第22話

「で?何の話だったの?私にもやっぱり内緒?」

2人になると、やはり気になってそわそわしていたエリカが問う。

「ん~、一応、エリカだけには話す許可を貰ってはある。だが、あんまり楽しい話じゃない」

「聞かせて」

「わかった」

ボイズが話し出したのは、見つかった遺跡とエリカの護符の紋章が同じだったということだった。

ドルイドは、エリカのことを国王にのみ報告していた。そして、見つかった遺跡とやらに変な印があるとシュレインから聞く。よく見たら、八望星であると。

それも国王に報告したが、研究員が古い文献を調べた結果と共に、研究員を現地に送ることと、それにボイズエリカ親子を同行させるように通達があった。

そして、古い文献を調べた結果と言うのが、護符の絵柄に関してだった。

はじめは欠けのない八望星だったが、時代によって微細に変化していたのだと言う。

100年ほど遡った辺りから、所属する部署によって対応した部分が黒く塗り潰されるか欠けるかした紋章に代わっていったそうだ。

欠けのない紋章自体が特別視されて、それ以降は身に着けることを許されたのは、教団の頂点に君臨する代々の教祖のみだそうだ。

因みに、教祖は代々女性であり独身で、男と交わることも子供を産むことを許されていないらしい。

教祖は、海の巨神カラットルの妻という扱いなんだそうだ。

結果、何故エリカがそんな特別な紋章を持っているのか疑問が深まったと言うこと。

もしかしたら、津波から逃れた教団の教祖が掟を破って男と交わりエリカを生むことで命を狙われて、この国に逃れて息絶えたのではないか。と、大人2人は思っているそうだが。

エリカが自分で調べられた内容については、カラットル教の発生期限が約500年ほど前に島国に移り住んだか流れ着いたかした人たちの、祈りと生贄だったようだと言うこと。

海が大きく荒れて漁が出来なくなる度に、少女を海の巨神カラットルの妻として生贄にささげた。

何人目かの生贄の時、少女が祈ると体がまばゆく光り、光と共に風が渦巻いた。

それが収まった後、祭場になっていた崖から飛び降りた少女は、優しく海に押し返され崖の上に戻った。

カラットルが彼女を愛したから生かされたのだと思って、少女を大切にしたのが始まりだと言われていること。

そして、紋章である八望星は本来、彼女に献身的に使えた8人の男女と、それに守られた少女を現すと言われてる。

時代の流れと共にいつの間にか、色々なものが歪められてしまったのだろうか。

なんにせよ、エリカの身元は結局謎のままだ。

それでもいいと、このままボイズの娘でいいと思っているのに、何か大きく濃い靄に絡み取られていくようで、少し怖くなったエリカだった。

「エリカ、怖くないか?お前が俺の娘になってくれたのは幸せな奇跡だと思ってるが、それが何かに絡めとられて消えていきそうで、俺は怖くなったよ」

「そうだね、私も同じ。このまま、何も知らないで関わらないでは居られないかも知れない。でも、私はずっと、おっとぉの娘として生きていくよ。いいでしょ?」

「あぁ…もちろんだ。お前は、いつでも俺の自慢の娘だ」

「うん!よし、じゃ、色々見終わったら、お菓子買いに連れて行って?口の中で溶けちゃうお菓子があるんだって」

「わかった。じゃ、ちゃちゃっと見に行くか!」


その日の夕方は、滞在が伸びた詫びにと領主からの心付けとしてとある料理屋で好きな食べてくれとお達しがあった。

そこは、中々大きな店で、領都でも指折りの店だと言う。

降って湧いた美味しい幸運に、一同腹が膨れてはち切れんばかりに食事を堪能した。

肉も野菜も酒もふんだんにあり、物珍しい卵を使った料理が何種類かあった。

全員が気になったものを一皿ずつ取って、みんなで分け合って味見をすると、それぞれが気に入ったものを個別で注文する。

エリカのお気に入りは卵と砂糖と乳を使った蒸し菓子で、満腹だと言ってから更に二回お代わりした。

腹ごなしがてらゆっくり歩いて宿に帰る道すがら、明日こそは皆で依頼を受けようと話し合って余は更けていった。



翌日、昨日と変わらず楽しみにし過ぎている早起きエリカと共に、協会までやってきた一行。

丁度よく南の大森林までの道に出る大型の熊系魔物の討伐依頼を見つけて、うきうきと出かける。

依頼内容には1匹が迷い出てきたらしいとあるが、この大型の熊の内臓は薬の材料として銀色の毛皮は高級品として高く売れるので、この熊が出る迷宮に潜って狩るほうが領主の護衛依頼より儲かるのでは?と、うっかり考えてしまう一行だった。

とはいえ、3人組以上が推奨されるこの熊はそこそこ強い。

ボイズとルーシリアを前衛に出し、ハンセンが中距離から注意を引き、ハインケルとエリカの後衛が弱体化と強化補助して攻撃系魔法も織り交ぜて倒す。

何度もやってきた作戦はここでも力を発揮して危なげなく討伐出来るが、多分個人では逆に危なげなくやられてしまうだろうなとエリカは思った。

難なく討伐を完了して、まったりと採取などの寄り道をしながら、領都まで帰った一行。

協会で魔核を納品すると、町で道具と薬類の補充などの買い物をして宿屋でのんびりとする。

こんなにゆったりしていていいのかと思わないでもないエリカは、ドズとエラに見守られながら馬車の中で薬を作ることにした。

今までに知りえたことをうっかり考えてしまい、ちょっと落ち込む。

自分が何者でどうして置き去りにされたのか、本当の両親に何があったのか、今の生活をなくしたくもないし、考えてもわからないし、今後どんな真実が待ち受けてるか不安になるし、自分のせいでボイズや出会って良くしてくれた人たちを危険にさらすのは嫌だし、どうにもならないことで堂々巡りに陥ってしまった。

悶々としながらの薬作りは、良くない。小さな破裂音と共に、エリカの指先が小さなやけどを負い、破裂した瓶での切り傷に血を流していた。

ため息をついて、外傷用の薬を手に振りかける。

モヤモヤするし依頼もしっかりこなしたいし、今日は買ってもらったお菓子をちょっと贅沢に5つ食べようと決めたのだった。

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