第26話
「シュレインさん、ここ、教団の関係施設なんだよね?」
「あぁ、エリカ。そうだぜ」
「なんでそう思ったの?」
「ん?前に来たときは何故かゴーレムとやらは、動かなくてな。俺にとっちゃ、かっこいい飾りだったんだ。んで、俺は入口まで見に来れたんだよ。そこの柱の下見てみ?小さく紋章が入ってるだろ?だから、教団の秘密の施設だって思ったのさ」
「なるほど。確かに小さく紋章あるね。でも、なんで動かなかったんだろう?」
「さぁ?なんでだろうな?俺に何か、不思議な力でも眠ってるのかもしれないぜ?」
「ふふふ、それなら、素敵だね」
「おいっ!あんまりエリカに近寄るな!」
「はいはい。怖い怖い。ね?エリカ。あ、この先で、左に曲がると階段があるぜ。俺は降りてないから、そこまでの案内しかできないが」
崩れていない一階部分を見て回ると、案内通りの階段を降りて地下に向かう一行。
ドルイドが灯した光魔法の明かりの下、降りた先の部屋は特に何があるわけでもなく行き止まりとなっていた。
「おぉ!見事に何もない。壁は、思いのほか崩れていない。重要な階層だったか?大事なものがあったか?色もあまり褪せてない。保護剤が優秀なのか?いや、組み方も独特だな。旧皇国に似たような建物があったような…いや、しかし…舐めてみないことには…」
走って行って中央で一面を見渡し、また走って壁にべったりと顔を付けてぶつぶつ言い始めたカイヴァンが、そこから動かなくなった。
甥であるメイマルはその後ろにくっついて、カイヴァンの口から出た言葉をしきりに書き留めていた。
レオンリオンの騎士兄弟は、その二人を邪魔しない様に複雑な顔をしながら守っていた。
任務に忠実な騎士2人がカイヴァンに翻弄される様は、可哀想やら面白いやらでちょっと複雑だと思うエリカだった。
「エリカ」
小さな声で自分を手招きするボイズに気付いて、エリカはそっと近づいた。
「どうしたの?」
「あの壁、なんかおかしくないか?違和感?なんかあるって俺の勘が言うんだが、何か分かんねぇんだ」
「あの壁?少し色が違う?箪笥が置いてあってどかされた後の壁みたい。なんか変だね」
「だよなぁ」
「ボイズ、少しいじって来いよ」
「お前が行けよ。領主自ら」
「俺は、領主として見守ってやるよ」
男たちの意味のない譲り合いに呆れていたエリカの目に、シュレインが小さく壁に向かって何かしたように見えた。
壁に向かい、下ろしていた腕を動かさずに指の先だけを動かして、何かの模様をなぞったような動きだった。
直後、目を閉じるとまるで黙とうをしているような雰囲気に見えた。
あまりも真剣に見えて、自分の知っている彼とは、かけ離れているように思う。
「シュレインさん?」
「ん?あ、あぁ、エリカ。どうした?何か見つけたかい?」
「ん~ん。でも、あの壁が気になるの。おっとぉ達、めんどくさくなってるから、ついてきて貰ってもいい?」
「お、俺をお供にしてくれるのかい?嬉しいね。ご一緒致しますとも」
「ふふ、ありがとう」
シュレインの畏まった言い回しに小さく笑うエリカの笑顔に、一瞬だけ目を細めたシュレインの表情の変化は、誰にも知られずに終わった。
「行きましょうか、女神様」
「女神様じゃないけど、行きましょう」
壁のすぐ近くまで来ると、いつの間にかルーシリアとハンセンの従魔ベールがそばに来ていた。
小鳥程度に小さくなって肩に停まったベールの柔らかく温かい頭を撫でながら、エリカは壁をゆっくりとっ見回す。
上を見上げて端から端まで、何かないかと凝視していた。
同じように壁を見上げていたルーシリアが、声を上げる。
「エリカ、あそこに何かある。ベール、エリカなら上に連れていけるだろ?エリカ、見てきて欲しい。エリカの右3歩、天井からエリカ一人分下あたりだと思う」
「わかった。ベール、お願い」
エリカに頭を撫でられて、ベールが羽ばたくと元の大きさに戻ってエリカの肩をそっと掴み上昇していった。
「あった。アレだ。ベール、もう少し右上なの。お願い」
エリカの指示で、右上に移動するベール。
下を見れば、いつの間にか口論を辞めていたボイズとドルイドが心配そうにエリカを見上げていた。
2人の表情がそっくりで、噴き出しそうな笑いを堪えてエリカは壁に向き合った。
エリカが向き合った先の壁には、小さな紋章。
ただそこにあるだけの様に見えたが、なんとなく手を伸ばして触れてみた。
その刹那、部屋の中は轟音と光に満たされていた。
光と音が収まってとっさに腕で守っていた目を開けると、エリカが触った壁に絵が描き出されていた。
「エリカ!大丈夫か!降りてこい!」
「どんな魔法だよ!びっくりしたぁ!ベール、皆無事か?」
「おっとぉ、ハンセンさん、私たち大丈夫だよ。ベール、降りよう」
心配顔のボイズの目の前に降りると、エリカは覆いかぶさるように抱きしめられた。
羽交い絞めから何とか顔を出すと、大きく息を吸い込んだエリカだった。
「エリカ、何をしたんだい?」
「ハインケルさん。んと、ルー姉が見つけたものを確認しにベールに上げて貰って、うっかり触ってしまいました」
「エリカらしくないね?そんな、不用心なことをするなんて」
「ごめんなさい。でも、何故か触らないといけないって思ったの」
「俺の女神にも、俺みたいな特別な力でもあんのかもね?」
茶化して言うシュレインの言葉に助けられて、笑ってしまったエリカへのお咎めは有耶無耶になっていった。
皆の興味が、描かれた絵に向いたからかもしれない。
「すごい!こんな魔法は知らない!この絵は、何を描いている?女性だ。神殿?どこかの建物か?いや、海か?崖?これは、祭壇?わからない!楽しい!」
カイヴァンの常軌を逸したような早口の言葉を、その後ろで困ったように眉尻を下げたメイマルが走り書きで書き留めていた。
「確かに、海の上の崖の祭壇にも見えるな。女性と言うよりは少女か?幼く見える」
「あぁ、俺も少女だと思う。でも、何をしているんだ?」
「祈ってんじゃない?手のひらを合わせて組んでるし、膝をついてるし」
「「確かに」」
ドルイドとボイズの言葉にシュレインが答え、みんなが納得していた。
「この子は、なんでここで祈ってるのかな?海神に何かをお願いしてるのかな?」
「あっちには、何人も船に乗っている絵があるな。なんだろうか?」
エリカの呟きはかき消され、レインの言葉に全員が移動して絵を見た。
壁の中央の祈る少女から少し離れて、何艘かの小さな船にのる人々が描かれていた。
反対側には何やら色のついた丸と、そこに吸い込まれているかのような武器を持った男性が描かれている。
「なんのこっちゃ…」
ボイズの呟きは、静かな空間に大きく響いた。
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