異世界的な旅立ち方④




馬車の外に出た僕達の周りを取り囲むように、山賊達が馬から降りて、嫌みな笑みを浮かべながらこちらを観察してきている。



「よぉ、そこのてめぇら。金になりそうなもの全て置いていきなぁ」



「といっても、農具の鍬とかしかもってねぇような奴らだ。碌なものもってやしねぇだろうよぉ」



ちげぇねぇ という野次がとび、周りの山賊達がこちらを貶すように笑い出してくる。酷く胸の奥に黒い感情がこみ上げてくるが、下手に動く事もできやしない。



「どうしたどうした!。最近の山賊は口よりも下がよく回りやがる。」



「山賊よりも吟遊詩人にでもなった方が、天職だったんじゃないのか?」



こちらの村人もお返しとばかりに言葉を返していく、先程のもやもやもすっかり解消されて、少しずつ周りが見えてくる。山賊達の顔つきが険しくなっていく表情を読み取れて、思わずクスりと笑みが漏れてしまった。



「どうやら死にてぇみてぇだな。」



「おい!。はじめるぞ」



山賊達がそれぞれの武器を構えじりじりとこちらに近づいてくる。キラリと刃物の表面に日光が反射され、身体が徐々に石のように固まっていくのを感じながら、喧しく感じる心臓の音を必死にかき消そうと必死に頭を振って雑念を取り払う。


不意に、あの巨大な猪と一対一で戦ったあの時の命のやり取りがフラッシュバックする。あの時の怖さに比べれば…、今の状況がどんな困難があるというのだろうか。こんな時にあの勇敢な紫の髪の青年なら…



「突っ切るぞ。全員で前にいけぇええええええ!!!!」



気が付けば、声を出しながら僕は先陣を切って進んでいた。

言い換えれば、死の最前線へと自ら進んでいるというのに、後続の人達が続いてくるこの感覚に、不思議と笑みがこぼれてくる。


戦場の英雄達はこんな気持ちなのだろうと思っていると、もう目の前に取り囲んでいた盗賊の一人が、盾を前に出して待ち構えているのが見えてくる。


大丈夫、ひと-考えるな、大丈夫、出来る。

僕のギフトならどんなものでも、切り裂く事が出来るんだ。

ころし-何も考えるな。失敗しても後ろのみんながいるんだ。

○○○--今は何も考えるな!!



「おおおおおおおおお!!!!」



獣のような咆哮の後、持っている盾ごと、持っている包丁で下段から上段へ向けて一閃。振り上げた際に包丁に付着していた暖かく赤い水が、僕の頬に飛び散った。山賊の構えた盾と手首が重力にならいそのまま下に落ちて行く、遅れて痛みで大きく悲鳴を上げる山賊に僕は、手首を返して上段から山賊目掛けて包丁を振り下ろしながら、横を駆け抜けて行く、


ギフトの力で豆腐を切るような柔らかさで人だったものが簡単に切断されていく、僕が駆け抜けて陣形に出来た穴を目掛けて、後続の村人達も左右の山賊に各々の武器を振り回して薙ぎ払って行く。


陣形を抜けきった後に止まり、息を整えながら後ろを振り返る。

僕を含めたこちらの村人六名は問題ない。相手の山賊の方は駆け抜けた際に2名は息の根を止めたようだ。更にその端にいた二名も負傷しておりその場で蹲っている。


序盤としては上々な成果だ。

思わず拳を振り上げて喜びたくもなる。そうだ。この手の震えは上手くいった喜びに違いない。まわりの村人達も手を震わせながら笑いだしている。この興奮と気持ちが冷めやらぬうちに次の行動に移らなければ、



「進めぇええええええ」



声を張り上げる。今度は僕が最後列だ。

周りの村人が今度は先陣を切って進んでいく。

相手の山賊は残り4名。負傷して蹲っている者もいる。

相手を倒せば、僕達の勝ちだ!


先程から笑いが止まらない。もう僕は…いや僕達は正気じゃないのだろう。全力で駆け抜けた後、また全力で踵を返して敵へ向かって駆け出しているのに疲労すら感じない。皆が言葉にならない声をあげながら、山賊へと向かい、命を刈り取る為に人を追いかけているのだ。傍から見れば狂気の沙汰じゃぁないだろう。狂った笑みを浮かべて追い回す者は人では無く、悪魔だ。英雄譚の戦場を文字にするとなんとも悍ましいものである。



そうだ。僕は今、人の命を刈り取る為に走っているのだ。




















気が付けば、周りは死体にまみれていた。こちらも一人、最後に残った山賊の剣が運悪く胸を貫き息を引き取った。あたりには山賊が残した剣や胸当てといった。これから向かう戦争への準備に使えそうなものが散乱していた。


他の村人の青年達が無言で、利用出来そうなものを死体から搾取していくのを見て、紡もその中から村人の息を引き取った原因となった。胸に突き刺さっている剣を手に取って引き抜いた。



金具を外す音と、時々辺りを抜ける風の音だけが聞こえるこの空間で、周りの人は誰も言葉を発さない。死体を啄むカラスでさえ、鳴き声を発するというのに、




急に、胸の中から気持ちが悪いものがこみ上げて来て、嗚咽を漏らし、その場に力なく膝から崩れ落ちた。吐くものなんてないのに、それでも吐き気が止まらない。ずっと手が震えたまま止まってもくれない状況に、嫌という程理解した。


人を殺めるという罪悪感に、僕の心は耐えられる程、強くはなかったようだ。


戦闘中は必死に理由をつけていたのだけれど、これで僕は人殺しだ。この世界では当たり前のように山賊等がいて、日常的のように行われている行為でも、今まで全くの無縁だった世界にいた僕には、過剰なまでのストレスが押し寄せてくる。





「お、おい…あ、あああれ。」



一人の青年が震えさせながらも指を刺した方向、

通り抜けた山の方へと目を見やると、雪崩のように更に数十頭の馬の駆ける音と、怒声を含んだ雄叫びがこちらへと目掛け失踪して来ていた。



「散り散りに逃げろ!!逃げろおおおおおお!!!!」



馬車にいた最年長の男性が放った一言、それが合図となった。


先程殺めた山賊達が止めていた馬を、我先にと馬を扱える者達が飛び出して跨っていく、馬に乗れない者達はなりふり構わず我先にと脇目も見ずに一目散に散り散りに走り出していく、


一人、ただ呆然と生きる事を諦めた者がまだその場に座り込んで、震えながら奇声だけをその場で力限り叫んでいる。



そんな、地獄のような光景の中、紬は初めに目を覚ました森の中から逃げるように、この状況で何も出来ない自分を情けないと感じながらも、生き延びる為に後ろを振り向かずその場を駆け出した。














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人神戦争-Re_Start- 神前歩人 @kachu0_0

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