ph63 ヒョウガくんとダッグマッチ
さて、ダッグマッチをする事になったがどう動こうか……。
ダッグマッチは通常のマッチとは違い、全員が1フェイズ目を終えるまで攻撃ができない。フェイズ開始時のMP回復も2フェイズ目からだ。
モンスターカードの属性は3種類だが、魔法カードは2種類しかない。そして、ヒョウガくんのデッキにある魔法カードは氷、冥界属性のものが多い。影鬼の属性とは被っていないから、雪女はともかく、影鬼のカバーは期待できないだろう。
レベルアップできる影法師がいない現状、影鬼がいなくなると、私の攻撃手段がほぼなくなる。何としても守らなければならない。幸い、手札事故は起きていないため、私が攻撃できるフェイズまでの場は整えられそうだ。
「お前、精霊いねぇのかよ」
私が自分のフェイズが回ってきた時の動きについて考えていると、アボウくんの小馬鹿にしたような声が聞こえた。
「加護持ちじゃねぇとかありえねぇじゃん。ザコの相手はもうコリゴリなんだけど」
加護持ちである事がステータスとなっているこの世界では、加護持ちである事が強いサモナーの最低条件だという風潮がある。実際に、プロのサモナーは全員加護持ちである。強いサモナーとマッチしたいアボウくんにとって、相手が加護持ちでないことはさぞかしご不満なのだろう。
「貴様っ!!影薄はーーっ」
「ヒョウガくん」
反論しようとするヒョウガくんを止め、アボウくんと向き合う。
「私が加護持ちじゃなかったとして、貴方に関係あります?」
「大有りじゃんよ。俺は強ぇ奴と戦いてぇの。SSSCに参加したのだって強ぇ奴とマッチできると期待してたってぇのに……お前みたいなザコも紛れてるなんてガッカリじゃんよ。加護なしに用はねぇじゃん」
なるほど。今は影法師が不在の為、私のフィールドに精霊はいない。だから加護なしと勘違いされているようだ。
……それは好都合だな。その勘違い、大いに利用させてもらおうじゃないか。
「なら、無駄口叩いてないで、さっさとドローして下さいよ」
私はニヤリと挑発的な笑みを作った。
くらえ!シロガネくんにいびられ続けて鍛えられた私の嫌味語録!!
「そんなに強い人とマッチしたいならば、ポイントを集めて本選に出場すればいい話。ここで愚痴っていても仕方ないでしょう。そんな事も分からないんですか?」
どうだ?格下相手に馬鹿にされる気分は。さぞかし腹立たしいだろう?
「それとも、加護なしに負けるのが怖くて多弁になっているのですか?安心してください。ダビデル島の土を持ち帰る時間程度なら、作ってあげますよ」
「……言ってくれるじゃん」
アボウくんはピクピクと口元を痙攣させ、自身のデッキに手を置いた。
「後悔しても遅ぇかんな!!俺のフェーズじゃん!ドロー!!」
よし。アボウくんが単純キャラで良かった。この手のキャラはちょっとの挑発ですぐ頭に血が上ってくれる。さぁさぁもっと怒れ。そんでプレミしろ。勝つためならどんなヘイトでも買ってやるよ。
「俺は道具カード雲外鏡を発動するじゃん!デッキから地獄属性のカードを1枚手札に加える!俺はサークル魔法、三途の川を手札に加えるじゃん!」
げっ!?サークル魔法!?サークル魔法って、破壊されるまで永続的にフィールド上に効果を発揮する魔法カードじゃないか!?しかも、基本的にMP消費のなく、フィールド全てのモンスターに影響を及ぼすコスパのいい魔法カードである。これは面倒なもの使ってくんな。
「サークル魔法、三途の川を発動!フィールドにいる全てのモンスターは、自身のレベルより高いモンスターと戦闘を行う際、MP1を支払わなければならない!」
バトルフィールド上にある魔方陣に、重なるように大きな魔法陣が現れ、周囲の景色を不気味な河原へと変えた。
「俺のフェイズはこれで終わりじゃん」
まずは様子見か?アボウくんはサークル魔法を展開すると、すんなりとフェイズを終わらせた。
「俺のフェイズか」
ヒョウガくんは足元の魔法陣が回るのを確認すると、カードをドローした。
「俺はMP1を消費して装備カード氷結魔導銃を装備する」
ヒョウガくんに水色のごつい見た目のハンドガンが装備される。
「さらに道具カード氷魔像士の造形刀を発動!防具を装備できなくなる代わりに、自身の装備している武器をコピーし、装備する事ができる!!」
道具カードのおかげで氷結魔導銃がコピーされ、2丁拳銃持ちになった。これで反撃した際は、追加ダメージ2になるのか。なかなかいい出だしである。
「俺のフェイズは終了だ」
「……ドロー」
ヒョウガくんがフェイズを終えると、ずっと黙っていたラセツくんがボソリと呟きながらカードを引いた。
「……サークル魔法発動。獄卒の門」
三途の川に引き続き、またサークル魔法か。次は一体どんな効果があるのだろうか?この魔法が2人のコンボの要なのだろうか?
「攻撃フェイズで攻撃できるモンスターは1体のみとなる……終了」
おっと、私の番が回ってきたか。戦闘可能モンスターを1体に縛って何をするつもりだ?
「では、私のフェイズですね。ドロー」
私のフェイズが終わり次第アボウくんのフェイズになり、攻撃が始まる。まだ相手のデッキ傾向は把握できていないが、取りあえず、散々挑発したし私に攻撃してくる可能性が高いだろう。ならば、ヒョウガくんが攻撃された事も考えて予防線を張っとくか。
「私は道具カード影鋏を発動。デッキからカードを3枚ダストゾーンに送り、MPを3回復する」
道具カードは属性が1種類しかなく、自身のターンにしか使えないが、基本的にMPを使用しないからガンガン使えるのが利点だ。
「さらにMP3を使用し、魂狩りを装備。魂狩りの効果発動。相手のMPを2奪う事ができる。対象は……
「なっ!?」
私は
「これで私のフェイズは終了します」
「狡いマネしてくれんじゃん」
アボウくんが苛立たしげに睨み付けてきたが、受け流すように無表情を貫いた。
「俺のフェイスじゃん!」
アゴウくんがカードをドローし、MPが6になった。そして、右手を前に出しながら得意気な様子でモンスタースキルを発動させた。
「俺はMP2を消費して火車のスキル車輪化を発動するじゃん!」
アゴウくんが火車のスキルを発動させると、火車は炎に包まれ、輪刀となった。輪刀となった火車は、回転しながら牛頭鬼の元へと飛んでいくが、牛頭鬼は火車をすんなりとキャッチし、武器のように構えた。
「車輪化の効果は自身の味方モンスターに装備カードとして装備し、装備されたモンスターのレベルは、このモンスターのレベル分増加する!そして、体力は火車の残り体力分加算され、攻撃力プラス1。さらにダブルアタック持ちになるじゃん!」
レベルと体力が増加だと!?つまり、今牛頭鬼のレベルは5体力は25あるということか。
「バトルじゃん!牛頭鬼!影鬼を攻撃するじゃん!!」
レベル5となった牛頭鬼は、レベル3の影鬼よりレベルが高い。と、いうことはだ。攻撃の際に支払うMPは0だ。
牛頭鬼の元々の攻撃力は3。しかし、火車の効果で4に上がっている。しかもダブルアタック付きだ。素直にダメージを喰らえば、相当な痛手となるだろう。
くっそ!サークル魔法の効果で戦闘可能モンスターが1体に縛られてる今、影法師の影縫いが刺さるのに!今は側にいない相棒が恋しい。
「MP2を消費して火車のスキル高速回転を発動!この攻撃中自身を装備しているモンスターの攻撃力が2倍になる!!」
「はぁ!?」
攻撃力が2倍だと!?つまり、牛頭鬼の攻撃力は8になっているということか!?
というか、レベル5のモンスターのスキルコストはMP5になる筈なのに何でMP消費コスト2で発動できんの!?もしかして、スキルだけは元々のモンスターのレベルで使用できるということか!?そんなんチートじゃん!!
「っ、私はMP2を消費して魔法カード腐朽の呪術を発動!相手の装備カードの効果を無効化し、破壊する!」
火車は今は装備カード扱いとなっている。それなら、この魔法カードの効果が通るはず。破壊されたら素直にダストゾーンに送られるのだろうか?それとも、装備が解除されるだけなのだろうか?
「MP1消費、魔法カード葛ノ裏風。使用した魔法カードの発動を無効にし、手札に戻す」
ラセツくんの魔法効果によって、カードが手札に戻される。
そう簡単に破壊させて貰えないか。
まだ攻撃から身を守る手段はあるが、あまりここで使いすぎると、ラセツくんのフェイズで攻められたら終わりだ。影鬼の火力も上げたいし、一端ダメージを通しとくか?
いや、やっぱいきなり8くらうのは痛いし、ダブルアタックの事も考えてそのまま通すのはやめとこう。
「私はデッキから3枚カードをダストゾーンに送り、ダストゾーンにある魔法カード、影の身代わりをゲームからドロップアウトさせ効果を発動させる!このフェイズ中、モンスターの攻撃によって受けるダメージを全て半減させる!」
「何っ!?」
影鋏で影の身代わりがダストゾーンに落ちてて良かった。これで手札もMPも減らさずに対象できた。
「でも、ダメージは通るじゃん!」
「うぐっ!!」
「更にダブルアタックだ!!」
「影薄!!」
「大丈夫!」
ヒョウガくんが手札に触れて何か行動をおこそうとしたが、それを手で制した。
「足手纏いになるつもりはないよ」
「だがっ……」
「その強がり、いつまで続くじゃん?牛頭鬼!」
「くぅっ!!」
影鬼の残り体力は9になったが、乗り切れた。MPも温存してるし、次のヒョウガくんのフェイズでサポート出来そうだ。
「安心するにはまだ早いじゃん!MP1消費して魔法カード熱斬波発動!自身のモンスター1体を選択し、そのモンスターがこのフェイズ中に攻撃に成功した回数分、相手フィールドの全てのモンスターにダメージを与えるじゃん!」
げっ!?まだ攻撃してくるの!?牛頭鬼の攻撃回数は2回、影鬼と雪女に2ダメージ入るってことか!?しかも全体攻撃だしヒョウガくん巻き込み事故させてしまった!!最悪だ。
「俺はMP2を消費してウェンデイコのスキル精神操作を発動!相手の効果によるダメージをそのまま跳ね返す!」
うまい!これで牛頭鬼にコキュートスとウェンディゴ分の合計ダメージが入って残り体力が21になる。
私は牛頭鬼にダメージが入るのを見ながら、ふとコキュートスのスキルを思い出す。
確か、不義への断罪の発動条件って、相手からダメージを受けた時とかモンスターから攻撃された時でなはく、相手から攻撃を受けた時だったよな……。もしかして、反撃のチャンスか?けど、ヒョウガくんの残りはMP2。今のMPではコキュートスのスキルを発動できない。それなら。
「っ、私はMP1を消費して、魔法カード闇の迎撃を発動!効果によるダメージを受けた時、その受けたダメージ分のモンスタースキルを発動することができる!ヒョウガくん!!」
「あぁ」
影鬼の体力は7になり、雪女は8となった。合計ダメージは4。コスト4までのスキルなら発動できる!
「俺はコキュートスのスキル不義への断罪を発動。自身のモンスターが攻撃を受けた時、反撃することができる。コキュートス!」
モンスターによる攻撃ではないため、三途の川の効果も発動しない!
「遠慮はいらん。やれ」
「ゴー!」
「ぐあああ!」
牛頭鬼の体力が16まで減る。アボウくんは肩で息をしながらこちらを睨みつけている。が、まだヒョウガくんの攻撃は終わっていない。迂闊に全体攻撃を仕掛けたのが不味かったな。
「おい」
ヒョウガくんは銃をくるりと回してアボウくんに銃口を向けた。
「まだウェンディゴの分が終わっていないぞ」
「なっ」
「コキュートス!!」
コキュートスの氷の刃が牛頭鬼を襲う。ヒョウガくんの氷結魔導銃は牛頭鬼を完全に捉え、引き金に指をかけた。
「MP1消費!魔法カード風ノ誘引発動!攻撃の標的を馬頭鬼に変更!更に、MP2消費して鉄蟻のスキル騎蟻化を発動!自身の味方モンスターに装備する事ができ、装備されたモンスターのレベルは、このモンスターのレベル分増加し、体力はこのカードの残り分加算され、相手から受けるダメージを常に1軽減することができるようになる!」
しかし、ラセツくんの魔法効果により標的が変更され、ダメージを負ったのは馬頭鬼だった。
馬頭鬼は鉄蟻を装備しているため、防御にプラス1されている。ヒョウガくんのカウンター攻撃は、コキュートスの攻撃と氷結魔導銃が別々に攻撃して与えているダメージだ。その攻撃全てを1ずつ軽減されてしまえば、与えられるダメージが2になるはず。案の定、馬頭鬼の残り体力は23だった。
「命拾いしたな」
「ちっ……俺のフェイズは終了するじゃん」
「ふん、ならば俺のフェイズだ」
ヒョウガくんの手札が5枚になり、MPも5になった。
「俺は装備カード氷獄の鎧をコキュートスに装備する!装備したモンスターが攻撃をした時、また、モンスターからの攻撃を受けた時!相手のモンスターにダメージ1を与える!バトルだ!コキュートス!牛頭鬼を攻撃!」
「おっと、その前にコストを払ってもらうじゃん!」
どうやら火車のスキルは発動したら破壊なりなんなりされるまで永続的に装備カードとなるようだった。三途の川の効果により、MPを1失ったが、ヒョウガくんは構わず攻撃を行った。
「MP1を消費して、魔法カード冥界門の番人の権限を発動するじゃん!相手モンスター1体の攻撃を強制中断させる!」
ヒョウガくんに対抗手段がなかったのか、素直に魔法効果を受け、コキュートスは攻撃を止めて自身のフィールドに戻った。そして、フェイズを終わらせると、ラセツくんのフェイズへと移る。
「ドロー……道具カード命の竿秤発動。自身のモンスターの体力が均等になるように分ける。牛頭鬼と馬頭鬼を選択」
カードの効果により、牛頭鬼の体力は19、馬頭鬼の体力は20になった。
「バトル。馬頭鬼、影鬼攻撃」
うわっ、また私かよ。まぁ、ヒョウガくんのMPは4あるし、反撃されるなら私を選ぶのも仕方がないか。
「MP3消費、馬頭鬼スキル風ノ舞発動。攻撃成功時、相手の手札、または、自身のダストゾーンのカード1枚デッキに戻す」
「え゛!?」
手札をデッキに戻すだと!?なんだその地味に嫌な攻撃は!絶対に受けたくない!!
「私はMP2を消費して雪女のスキル雪化粧を発動!!相手の攻撃、及び自身の攻撃による誘発効果を全て無効化する!!」
「MP1消費、魔法カード
魔法カードの効果により、眠そうに目をしぱしぱさせる雪女を見て焦る。
不朽の呪術を使うか!?いやでも残りMPは2だ。次の私のフェイズを考えるなら、ここでMPを消費したくない。
「っ!!」
馬頭鬼の攻撃をくらい、膝をつく。
「ダブルアタック」
「ああっ!!」
「影薄!!」
くそ、今の攻撃で影鬼の体力が3になってしまった。
「影薄!大丈夫か!?」
「……問題ないよ」
「おいおい、最初の勢いはどうした?もう虫の息じゃん」
アゴウくんが小馬鹿にするような目で私を見る。
私の手札は2、MPも2。雪女の体力は8あるけど、攻撃の要である影鬼はたったの3だ。
「やっぱ、つまんねぇよ。お前。痛い目に合わねぇうちに
「お気遣いありがとうございます」
……でも。
「ですが、いらない気遣いです」
敵のMPを予定より多めに削る事ができた。
「私、意外と負けず嫌いなんですよ」
私はラセツくんがターンを終わらせるのを確認すると、ニッと口角を上げた。
「こっから逆転してみせるんで、そちらこそ覚悟しといた方がいいですよ」
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