第10話
最初に倒したオークたちの体が、魔核だけを残して積みあがっていた場所からゆっくりと空気に溶ける様に消えていた。
残っているのは、今しがた倒したばかりの巨大なオークのみだった。
「終わったね。おっとぉ」
「あぁ、消えちまう前に素材剝いじまうぞ」
「そう言えば、すぐには消えないね。なんで?」
「氾濫の発生源の迷宮が、近くにあるんだろうさ」
「よくわからないんだけど、迷宮が近いと消えるの遅いの?」
「ん?あぁ…先ず普通の外にいる魔物は、倒すとすぐにふわっと消えていくよな?」
「うん」
「でも、迷宮の中では、空間に魔力が満ちてるせいか消えるのが遅くなるんだ。だから、素材を剥いで持って帰って来れる」
「うん」
「で、氾濫とかが起きて迷宮から出てきちまった魔物は、出てきてからの時間が短いほどゆっくり消えていく。つまり、こんだけ消えるのが遅いこいつは、すぐそこら辺にある迷宮から出てきたってことだ」
「なるほど…って、それじゃ…」
「あぁ、近い」
話を聞いていたのかいないのか、巨大なオークから素材を剥いでいた冒険者たちの動きが早くなった気がした。
「あ、おい。取れるなら、しっかり睾丸も剥いどけよ?いい金になるんだから」
「睾丸……おぇ…きちゃない…」
「……エリカには、絶対に!見せんじゃねぇぞ!」
結局、剝ぎ取り終わるころに消えていったオークと先に消えていたオークたちの魔核を回収すると、そのまま小休憩になった。
「今からは、本格的に氾濫の発生源と思われる迷宮を探す。近いだろうからな。だが、今は、探すだけだ。確認出来たら、一旦引き返して支援物資の到着が間に合えば、持って行く。間に合わなくても、体力を回復次第突撃だ」
「「「おぅ」」」
「よし、隊を分ける。1級は、手を上げろ。3人か…良し、三人はそれぞれ隊長とする。三人で、エリカ以外の残りを分けろ。俺とエリカは、二人でいい。いいな?エリカ」
「うん。大丈夫だよ」
「分け終わった隊から、東西南北、方角を選んで行け。俺とエリカは、残った方角に行く」
ざわざわとしながら、小隊が出来上がっていく。
結局、残ったのは南。今まで進んできた道を戻る形になる、比較的安全と思われる方角だ。
「ったく、気を使いやがって。俺を信じろってんだ…なぁ?エリカ」
「…有難いことだよ…私が、未熟だから…」
「お前のせいじゃないさ。行くぞ」
「うん」
来た道を真ん中に見て、ゆっくりと蛇行するように捜索しながら森を歩いた。
2刻も経った頃、大きな音で振り返ると、空に赤い煙が上がっていた。
「見つけたみたいだな…戻るぞ」
「うん」
駆け付けた先には、人が縦にも横にも5人は並んで通れそうな大きな入口の洞窟がぽっかりと口を開けていた。
大きな入口から先は、真っ暗な闇の薄布でも掛けてあるかのように見通しがきかなかった。
「なんで、こんなに向こうが見えないの…」
「迷宮ってのは、そんなもんだ。どんな大きさなのかすら、入口からじゃわかんねぇんだ。闇が濃く見えるほど、魔力が濃い。つまり、強い魔物が居る。引き返すぞ」
「「「おう」」」
「ボイズ、何人か残しましょう。何かあれば、すぐに動けるように。国がやっと正式に採用した通信魔法の符を1対だけ、買っています。それを使いましょう」
「ハインケル。だがな…いや、分かった。残るやつの人選は、お前に任せる」
「わかりました」
「通信魔法って、開発されてたんだね?」
「あぁ、つい最近な。元々、あいつとあいつの師匠が開発してたんだ。そんで、国に正式な魔法として確立するように働きかけてた。それが、符として売り出されるようになったんだ。画期的なことだ」
「そうだねぇ。すごいねぇ」
「ただ、あれはまだ使用時の魔力が半端なく多くて、改良が要るだろうって言ってた。多分、あいつ自身が残るつもりだろう。1級が残るのは安心だが、失ったら相当な痛手だ」
「早く帰って来よう?」
「あぁ」
「決まりましたよ、ボイズ。私とあと2人、連携の取れる者が残ります。こちらは、あなたが持っていてください。…なんて顔してるんですか、エリカ」
「だって…いいえ、大丈夫。信頼してます。お気を付けて。すぐに、帰ってきますから!」
「えぇ、あなたも気を付けて。ちゃんと待っていますからね」
「じゃ、頼んだ。行くぞ!」
1級冒険者であり優秀な研究者で魔導士であるハインケルを含めた3人を残して、一行は報告の中継ぎと物資確保のために、蜂を倒した第二拠点地まで引き返していった。
拠点に待っていたのは、正教会の治癒者一行と護衛兼援軍の冒険者、そして王国正規軍からの先遣部隊だった。
「よぉ、みなさん。ゲイン達も、お疲れさん。とりあえず、報告だ。赤い煙が上がった地点に、迷宮と思われる洞窟を発見。一級冒険者ハインケルを含めた3人が、残っている。物資の分配と人員の編成の後、なるべく早く取って返したい」
「規模は、分かりませんか…」
「わかんねぇな。すまないね、騎士さん。だが、小さくは無いはずだ。あの濃さは、災害級の魔力を秘めていると思ってる。ま、俺の勘だがな」
「災害級…厄介な…」
「すまんが、考え込むのいいが、けが人やら手当をして貰ってもいいかい?」
「あぁ、すみません。皆さん、お疲れ様でした。今は、ゆっくりと休んで下さい」
「あいよ。じゃ、司祭殿、頼むわ。結構連戦だったんでな、皆くたくたなんだ」
「わかりました。けがをしている方は、こちらへ。治癒いたします。動けない方は、どなたかご助力をお願いいたします。あなたも、あとでいらしてくださいね」
「あぁ、ありがとさん」
「おっとぉ、この後はどうなるの?」
「ん?お国の兵隊さんが、決めたことに従うさ。氾濫なんかの緊急時は、国軍が指揮を執るって決まりなんだ。騎士が来た以上は、そっちに従うことになるのさ」
「ふぅ~ん」
「とりあえず、エリカは休んどけ。元気が有り余ってんなら、補給物資を確認しておいてくれ。誰がどんだけ持って行ったかも、控えとかなきゃならねぇ。俺は、司祭殿んとこに行ってくるわ」
「わかった、いってらっしゃい!」
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