第11話
エリカが冒険者たちの物資補給を手伝っている頃、少し離れたところに建てられた天幕の中では作戦会議が行われていた。
中に居るのは、国軍を率いてきた騎士、その従者と思われる若い兵士、正教会から聖職者たちを率いてきた司祭殿、冒険者からは特級のボイズと1級冒険者の二人。
若い兵士がお茶を淹れて配り終わると、ボイズから迷宮化している洞窟の様子と異変に気付いてからの状況の変化など、気づいた点も含めて詳細に語られた。
「では、やはり長期型の氾濫で確定ということですね。冒険者の皆さんには、このまま警戒と出てきた魔物の掃討をお願いして、我ら騎士団が補助に入ります。迷宮攻略はお任せします。聖職者の皆さんには、後衛で治癒を。冒険者の方々の中に、結界魔法を得意とする方は居ますか?最悪、迷宮を一時的に閉じなければ。人員の補給は、どれほど必要か概算あればお願いします。各所にすぐに手配します」
「結界魔法は…いたか?」
「いえ、使える者は数人いますが、熟達してはいないですね。やはり、カリエンティーヌとハインケルが一番手練れかと」
「カリリンは、遠方。ハインケルは、現地で見張り。今は、どちらにしろ無理だな」
「わかりました。では、王国魔術師団からの派遣を早急に要請します」
「頼んだ。補給は物資と食料中心でいい。今の規模なら、多分行ける。あとは、騎士さん方と聖職者さん方の班決めが出来たら、出発だな」
「はい。我々聖職者は、第一、第二拠点と、洞窟前に作る前線基地にて皆さんの治癒を担当いたします。護衛を、お願いいたしますね」
「もちろんです。騎士団が責任を持って護衛に着きますので、お任せください」
「んじゃ、俺たちは準備してくるわ。終わったら声かけてくれ」
「よろしくお願いします。ボイズ殿」
「あいあい」
戦闘後よりも疲れた顔をして出てきたボイズに、真っ先に気付いたのはエリカだった。
「おっとぉ、終わった?疲れてるね」
「終わったぞぉ。つっかれたぁ…」
「おっとぉ、あぁゆーの、苦手だもんね」
「そうなんだよ。あぁゆーのはハインケルの方が得意なんだ。だから、あいつを残したくなかったのに…」
「あはは」
「ったく、爵位も領地もくれない癖に、お国は冒険者をこき使い過ぎだぜ」
「そんなもの欲しいの?」
「いや、要らね」
「あはは!あ、そうだ。ちゃんと冒険者組には物資を分けたよ。騎士さんにお願いして筆記具借りて、全部書いてある。あとは、おっとぉ達だけだよ」
「あいよ、お疲れさん。ありがとな。ついでに、なんか食いもんなかったか?」
「うん。あるよ。騎士さんたちと正教会の人たちが、炊き出ししてくれてる」
「エリカは食ったのか?」
「まだ。待ってたから。さ、先に何か食べよう?」
手を引かれて向かった先には、温かい湯気がいい匂いをさせて漂っていた。
エリカと会議組が食事を終えると、三人分の食料が包まれて渡される。
エリカが洞窟前に居残りの三人分を、持って行きたいと交渉したのだった。
薬関係・簡易食糧などの補充があらかた終わると、天幕から騎士が出てくる。
「ボイズ殿」
「決まったかい?」
「はい。既に冒険者達と共に、出発準備を始めています。お願いします」
「あいよ。第二騎士団中隊長アレス・デリング殿のお言葉に従いますとも」
「意地悪な言い方は、やめてください。冒険者時代の様に、アレスで結構です。先輩」
「ははは。じゃ、後ろは頼んだぜ?アレス」
「はい!」
「よし、ハインケルが待ってる。お前ら、行くぞ!」
「「「おぅ」」」
ハインケルたちの待つ洞窟前に到着すると、大量の魔物たちを閉じ込める様に洞窟に向かって結界を張り、大汗をかいている三人が居た。
「ハインケル、お前たち。待たせたな。頑張ってくれてたみたいだな。交代だ」
「ボイズ、待ってましたよ。あと少しで限界でした。よかった」
「維持は、魔力供給だけで大丈夫か?」
「えぇ。切り替えの補助はします。誰か、変わってください」
「私が行きます」
「私も、魔力なら」
「おっとぉ、私も」
「エリカ…わかった。三人とも頼んだ。すぐに、隊を整えるからな」
「エリカ、私の所へ。ここが中核ですから」
「はい」
「あなたたちは、残りの二人との交代を頼みます」
「「はい」」
自分の魔力を前任者の魔力に寄り添わせながら、結界に流す魔力量を維持する様に魔力を開放したり絞ったり。
魔力操作が上手くなければ難しい作業を、ハインケルに従いながらゆっくりとこなしていくエリカ。
初めての経験で、額にはすぐに汗が滲んでいた。
全ての魔力がエリカの魔力に置き換わると、新たな三人の魔力がお互いになじみ始める。
純白に淡い黄色みを帯びた筋のあった結界は、より白く筋が目立たなくなっていた。
綻び掛けて穴が大きくなっていた箇所も均一になり、小さな魔物から大型のものまでが強固になった結界に大きく弾かれた。
弾かれたことが悔しいのか、魔物たちはエリカに向かって威嚇の咆哮を上げる。
「怖くないよ。残念だったね。今からは、私たちが相手だ。覚悟して待っていたらいいよ」
「エリカ、無理するなよ?魔力切れには気を付けろ。辛くなったら、すぐに言えよ。お前たちも」
「わかってる」
「「はい」」
振り返り切れないエリカの目に、魔力切れ直前のハインケルと二人の冒険者を、それぞれに背負った冒険者たちが、後ろへと下がっていくのがちらりと見えた。
そして、ボイズ以下の冒険者たちは、エリカたちのすぐ後ろに隊列を組むと、全員が各々武器を掲げ、魔物たちに負けない声を上げる。
怯んだ最前列の魔物が一歩後ろへ下がると、エリカたちは結界を風と水の魔法に変えて洞窟に押し込む勢いで打ち付けた。
それを合図に、エリカたちの脇を抜けて冒険者たちが駆けていく。
エリカと他二人も、後衛の陣に組み込まれて前へと進む。
そこからは、洞窟に潜り込んでの押し合いになっていった。
前衛が魔物を屠り、中衛が魔物を散らし、後衛が補助と回復を受け持ち、騎士たちは国から与えられた大盾を手に体を使って鉄壁の守りを敷いていた。
狭い通路で一列に並んで近寄る魔物が次々に倒されて道を塞ぐ。
乗り越え踏まれている魔物を、後列の者たちで脇にどかしながら道を確保していた。
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