第17話

領都から、南下すること3日。大森林を目前にして、一行は薬草採取に駆り出されていた。

隣国へ入る前にと、この国での最後の協会がある街に立ち寄ったのが運の尽き。

森からの魔物が増えていて、薬草も薬も足りないと泣きつかれたのだ。

森の外周では、中々いい薬草が手に入る。

エリカは自分の分も確保したいからと、潤んだ瞳で上目遣いにボイズを見上げた。

もちろん、ボイズは陥落。他の三人は呆れ顔で、わかっていたよとボイズの肩を叩いた。

そして、今日一日だけ、エリカの気が済むまで薬草を採取することになったのだ。

有用な薬草たちに囲まれてウハウハと喜んでいるエリカを見て、しょうがないと諦め顔をしながらも、4人と3匹はせっせと指示された薬草を摘むのだった。

ついでとばかりに見つけたら手当たり次第に魔物を狩って、街へ帰ったのは陽が傾きかけた頃だった。

協会では、薬草の量と種類の多さに涙を流して感謝され、正規の支払いだけでは申し訳ないからと、受付の協会員の実家が営む料理屋での割引を受けた。

明日からまともな店でゆっくり食べれるのがいつになるかわからない一行は、腹がはちきれんばかりに食事を堪能して幸せな眠りについたのだった。


「この辺りから、サンテバルド王国領だ。なるべく隠密に行動し、サクッと倒してササっと帰るぞ」

「魔物は、どこにいるんだろう?」

「さて、持っている最後の情報では、町を2つ潰して北東に向かっていたとのことですが…」

「あぁ。とりあえず、潰された2つ目の町を目指して進んではいるが…どこにいるやら…」

「頑張って探すね」

「あぁ、頼んだぞ。エリカ」

最近は子供で亡くなったからと減っていた頭なでなでを、ここ数日で何度もされる。

少しばかり心に負担が増えているのかな?と心配しながらも、エリカもなんだかんだで甘えたい気持ちがあるからか、されるがままになっている。

エリカも一応、教えて貰った探索魔法を練習がてら発動しているが、さっぱり反応は無い。

しかも、ハインケルの魔法が調べれる範囲の半分にも満たないのでは役立たずだと、夜な夜なルーシリアに愚痴っている。

野生の勘を持っている獣人のルーシリアには探知魔法はあまり関係ないのだが、可愛い妹分が愚痴りたいならと律儀に聞いてやっているのは、甘々親子を今も生暖かい目で見ている彼女だけの秘密だ。


潰された2つ目の町の付近まで来ると、亡くなった人が埋められたのであろう墓のようなこんもりとなっている土の集まりを見つけた。

人間は魔物のように死んでからも消えるなんてことはない。

死んだら、弔い埋められて土に還る。

4人は、そっと祈って通り過ぎた。

村の側には、咥えられて連れ去られたのか血痕が延びていた。

それを追うように移動すると、小さな林の中に入って行ったと思しき、折られた木々を目にした。

馬車を降りて、徒歩で林の中に向かう一行。

目にし感じたのは、何かが引きずられた跡と引き千切られた衣服のかけら、そして体のどこか一部の肉片。

腐った肉の匂いと血の匂い、そして鼻が曲がりそうな魔物の瘴気。

目の前には、自ら木々を倒したと見られる大木を枕にして、満腹で満ち足りた顔をして寝ている大きな魔物がいた。

その顔には拭われていない血の跡、歯と爪には髪や衣服のかけらが残されていて、この魔物の醜悪さと傲慢さと怠惰さが見て取れた。

怒りに震えるボイズと、吐き気やら言いようのない気持ちで目に涙をためているエリカ。

「クソが…早いこと見つかったのはいいが…」

「どうしますか?ボイズ」

いつもとは違う固い冷たい声のハインケルに聞かれて、ボイズは静かに息を吐きだした。

「前は、どんな風だったの?」

「前は確か、カリエンティーヌさんが居たんだよね?」

エリカの問いに、ハンセンが確認を乗せてボイズを見る。

「あぁ、前は、カリリンが居た。お陰でいつもより楽だった」

「カリリンさん?は、どんな人なの?何が得意なの?」

「カーリー姉さんは、獅子の獣人で特級冒険者だよ。肉弾戦にめっぽう強い魔導士なんだ。そんでもって、めちゃくちゃ優しい。私の憧れで、尊敬してる」

「ルー姉がそんなに憧れるなんて、すごい人だね。でも、魔術師と魔導士?って、どう違うの?」

「魔術師ってのは、攻撃・防御・補助の内のどれかだろう?それに加えて、あいつは聖職者の使う光の治癒魔法が使える。確か、3属性適性持ちだったか?まぁ、魔術師と聖職者の役を1人でこなせちまう上位互換だな。ついでに、魔力がなくても拳で戦えるから、超やり手の冒険者だ。あいつのゲンコツは、めちゃくちゃ痛い…経験済みだ」

「完璧すぎるじゃん…」

「そうですねぇ。でも、怒らせたら国を敵に回すより怖いですよ?昔バカが1人、二つ隣の国まで追いかけられて、ぼっこぼこにされてました。その時に、山が1つ消えたと聞いてます」

「山一つ消したの?1人の冒険者を懲らしめるためだけに?」

「そうそう。あん時は、あの人に逆らったらダメだって、みんなで怯えたな。俺もキャッシュ君も、ぶるぶる震えたもんな」

「すごい人なんだね…。そんな人が居たら、そりゃ楽だよね」

「あぁ、でも今は居ないから、みんなで頑張るぞ?」

「うん。私は何をしたらいい?作戦を教えて?」

「あぁ。俺とルーは前衛で頭狙い、ハンセンと従魔たちは奴の意識を攪乱陽動で頼む。ハインケルとエリカは、後衛で支援と魔法で足を狙ってくれ。一発目は、強化してもらってから俺が頭に叩き込む。その後は、足を止めて意識を散らしてもらってる間に俺とルーが削っていく感じになるだろう。いいか?」

「了解」

「わかったよ」

「あぁ、俺たちも大丈夫だ」

「おっとぉ、任せてね」

作戦が決まれば、動くだけ。4人と3匹は、各々強化を受けてから持ち場に散った。

かくして、いい気持ちで寝ているキングブルレッドオーガは、ボイズによって放たれた強烈な一発で頭から血を流しての最悪な目覚めとなった。

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