ph64 ヒョウガくんとダックマッチ2


「私のフェイズです。ドロー」


 アボウくんとラセツくんのデッキ傾向は掴めた。


 アボウくんは高火力でゴリ押すビートダウンタイプ。ラセツくんは相手の行動を阻害するコントロールタイプのようだ。


 次のアボウくんのフェイズで攻撃を受けたら生き残れる自信がない。けど、ラセツくんの妨害をどうにかしないと、ヒョウガくんのカウンター攻撃が通りにくくなる。どちらを先に潰すべきか……。


「私は魂狩りの効果発動!蟻馬ありまラセツのMPを2奪う」

「MP1消費。魔法カード寓話の北風を発動。相手の装備カード1枚を手札に戻す」


 またバウンス!


 私の手元にはバウンスを防ぐカードがない。魂狩りは相手のMPを奪うことができる強力な武器だけど、その分消費コストがMP3と高い。またこの武器を装備したら、私のMPは残り2になる。そうなると、サークル魔法の効果のせいで、私は影鬼で相手モンスターを2回攻撃する事しか出来ない。


 それなら……。


「私は影鬼で馬頭鬼を攻撃!」

「おっと!サークル魔法三途の川の効果を発動するじゃん!自身のモンスターよりレベルの高いモンスターと戦闘を行う際、MP1を支払わなければならないじゃん!」


 サークル魔法の効果により、私のMPが1減り、残り4となった。


 けれど、この程度何ともない。


「私はMP3を消費して影鬼のスキル凝血暗鬼を発動!影鬼の体力が減少している数値分、この攻撃の攻撃力が上がる!」


 影鬼の残り体力は3。元々の攻撃力に12もプラスされるのだ。つまり、影鬼の攻撃力は驚異の14となっている。馬頭鬼は鉄蟻の効果で常時ダメージを1軽減できるが、それでもこの攻撃を喰らったら大打撃だ。


 影鬼から滴り落ちる血が武器となり馬頭鬼を襲う。どうかこの攻撃が当たれと祈った。



「MP1消費!魔法カード柳風発動!相手モンスターの攻撃を受け流す!」


 ラセツくんの残り1枚のカードは回避系統の魔法カードだったか!これはちょっと不味いぞ。この攻撃が決まらなければ次のアボウくんのフェイズで完全に積む!


「俺はMP2を消費してウェンディゴのスキル氷塊の罠を発動。相手の回避行動を無視して攻撃する事ができる。影薄!」

「ありがとう!」


 ヒョウガくんナイスアシスト!助かった。


 影鬼の攻撃が当たり、馬頭鬼の体力が残り7になる。


「私はMP1を消費して魔法カード影送りを発動!影または闇属性の装備カードを装備、及び自身の手札にある時!そのカードをダストゾーンに送り、デッキから同じ属性の装備カードを装備する事ができる!私は手札の魂狩りをダストゾーンに送り、冥界の松明を装備する!」


 私は目の前に現れた松明を掴む。


「さらに冥界の松明の効果を発動!自身のモンスターが、攻撃によって相手モンスターにダメージを与えた時、その与えたダメージの半分の値分MPを回復する!」

「!」

「何っ!?」


 私のMPが0から7になり、ラセツくんとアゴウくんは驚いたように目を見開いた。


 ラセツくんの手札とMPが0の今、ここで一気に仕留めておきたい。


「私はMP3を消費して血の影供を発動!影鬼が攻撃によって相手モンスターにダメージを与えた時、その与えたダメージの数値の半分を回復する!さらに、MP3を消費して再度、影鬼のスキル凝血暗鬼を発動!馬頭鬼を攻撃!」



 攻撃力が8になった影鬼で馬頭鬼に再攻撃を仕掛ける。


 残り体力が7となった馬頭鬼にこの攻撃が通れば倒せる筈!



「鉄蟻スキル装備化、効果発動!鉄蟻をダストゾーンに送り、その装備モンスターは体力1残る!」


 くそっ!仕留め損なった!


 さっと自分の手札を確認するが、今の手札じゃどうすることも出来ない。私は追撃は諦めて、大人しくフェイズを終了させることにした。



「……私は冥界の松明の効果により、相手モンスターに攻撃を与えたダメージの半分の値分MPを回復します」



 武器化したモンスターをダストゾーンに送ることで、1度だけ攻撃を耐える効果があるのか。ならば、火車を装備してる牛頭鬼も同様と考えた方が良さそうだ。 



「私のフェイズは終了します」


 今の私のMPは3、手札は2枚か。これで私のフェイズまで保つことは出来るだろうか。


「やっと俺のフェイズじゃん!ドロー!」


 アボウくんの手札は5枚、MPは3だ。牛頭鬼の体力は19も残っているが、ヒョウガくんのカウンター攻撃を警戒するならば、私の方に仕掛けてくるだろう。


「俺は手札から道具カード蜘蛛の糸の効果を発動するじゃん!自身のフィールドにいるモンスターを1体指定し、ダストゾーンから指定したモンスターと同じ属性のカードを1枚手札に加える事ができる!俺は牛頭鬼を指定してダストゾーンから雲外鏡を手札に加えるじゃん!」


「さらに道具カード、雲外鏡の効果を発動するじゃん!デッキから地獄属性のカードを手札に加える!俺はデッキから道具カード、獄卒の荒縄を手札に加える!獄卒の荒縄の効果発動!自身のフィールドに存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターのレベル分のMPを回復する!俺は牛頭鬼を選択!牛頭鬼の今のレベルは火車の効果により5!よって俺はMP5回復するじゃん!」


 手札4にMP8か。これは真面目に不味いかもしれない。


「そんじゃあ、バトルじゃん!牛頭鬼!雪女を攻撃!」


 MP8もあるのにそのまま殴ってくるわけないよね。


「MP2消費して火車のスキル高速回転発動!この攻撃中自身を装備しているモンスターの攻撃力が2倍になる!」


 やっぱね!そりゃ使うよね!!今の牛頭鬼の攻撃力は8、雪女の体力も8。このまま通すわけにはいかない。


「私はMP2を消費して雪女のスキル雪の氷像を発動!体力を1消費し、自身の身代わりを作り出し、攻撃はその身代わりが代わりに受ける!」


 体力1の雪女に似た雪だるまが現れる。牛頭鬼の攻撃が雪女似の雪だるまに当たりそうになる瞬間。


「俺はMP3消費して牛頭鬼のスキル貫通を発動するじゃん!相手の防御を無視して攻撃が通るじゃん!」


 げっ!?マジか!じゃあこの身代わりは意味ないってこと!?選択ミスった!!けど、ただでは転ばんぞ!!


「私はMP1を消費して、魔法カード血の供給を発動!自身のモンスターがダメージを受けた時、そのモンスターが受けたダメージ分のMPを回復する!!」


 雪女は破壊されたが、私のMPは8になった。これでなんとか一矢報いることができそうだ。


「安心するにはまだはえぇじゃん!MP2消費して火車のスキル高速回転発動!そんで牛頭鬼!ダブルアタックじゃん!影鬼を攻撃しろ!」

「影薄!!」

「ヒョウガくん!!」


 ヒョウガくんが私をカバーしようと手札に触れる手を止めさせる。


「だが!!」

「SSCの準決勝!」

「……!そういうことか……」


 どうやら気づいたらしい。ヒョウガくんは眉を顰めつつも、手を下ろした。


「話し合いはすんだか?じゃあ死ねよ!!」

「ああああああ!!」


 牛頭鬼の攻撃をくらい、影鬼の残り体力が1になる。風前の灯になったがこれでいい。後はヒョウガくんがやってくれる。


「俺のフェイズはこれで終わりじゃん」


 アボウくんはMP1を温存して次のヒョウガくんの攻撃に備えている。


「俺のフェイズだな。ドロー」


 ヒョウガくんの手札は5枚、MPは7となった。


「俺は手札から道具カード、雪解け水を発動。自身のフィールドにいるモンスター1体の体力を2回復させる。俺はコキュートスを選択」


 コキュートスの体力が17になった。


「バトルだ。コキュートス、牛頭鬼を攻撃」


 コキュートスの攻撃が決まり、さらに氷魔導銃の効果で牛頭鬼の体力が14まで減る。


「……ここまでだな」

「……はっ、やっぱりな」


 ヒョウガくんが銃を下ろすと、アボウくんが馬鹿にしたように笑った。


「お前、カウンターに依存して素の攻撃はそんなにないんだろ?さっきのフェイズでも単調な攻撃で終わってたもんな。なら、今のフェイズ、俺じゃなくてラセツを攻撃すべきだったじゃん。体力を削ることに躍起になって戦局を見誤るとかお前、期待はずれもいいとこじゃんよ。加護なしと色ボケ野郎だったなんて、このマッチもハズレになっちまーー」

「貴様は何を言っている」


「俺は攻撃しなかったのではない。攻撃をするだけだ」


 いや、ほんと。ヒョウガくんまじナイスアシスト。


「さっきのフェイズ、影薄を仕留められなかった事を後悔するがいい」


 君のおかげで牛頭鬼も射程圏内に入れることができたよ。

 

「貴様の敗因はただ一つ、影薄を侮ったことだ」


「私はMP3を消費して影鬼のスキル凝結暗鬼を発動!影鬼がダメージを受けた分、攻撃力を上げる!!」

「なっ、今更何やって…」

「さらにMP2を消費して魔法カード痛み分けを発動!」


 このカードは、SSCの準決勝の最後に三剣に使用したカードだ。効果は、自身のモンスターの攻撃力分のダメージをフィールドにいる全てのモンスターに与えるカードだ。それも、


「そのカードは!?」


 どうやらアボウくんはこのカードの効果を知っているらしい。私の意図に気づいたようだけど、もう遅い。


「私の影鬼の今の攻撃力は16」


 五寸釘がフィールドの中心に現れ、全てのモンスターに狙いを定める。

 

「さぁ、一緒に心中と洒落込もうか」


 全てのモンスターに向かって五寸釘が飛び、体力が17であったコキュートス以外のモンスターは消滅した。


 私達の勝利が確定した瞬間である。


 

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