第77話 月と星空の下で②
ドレス姿のリリオンに見惚れていたゼオも、一言二言交わしてからは多少落ち着いて話が出来るようになった。
それでも彼の顔は赤いままで、心臓は激しく鼓動を刻んでいる。
グラスに口を付けたり、料理を口に含んだり……気品に満ちた彼女の動作の一つ一つから目が離せないでいた。
その理由を、彼は未だに言葉に出来ない。
そんなゼオ達の所へ、料理を取りに行っていたレヴンとファンガルが戻って来た。
「ゼオ、料理取って来たぞ……む、リリオン様達とご一緒でしたか」
「ほら!これ食ってみろって!美味ェからさッ!!」
ファンガルに差し出された皿を受け取る。皿に乗った肉が立てる食欲のそそる香りがゼオの食欲を刺激した。
リリオンと話をしたことで、憂鬱な気分もいくらか晴れた。ちらっと横目でリリオンを見ると、彼女はニコッと微笑んでくれた。
「……ふふっ、どうぞ。遠慮しないで」
その優し気な笑みにまたドキッとしつつ、ゼオは肉を口に含んだ。
「……あ、美味しい」
「だろッ!?他にもまだまだあるから、また取りにいこうぜッ!」
想像以上の美味しさに驚いたゼオに、ファンガルは嬉しそうに声を上げた。
きっと彼なりにゼオのことを気遣っているのだろう。リリオンやラーボルトたちと同じように。
そのおかげで、少し経つ頃にはゼオも純粋に友人たちと舞踏会を楽しんでいた。
彼を悩ませていた、周囲からの期待も忘れて。
*****
「ゼオさん」
友人やリリオン達から離れ、一人用を足しトイレから出て来たゼオを誰かが呼び止める。
声のした方を向くと、そこにはケンギュラに到着してすぐ別行動になり、その後姿を見せなかった半獣人の少女、ハルラが居た。
「ハルラさん……ドレス、とても綺麗です」
彼女も舞踏会に参加するのか、すらりとした体型がよく映えるスマートなドレスを身に着けていた。彼女のイメージとは少し違う大人びた服装だったが、その意外性も含めよく似合っている。
「ふふ、ありがとうございます」
彼女の頭の上の獣耳が嬉しそうにピコピコと動く。
だが、彼女の象徴とも言える屈託のない人懐っこい笑顔は見せてくれない。困ったような、申し訳なさそうな曖昧な笑みが返って来る。
やっぱり、様子がおかしい。このところずっとそうだ。
このところ落ち着いて話が出来なかったが、今なら出来るかもしれない。
「……少し、話したいことがあるんです。ついてきてくれませんか?」
先に彼女にそう言われ、ゼオは何も言わず頷く。
「こちらへ」
くるっと背を向けたハルラの後に、ゼオは続いた。
すれ違う人も会話もなく、足音だけを響かせながら二人は松明で照らされたほの暗い階段を下りていく。
下り終えた先にある重く埃の被った扉をゆっくりと開いた。
そこに広がっていたのは巨大な地下空間だった。
幅も奥行きも数百メートル以上はあるだろう。縦の空間も二十メートルある
なぜ、ハルラさんはこんなところへ連れて来たのだろう。
ゼオが理由を尋ねる前に、彼女の方から尋ねられた。
「ゼオさん」
「ゼオさんは……もし、今も探し続けているご主人様が……
仕える価値のない悪人だったら、どうします?」
「え……?」
質問の意図が分からない。何故、探し続けている主について質問をするのか。
そしてそれが悪人だと仮定した意味も。
だが、彼女の放つ雰囲気は真剣だ。
答えない訳にはいかなかった。
「……僕は」
一拍置いて答える。
「僕は……例え仕える相手がどんな方であっても、一度誓った忠誠を曲げるつもりはありません。
もちろん、どんな方か実際に会ってみないと分からないですけど……」
「いえ、それを聞ければ十分です」
ゼオの出した答えを聞いたハルラの表情は満足げであったが、同時にどこか影もあった。
彼女はそのまま言葉を続けていく。
「ゼオさんは、ずっと私の憧れなんです……。
誇り高くて、揺るがない忠誠心を持っていて……私が目指していた理想の騎士、そのものでした」
「あなたとお友達になって、傍でご飯を食べて、一緒に戦っても……ずっとずっと、眩しくて」
「私は、あなたみたいになりたかった。揺るがない忠誠心を持った、本当の騎士に」
明らかに異様な雰囲気だった。口を挟もうとしたゼオの耳にズシン、ズシンと巨大な足音が響く。
ハルラの背後の暗闇から、彼女の
分厚い装甲をまとった丸っこい外見をしたその巨大な騎士は、ハルラの背後でその足を止める。
「何で、辰影が……」
その答えを求めすがるようにゼオは呟く。
だが、ハルラの返答は彼の望んだものではなかった。
「今度はもう、逃げませんから」
すっ、と彼女が腕を上げた。
それに合わせて、辰影の全身を覆う装甲がバシュ、バシュッと音を立てて浮き上がった。
鎧を脱ぎ捨てるように、装甲が剥がれ落ちていく。
そこに立っていたのは。
昼間、騎士学校でゼオを襲った────あの漆黒の
「私と……この"
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