第20話

翌日は、みんなが思い思いに過ごした。

ボイズは、「領主と話があったりなかったりで行ってくるわ」とのことで出かけた。

エリカは、ハンセンと従魔たちとドズと共に少し離れた丘まで遠足に。

ハインケルは、エラと共に近くの町にあると言ういい飼い葉を求めて探索に。

ルーシリアは、一人でのんびり領都を散策し、食い倒れ計画を実行。

各々が楽しんだ様子で、夕食の時間には揃っていた。

「今日は、いい飼い葉が見つかりましたよ。ドズの分も買ってきていますから、あとでお渡ししますね」

「おぉ、すまんな。助かるよ。うちのは、大食いだからな」

「おっとぉにそっくりだねぇ。ルー姉は、なんかおいしいものあった?」

「あったよ。小さなぷるんぷるんの果汁を使ったお菓子が気に行ったんだ。のど越しが良くて、いくらでも入ってく。お土産に買ってきたから、あとで食べよう。エリカ」

「やったね!ありがとう」

「エリカは今日、めちゃくちゃ遊んだからな、腹ペコだろ?しっかり食べろ。うちの達としっかり遊んでくれて、ありがとな」

「うん。私も楽しかった。いつかキャッシュ君の本気に勝つことを、今後の目標にするよ」

「なんだ?キャッシュ君の本気って」

「キャッシュ君が、この姿で本気出すと、捕まえられないんだよ。ボイズ」

「あぁ~。早いからな、こいつ」

「木の上なのに、見失っちゃうくらい早いの。風魔法で強化もしたし、追い風使って追いかけたのに…悔しい…」

「キッ!キキキ~。キッキ」

「木の上で人間に負けるほど、やわじゃないってさ」

「悔しい…」

報告会も賑やかに、食事がするすると喉を通って、お腹はしっかり満たされていた。

「で、明日は協会にみんなで行くんだろ?旦那」

「あぁ、せっかくなら皆で受けられるものがいいのと、エリカの昇格の為に護衛依頼がいいかと思ってる」

「そっか、エリカも3級に上がれるんだ?頑張らなきゃいけないな。エリカ」

「そりゃ、ここしばらくエリカは頑張ってますからね」

「でも、まだまだだなぁ?エリカ」

「ルー姉の意地悪っ。頑張るよ!だから、依頼数こなしたいの。いいのがあるといいな」

「行ってみないと分かんないからな。明日は、協会に一番乗りしそうだな、エリカ」

「先に行ってていいなら、行ってくる!」

「ダメ。みんなでご飯食べて、みんなで行く」

「おっとぉの、ケチ!」

「ケチで結構だ。さ、早く起きるなら早く寝ろ。ルー、風呂連れてけ」

「はいはい。行こう、エリカ。風呂上がりに、一個お菓子食べて寝ようか。冷やしておくと更に美味いって、店の人が言ってたんだ」

「いいね!水の魔石と風魔法で、氷作っておくよ」

お菓子の話で盛り上がりながら食堂を後にする二人を眺めてため息をつくボイズだった。

「…まったく。あいつらは…」

「いいじゃん。ルーも妹みたいで可愛いんだって、言ってたし。険悪よりは、全然いいじゃん?ボイズ」

「ま、そりゃそうだがな。早く寝てくれりゃ問題ないんだが」

「エリカは、楽しみにしていましたからね。興奮して寝れないかもしれないですね」

「うちの娘、可愛いだろ?」

「認めますよ。エリカは、可愛い。あなたの、娘なのが少々アレですけどね」

「おい…」

「うちの従魔たちも、エリカが好きだぜ。一緒に居ると俺よりエリカを優先するからな。妬ける」

「どっちにだ?」

「あはは、確かに」

「どっちもだよ!くそぉ…」

男たちは男たちで、たわいもない馬鹿話で酒が進むようだ。



翌日、まだ陽が顔を見せる前の薄暗い時間からエリカは着替えて準備していた。

ごそごそとカバンの整理をしたり、持っている薬の在庫を数えたり。

やることが無くなると、まだぐっすりと寝息をかいて寝ているルーシリアを起こさぬように、慎重に部屋を出て食堂に向かった。

早くから起きているせいで、お腹が空いている。

誰か従業員が居てくれると嬉しいなと思いながら階段を降りると、食堂の厨房係の女性と目があった。

「おはようございます」

「あ、おはようございます。あの…」

「何でしょう?」

「何か、軽く摘まめるものってないですか?早く起きちゃって、お腹空いちゃって」

「ん~。魔羊の乳で作ったパンがゆでいいですか?すぐできるので」

「お願いします。すいません」

「大丈夫ですよ。お待ちください。たぶん、昨日の男性方の様子じゃ、要るかもと思って用意してたんで」

「そんなに飲んでたんですか?」

「まぁ、結構?」

「はぁ…ったく…。ありがとうございます」

「いえいえ。作ってきますね」

男どもが起きてきたら説教してやろうと心に決めて、まだ誰も居ない食堂の真ん中の席に座る。

ぼーっと、漂ってくるパンがゆの温められた乳の匂いを嗅いでいた。

優しい匂いが、逆に腹を暴力的に刺激する。

エリカの腹が、待ちきれないと大きな警告音を出すと同時にパンがゆが届いて、真っ赤な顔でパンがゆに集中する羽目になったエリカだった。


「早いな…」

「おっとぉ、おはよう。早すぎた。お腹空いて、先にちょびっと食べちゃった」

「いいんじゃないですか?私は、何かさっぱりしたものをお願いします」

「俺も…キャッシュ君には果物を」

「俺も今日は、がっつりは食えんな」

「お姉さんの見立て通りだね…三人とも。例のやつ、お願いします」

「はい。そちらの方は、どうなさいますか?」

「ルー姉。おはよう。朝ご飯、何にする?」

「ん~。おはよ。いつもの」

「はい。では、お待ちください」

「エリカ、早いね。起きたらいないから、ちょっと心配した」

「ごめん。ルー姉」

「いいさ、で?三人は随分、青っ白い顔してんね?」

「三人は、ただの飲み過ぎだよ。さっきのお姉さんが、昨日の夜のことみてたんだってさ。で、今日の朝は、パンがゆがいいだろうって先読みしてくれてたみたい」

「ははは。従業員に気を使われるほど飲んだのか。バカダナァ~」

「うっせぇ。たまたまだ、たまたま。昨日は、なんでか盛り上がっちまったんだ」

馬鹿な三人を揶揄いながら朝食を食べ終わるころ、領主の使いが宿の扉を開けた。

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