第27話

「しばらく、ここの研究だ。どうやら魔物も居ないようだし、ここで食って寝る」

「カイヴァン殿、それは辞めてください。何かあってからでは、遅いのですよ?」

「伯父さん、私も反対です。伯父さんの世話をするカイヤが、可哀想です」

「むぅ…」

子供の様にブスくれる年寄りの相手を甥っ子殿に任せて、残りで調査のための話し合いとなった。

「あの調子では、先が長くなるだろう。先ず、冒険者と騎士は交代で休める様にしてくれ。何日かかるやら…俺は、ある程度安全が確保されてから帰る予定だが。本当に、他には何もないんだろうか?」

「わからんな」

「俺の勘は、まだ何かあるって言ってるぜ?」

「そんなものは、お前じゃなくてもみんなが思っている。黙っていろ」

「ルー姉、シュレインさんに厳しいよ」

「まぁ、俺の従魔たちも、まだそわそわしてるしな」

「えぇ、これだけということは無いように思いますね」

ドルイドの言葉に、各々が反応すると頷き合って、もう少し更なる何かを探しに散っていった。


「シュレインさん?気配を消して近づかないで下さいよ。びっくりした」

「ごめんごめん。俺は女神の傍に、ひっそりと付き従っていたいのさ」

「もう…何かありましたか?」

「うん?多分、あれと反対側に何かあるんじゃないかと思ってるよ。誘いに来たんだ」

「行きましょう」

「はいよ」

エリカが触って絵が現れた壁の反対側、降りてきた階段のある面の壁を二人で上から下まで舐める様に目を凝らして見ていた。

「エリカ、あった」

「え?どこです?」

「ここ。エリカの言ってた、小さな紋章。これじゃない?あ、触ったらだめだよ?」

「わかってます!でも、似ていますね。魔力が通ってる?ハインケルさんを呼びましょう!」

エリカは、走ってハインケルを呼びに離れていく。

「女神…ごめん。全部教えてあげられなくて…マリエ様…」

小さな紋章を見つめたままのシュレインの小さな呟きが、壁に吸い込まれて消えていった。


「何があったんです?」

「小さな紋章さ。エリカが魔力が流れてるって、あんたを呼びに行ったのさ。で?本人は?」

「エリカは、ボイズの元に居ますよ。見つけたものを報告しついでに、皆を呼びに行っています」

「あれ?俺、あんたにも信用されてない?」

「えぇ、エリカに馴れ馴れしいし、何か秘密を持っている人間の顔をしていますからね」

「ははは。秘密は確かにあるけど、俺は俺の女神に害をなすつもりはないよ。約束だからね」

「誰とのどんな約束か知りませんが、彼女に何かあったら王都の冒険者を全員的に回すと肝に銘じておいて下さいね」

「はいはい。で、コレ、調べて貰っていいかい?」

「どいてください。調べますから」

「はいはい」

2人のそんなやり取りなど全く知らないエリカが、全員を引き連れて戻ってきた。

「何か分かりましたか?ハインケルさん」

「えぇ。カイヴァン殿、あなたも確認して下さい。これは、多分、あの絵を浮き上がらせた魔法と同時に違う魔法の起動役も担っているようです」

「ほほぅ?見ましょう見ましょう!早くどいて」

嬉々として紋章に近づくカイヴァンに、全員が小さな不安を覚えながら見守った。

「おぉ!どうやら、見立て通りに二つの役割があるようだ!あの絵を投影する魔法と、多分空間に関する魔法。あぁ~皆さんご存じの通り、時空間魔法は詳細が不明な部分が多く、その属性に長けた方は皆不遇な扱いを受けるか、どこかに囲い込まれたりなんやかんやで消息は不明な人が多い。研究も進まず、空間庫魔法以外の魔法の存在は現在未確認状態。以前には確立されていたのではとされる、転移系魔法も失われて幾久しい。これは、大発見かも知れんよ!」

「それは、凄いことだ!しかし、そうなると、ここの存在の謎のほかに、懸念が出てきてしまうな…」

「あぁ、お隣さんにも似たようなのがあるとしたら…あっちは、問答無用で軍事転用するだろうからな」

「そうですね。可能性は高いですよね。時空間魔法となれば、あちらも国を挙げて本腰を入れるでしょう。そうなれば、こちらも対抗手段を早急に準備しなければ…」

ドルイド・ボイズ・メイマルの三人が難しい顔をする中、他の冒険者たちは時空間魔法と聞いて浮足立ってしまう。

転移なんてことが出来る様になれば、一気に活動の幅が広がるのだから。

後ろの悲喜交々の面々をまったく気にしない集中力で、カイヴァンは紋章に込められた魔法を解析していた。

「終わった。とりあえずは、だがね。結論から言えば、不明。魔法の構築の仕方は同じですが、随分無駄が多く幼い印象なのにも関わらず、凄まじく膨大な魔力で強引に成立させていると言う感じか。無駄が多い分、本来の機能が分からない。何故座標確認がこんなに大量に必要なのか、魔力が流れる仕組みに取り込まれている意味のない術式が何故なのか、広範囲に作用するようにしたかったと思われる中途半端な術式は何故組み込まれたままなのかも、わからない」

「つまりあんたは、座標確認があるから時空間系と思ったわけか」

「そうだ。でなければ、座標の確認も指定も必要ないからな」

「まだ幼い子がその魔法を使ったとかだったりして…無いか。ははは」

「確かに、術は未熟。だが、幼子にこんな魔力があるかは疑問だね」

カイヴァンとドルイドの会話に、シュレインがちゃちゃを入れる。

だが、メイマルがカイヴァンの後ろで、何やら考え出してしまった。

結果、彼が口を開くまで、沈黙が場を支配した。

「あの、そんなに黙っていられると怖いです。でも、思い出しましたよ。大したことでは、ないですけど」

「話してくれ」

「その昔、まだ皇国が大きな力を振りかざしていた頃、当時の皇国には異能者と呼ばれるものが居て、その大部分は犯罪に走り、島流しになったそうです。それからは、異能者狩りがあり、捕まれば問答無用で島流しされたとか。魔法の発祥は、海からの使者が伝えたものと言われていますし、その異能が魔法といして発展し確立されたのかもしれません」

「ふむ。だとしたら、ここに魔法を使ったのが幼い少女だとしても、無駄の多いものだとしても、か…」

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