覚めだ!!」
「あい分かった!」
「ミカエル!裁きの光!!」
「はっ!!」
聞き覚えのある声と共に、ワタクシの目の前に赤い龍と大天使が現れる。
「アンタ達!」
「へへっ!助けにきたぜ!」
晴後タイヨウがワタクシの横に並びながら笑いかける。
「この黒い奴らは俺たちに任せてくれ!おばっーーお姐さんはサタンを頼むぜ!」
「今は猫の手も借りたい状況だけど、アンタ達だけでーー」
「影鬼、凝血暗鬼」
私が言葉を言い終わる前に、鬼の姿をしたモンスターが周囲のモンスターを薙ぎ払った。
「大丈夫ですよ。コレぐらいのモンスターなら私達で対処できます。それに……」
「サチコに近づくな雑魚共があああ!!」
「こんな感じなんで、心配いりません」
「……そうみたいね」
五金クロガネが一瞬で敵を蹴散らしていく姿を見て、本当に大丈夫そうだという確信を得る。ならば田中の方はどうだろうと上を見上げると、氷を纏った黒い龍がサタンに向かっている事に気づいた。
アレは氷川ヒョウガの!
氷川ヒョウガは田中の精霊を追い越し、サタンとーー氷川ヒョウケツ、自身の父親と対峙している。氷川ヒョウガはしばらく氷川ヒョウケツと見合っていたかと思うと、直ぐに背中を向けて五金コガネを回収していた。ワタクシはタイミングを見計らって拘束魔法を解き、子供達の方へと顔を向けた。
「アンタ達、一旦引くわよ」
「そんな!?目の前にサタンがいるのに!?」
「五金コガネが動けない状況で無計画に突っ込むのは危険よ。幸い、ワタクシの結界は維持できそうだし、態勢を立て直すわよ」
晴後タイヨウは悔しそうに唇を噛んでいるが、直ぐに分かったと言って止まった。
あら、思いのほか素直ね。もっと反対されるかと思ったわ。
懸念していた五金クロガネの反応も、影薄サチコが同意してくれたおかげで不満もないようだし渡りに船だわ。これなら上手い事連携取れそうねと作戦を練りながら子供達を連れてその場を離れた。
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