第18話

「ハンセン!散らせ!ハインケル、エリカ、足止めてくれ!」

開戦の一発で目覚めた魔物は、理解が早かった。

すぐにボイズを見定めると、太い腕を鞭の様にしならせて攻撃をしてくる。

大きな足でルーシリアを踏みつけようとして、地団駄を踏む。

自分より小さな魔物がちょろちょろすることが、目障りとばかりに掴みにかかる。

どれも避けられて、頭に血が上ったのか、体全体から魔力を噴き出してぶつけてくる。

ルインはまともに喰らって、吹き飛ばされた先の大木で背中を打ち付けていた。

ベールも魔力が吹き荒れる中には飛んで行けず、上空を旋回していた。

キャッシュ君は、主であるハンセンを抱えて木の上に逃げたお陰で無事だった。

ざまぁみろと言わんばかりにニヤリと笑うように目と口を歪に動かすと、キングブルレッドオーガは飛び上がっていたルーシリアを、裏拳で吹き飛ばした。

うめき声をあげて地面を跳ねながら転がるだけのルーシリアを、追いかける。

「させるかよ!」

走り出すボイズにハインケルの強化魔法が間に合って、間一髪でルーシリアに打ち下ろされた大きな拳は地面を抉った。

風魔法で足首に傷を狙っているエリカの魔法は、3回に1回は分厚い皮膚と纏っている魔力にかき消された。

「くそっ。かてぇんだよ!赤鬼!」

何度も首や頭を狙ってボイズとルーシリア、前衛に加わったキャッシュ君が、攻撃を繰り出す。

それでも強靭な肉体で耐えきってしまう相手に、焦りは禁物と自分に言い聞かせるボイズだった。

「エリカ、しばらくみんなの補助を頼みます。強度を上げた結界であいつの足を止める。魔力を練る間、頼みましたよ?」

「わかりました。お願いします」

ハインケルが魔力を練り上げ出すとすぐに、異変を感じたのか狙いを変えてくる。

戦い慣れ過ぎだと背中に嫌な汗が伝う中、エリカは必死にみんなに強化を掛けていた。

戦線復帰したルインとルーシリアが、同時に飛び上がって顔面に一撃を入れる。

両側から顎とこめかみに一撃を喰らった赤鬼は、ぐらっと一瞬頭が揺れた。

すかさずハインケルの結界が、左足を結界で固定する。

畳みかける様に、キャッシュ君を足場にして飛び上がったボイズの大戦斧が風を切って唸りを上げる。

後頭部に一撃を喰らった赤鬼は、倒れぬように大きな足を一歩踏み出して踏ん張った。

その踏ん張った足を、キャッシュ君に救い上げられて大きな体が後ろに倒れる。

結界で固定された左足が、不気味な音を立てて折れた。

脛から骨が突き出し、痛みと怒りで大きな口を開けて咆哮を上げるその口に、上空からベールの放った火球が3弾とエリカが作って渡していた「炸裂起爆剤」が飲み込まれていった。

思わず飲み込んでしまったと赤鬼が焦った瞬間、起爆剤によって爆発したのは赤鬼の喉だった。

後ろに飛んで下がったはずの全員が、爆発の衝撃で吹き飛ばされる。

喉から胸にかけて大穴が開いた赤鬼は、ヒューヒューと掠れた呼吸で白目を剝いていた。

すかさず、全員で物理・魔法で攻撃を当てて畳み込む。

当たりを包む土煙で何も見えなくなってやっと手を停めて確認すると、そこにあるはずの大きな赤鬼の体は無かった。

攻撃で大きく抉れた地面には、ポツンと大き目の魔核が残されていた。

しかし、その魔核は通常の者とは少し違って見えた。

ボコボコとしていて、左右を分かつように歪な線が一周し、左右で少し色も素材も違うように思える。別の魔核を半分ずつくっつけたような歪さだ。

「…これは…」

そして、その魔核を拾いあげたボイズは見てしまった。

片側の魔核に、つい最近魔石に書かれていた紋様が刻まれていることを。

そちら側を見えないように持ち、皆に見せるとみんながほっとしていた。

腰に付けた袋に早々に仕舞い込んで、一行はここから東に向かい国境を越えてから領都を目指すことを決めた。

なるべく早くこの国を出たかった。

「エリカ、今日はおっとぉと見張り番をしないか?」

「ん?いいよ?」

「んじゃ、俺と従魔で二番手をするよ」

「では、私とルーシリアが最後ですね」

「構わないよ」

「すまんな」

その日の夜、ボイズは見つけたことをエリカに話すことにした。

「今日は、お疲れさんだったな」

「うん。頑張ったよね。みんなさ」

「あぁ」

「で?どうしたの?ずっと変だよ?」

「あぁ、ちょっと拾った魔核についてな。見ればわかると思うが…」

ボイズの手のひらに転がる魔核の歪さを、そして紋章を見てエリカは息をのんだ。

「これは…」

「あぁ。同じだと思う。そして、あいつが受けた別件ってのが多分この事だ」

「別件?」

「あぁ、飲みに行った先でな。あいつが国からの別件があるから、魔核の回収は重要事項だと思ってくれって」

「そっか…」

「実はな、二つの別の魔核がくっついた様な魔核は、俺は二回目だ。前のやつの時も見た。それには、紋章みたいなものは無かったが…それも協会に提出してあるからな、多分そうなんだろう。迷宮化した洞窟の魔石のこともあるし、何かあるのは確かだろうな。」

「関係あるのかな?私」

「かも知れんし、違うかもしれん。エリカ、ドルイドに話していいか?」

「いいよ。それがいいと、おっとぉが思うなら構わない」

「あぁ、なるべくお前に目がいかない様に気を付けてもらおうと思ってな。知らないおっさんに根掘り葉掘り色々聞かれたり、最悪拘束されたりとか考えもしない様に守りはなるべく固めておかないとな」

「うん、そんなの嫌だ。ありがとう。何かわかったら、絶対に教えてね?」

「もちろんだ」

重要な話は終わったとばかりに、今回の戦いや旅での思い出や雑談に興じる二人。

交代の時間まで何も起こらず、二人仲良く寄り添って、久々の父の腕枕で娘は眠りについた。

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