第21話
「失礼します、ボイズ様。領主様が、指名依頼があるとのことで、屋敷まで皆さんでと。馬車を用意しておりますので、このままお乗りいただけます」
「あ?そんなこと言ってなかったが…まぁいい。わかった。お前らすまんな、付き合え」
「あいあ~い」
「構いませんよ。依頼ですし」
「私も文句は言わないよ。金さえ入ればね」
「領主様、何だろうね?早く行こう」
朝一番、馬車に揺られて、主城…何やら嫌な予感がするボイズは、密かに腹を抑えていた。
「おはよう諸君。朝から悪かったね。さぁ、座ってくれ。飲み物だけでいいかい?」
「随分と丁寧な扱いじゃないか。何を企んでいる?」
「ははは。企むなんて、ひどいな。依頼を受けてもらいたいだけさ」
「なんで、俺たちなんだ?」
「先ず、古くからの知り合いの腕利きの冒険者でその冒険者が選んだ仲間たちだから。あとは、お前が特級だから。そして、ほんのちょびっとだけ、友人の娘を贔屓して、って所だな」
「ふん。で?俺たちは、何をしに誰とどこへ行く?」
「依頼は、俺と王都から来る研究員2人の護衛。行先は、国境近くの森の中の古い遺跡だ」
「行く理由は?」
「それは…、研究のため?」
「なんで疑問形なんだ?」
「どんな遺跡かの調査からってことさ。発見者に聞いた方が分かり易いか?入ってこい」
領主の言葉で、部屋に入ってきたのは、王都でエリカたちに声を掛けてきた怪しげな男だった。
「はいはい。皆様ごきげんよう。旦那と女神は、久しぶり。女神、また会えて光栄だ。元気そうで何より」
前に見た時より、小綺麗な格好と言葉遣いで愛想よく挨拶をしてきたのは、裏世界の住人シュレインだった。
「シュレイン?なんでお前がここにいる?エリカに気安く声を掛けるな」
「おっとぉ…挨拶くらいで…」
警戒心が半端ないボイズに、エリカ以下全員が苦笑いである。
「ボイズ、挨拶は基本なんだぜ?なってないな。女神へのご機嫌伺いは、気安くなんてないさ。俺は、勝手に女神を信奉してるだけだ。あんたにとやかく言われる筋合いは無いね」
「まぁ、とりあえず。そこら辺にして、話を進めないか。めんどくさい」
「わかりました、領主様。では、お話させていただきます」
シュレインが話し出したのは、中々にめんどくさそうな話だった。
少し前に隣国サンテバルトの西の端の大森林で遺跡が見つかり、そこに古代兵器の成れの果てと思われる道具がいくつか見つかったこと。
そして、見つかったその道具を研究し改良して使用できるようにし、自国の戦力の増強を図っていること。
それが発端で、一部の貴族の権力争いが激化していること。
そして、同じような遺跡が我が国の中、サンテバルトとの国境ぎりぎりの所にも見つかった。
見つけたのは、有益な情報で金を得ようと国境をまたいで帰って来ようとしていた彼だったそうだ。
そこで、遺跡に一番近い領主に情報を買ってもらおうとここにいる。
と、言う訳だった。
そして、次に領主から改めて、依頼の話があった。
彼はすぐに、国王に報告。そして、国王は調査員・研究員の派遣を決めた。
領主自ら彼らと共に現地でその遺跡を確認する必要があることから、ボイズ達に護衛の依頼を出したということだった。
「…はぁ。めんどくせぇこったな。で?まだ何かあるんだろ?人払いが必要か?」
「出来れば、ボイズだけでとどめておいて欲しいことならある」
「わかった、全員外で待っててくれ。すまんな」
エリカの顔を見ながら言葉を終えると、ボイズは領主に向き直る。
その顔がなんとなく、怖いなと思ったエリカだった。
シュレインを含めた全員が部屋の外に出ると、部屋の中でほんのり魔力を感じる。
エリカは、防音魔法の魔道具があると教えて貰っていたから多分それだろうと当たりを付けて、詰めていた息を吐きだした。
「女神、大丈夫か?」
「シュレインさん。ありがとう、大丈夫。でも、女神って呼ぶの、やめないですか?恥ずかしい」
「俺にとって、君は女神なんだが…嫌なら変えるさ。エリカちゃん、エリカ様、エリエリ、なにがいい?」
「普通にエリカでいいです…エリエリって、なに…」
「そっか…普通だな。ま、いいさ。わかったよ、エリカ」
「それでいいです。ありがとう」
「ところで、あんたら隣国行ってたんだろう?なんか、変わったもんとかなかったか?」
「変わったもの、ですか?エリカ、何かありましたか?」
「俺も従魔たちも何も見つけてない。悪いな」
「私も、気にしてなかったね」
「ごめんなさい、シュレインさん。私も、分かんないかも」
「そかそか、いいさ。ありがとさん。ま、俺はまた後で寄るって、領主さんに言っといてくれ。じゃ、またな」
王都の時とあまり変わらぬ後ろ姿で、シュレインは風のように去っていった。
そして彼が去ってしばらく後に、ボイズが出てくる。内緒話は、終わったようだ。
「悪いな、待たせた」
「お話、終わったの?」
「あぁ。ん?シュレインの奴は、どこに行ったんだ?」
「あの男なら、また後でくるって伝言を残して、どっかに去って行ったぜ?」
「ったく、あの野郎。エリカ、何にもされてないか?」
「え?う、うん」
「女神じゃなくて、エリカって呼んでくれって話をしただけだよ?」
「あとは、隣国で変わったものがなかったかと質問されたくらいですね」
「なんにもなかったと思うって、言ったけどな。なぁ~?キャッシュ君」
「キキッ」
ハンセンの言葉にややめんどくさそうに、キャッシュ君は短く答えた様だった。
従魔に冷たくされて、ちょっと寂しそうなハンセンがほんのり可哀想になったエリカだった。
「そうか。まぁ、いいさ。今からでも協会に行ってみるか?」
出発は王都から研究員が来てからになるのであと2日ほど時間がかかりそうだということだが、言い出したもののボイズ本人には気だるげな雰囲気が出ていた。
皆も、まぁデカい依頼が確定してるんだし、別に…と、消極的だったので依頼は受けない方向でまとまる。
エリカだけは、薬を売っている店と素材を見に協会へ行きたいと申告したので、親子でのんびり街の散策がてらに見に行くことになった。
残りの面子は、今日も各々各自で思い思いに過ごすことになる。
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