第16話
「要するに、俺らとお前と国王は、隣の国の権力争いに巻き込まれたんだな?」
「そう言うことだな。めんどくさいが、生産量の少ない小麦と替えの聞かない純鉱石を停められる訳にはいかないからな」
「ちっ。めんどくせぇ。で?てめぇで倒さばいいものを、わざわざ俺を呼んだのは?なんでだ?」
「それは、俺が簡単に動けないから。あと、めんどくさいから。あと、国王がたまにはお前に動いてもらわないと特級が錆びると言ったから。あと、お前に久々に会いたかったから。かな?」
聞くほどに顔が凶悪になっていくボイズを見て、にやりと笑うドルイドだった。
「ちっ。そんで、俺らはこれからどう動くんだ?」
「そうだな。このまま南下して森沿いに西に行ってくれ。できればあちらの町や村にも立ち寄って欲しくない。倒したら魔核を回収して、何もせずに戻って来てほしい」
「あちらには、ちょっとも足跡を残すなってことか?」
「あぁ、我が国の大きな戦力をバラしたくないからな」
「めんどくせぇこって。となると、食料が厳しいな。寄越せ」
「言うと思ったよ。用意してある。倉庫に積んであるから、持って行け」
「ありがてぇ。遠慮なく貰うぜ」
「あと、魔核は無くすなよ?そして、売るなよ?」
「わぁかってるわ。討伐の証拠だろ?」
「わかってるならいいさ」
「大事な話は終わったな。食料積み込んで、明日の朝に出る。今日は、時間あるのか?」
「何とか片づけるさ。宵恋亭でどうだ?」
「いいね。んじゃ、あとでな」
ニヤリと笑い合って、ボイズと一行は領主の部屋を後にした。
主にボイズが話していたから、エリカ達はほとんどしゃべっていない。
「おっとぉ、楽しそうだったね。嫌いなんじゃなかったの?」
「まぁ、貴族は嫌いだが、あいつは元仲間だからな」
「仲間?冒険者だったの?」
「あぁ。俺たちは倉庫に行くぞ。ハインケルたちは、他の補充を頼んでいいか?水と酒、薬類と砥石、馬たちのエサぐらいか」
「構いませんよ。馬のエサは嵩張りますから、私が行きましょう。水と酒は、ハンセンにお願いします。いい目利きを期待してますよ。ルーは、薬類と砥石ですね」
「わかった。期待しててくれ。従魔たちと行ってくるよ」
「私もさっと行ってくる。砥石は人数分でいいのか?ハインケルも要るだろう?」
「えぇ、私の分も頼みます。私のは、小さくていいですが」
「あいよ」
「では、宿屋で」
「「宿屋で」」
散会してエリカとボイズは、食料が用意された倉庫に向かう。
食品用の木箱が5列5段、並んで二人を出迎えてくれた。
「多すぎない?」
聳え立つ木箱を見上げて、ちょっとげんなりしたエリカだった。
「多分、保険を掛けてんだろ。向こうの国では補給も出来ずに、魔物を探しながらのこっそり旅になるからな」
「そっか。いい人だね」
「そうか?」
一箱ずつ中身を確認しながら、ボイズの持つ魔法袋に仕舞っていく。
「ねぇ、昔の領主様は、どんな人だったの?」
「ん?あいつは、凄腕だったぞ。元々、この領の領主の家系は実力主義だ。西に隣国、南に大森林だからな。それもあって、10歳までに座学、15歳までに基本戦闘と対人戦を叩き込まれて、20歳までは修行と称して冒険者として活動しながら魔物との戦い方を学ぶんだそうだ。あいつと出会ったのは、18の頃だったな。一緒に故郷を飛び出したマスルがケガで早々に冒険者を辞めちまって、一人で活動してるときに同い年のあいつに出会った。強かったよ。つっかかって行って、負けた。そこからは何故が馬が合って、何かと一緒に依頼をこなしたんだ」
「おっとぉが負けたの?」
「あぁ。負けた。こんてんぱんだった。若かったなぁ、俺。あいつが領主になるために冒険者を辞めるまでの5年間、ほどんどの時間を一緒に居た気がするな」
「それからは、一度も会ってないの?」
「あぁ、ただの冒険者が領主なんてやってる貴族に、何もなく会えないからな」
「そっか」
「夜、あいつと飲みに行ってきていいか?一緒に来るか?」
「行ってらっしゃい。私は、宿でルー姉と一緒に寝とく。あんまり遅くならないでね?」
「あぁ、分かったよ。じゃ、ちゃちゃっと片づけちまおう」
「うん」
小腹満たしのお茶菓子が腹から消えて、本格的に腹の虫が鳴るころになってやっと宿に二人が帰ると、既に宿屋の食堂で3人と3匹が食事をしていた。
するりと同じ席について、ついでにとばかりに追加注文をする。
領主と飲みに行ってくることや明日の朝の出発についてなど、連絡事項を確認しながらの食事になった。
食事後すぐに、部屋に戻って着替えたボイズは、意気揚々と宵恋亭という酒場に出掛けて行った。
あの様子では遅くなるだろうと、エリカとルーシリアはさっさと部屋に戻って寝支度を始めることにした。
残された男2人は、従魔3匹とちびちびゆっくり酒を飲むことにしたようだ。
それぞれの夜が更けていった。
「おはよう、おっとぉ。ずいぶん遅かったと言うよりは、朝早いお帰りだったね?大丈夫?」
「おはよう、エリカ。しっかり寝たか?すまんな。話し込んじまってな。御者代わってくれ。眠い」
「いいけどね。久々だったんだし。でも、気を付けてよね」
「すまん」
走り出した馬車の御者台で、腕を組んで器用に眠っているボイズが居た。
眠りこけているボイズをほったらかして、大森林に向けて走ること半日。
小さな町を横目に走っていると、小さな魔物の群れが目に入った。
ゴブリンらしきその群れは、そのまま進めば小さな町を襲うかもしれない。
エリカがボイズを見てから困り顔で、並走するハインケルを見る。
ハインケルは何も言わずに頷いて、走りながら風の刃を群れに向けて放った。
見事に弧を描いて、風の刃は漏れなくゴブリン10体ほどの群れを殲滅した。
魔石を取りに戻るのは手間だと、そのままにして走り去る。
魔石が魔物を呼ぶことは無いから出来ることだが、エリカは胸に下げた護符を握りながら村の安全を祈っていた。
握りしめた手の温度で、ほんのりと温かくなった護符にほんの少しの安らぎを感じながら走り続けた。
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