異世界的な旅立ち方③
馬車へ大きな声が響き渡る
「敵だぁあああああああああ!!!!」
それまで心地よく眠っていた紡は大声に驚き目を覚まして周りを見渡すと、馬車内に残っている他の仲間がそれぞれの武器を構えて馬車の外を見ている事に気が付き、慌てて自分の荷物に入っている刃物を取り出して、直ぐに外の景色に目を向ける。
「~~っ~」
どうやらこの馬車が山を越えた後、少し離れた後ろの道から、数頭の馬に跨って剣を構えている盗賊の集団が、この馬車に向かって駆け出してきていた。
やばい!やばいやばいやばいやばい!!!1
身の危険を感じた紡は祈るような気持ちで馬車の方へ眼を向けるも、
先程から馬車に乗っている御者役の青年も冷や汗をかきながら必死に馬を走らせていた。
周りを見ても夕刻に差し迫ったこの時間で、更には山を越えたばかりでまだ辺り一帯が平原が続くこの場所では、何の助けも期待できない絶望的な状況である。
更に馬車付きで走っているこちらに比べて、相手はそれぞれの馬に乗って、身軽にこの平原を駆けてきている。もう追いつくのも時間の問題だ。
頭の中に死の文字が浮かび上がってくる。
嫌だ。怖い!
「駄目だ、追いつかれて殺されちまうよ。」
馬車の中で身体を縮こませて震える青年がぼつりと言葉を漏らす。
皆考える事は一緒らしい。こっちは精々村からなけなしの木こり用の斧や、包丁での武装である。対して相手は剣や槍といった本格的な武器を持ち、馬に乗ってこちらにやってくるのだ。たまったものではない。
「こんなの、どうすればいいんだ。」
先程の青年の言葉をかわぎりに、耐えきれ無くなったのか周りの人達が口々に諦めの言葉を漏らしていく、僕だって諦めの言葉を吐いて助かるなら、楽になってしまいたい と考えが過るもかぶりを振って頭の中の弱音を打ち消した。
こんな時、僕の憧れる英雄譚の主人公ならどんな事でこの困難を打ち消して行くのだろうか、あの時村を救った紫髪の青年ーーラクトならどう言うのだろうか、
「ちょっ、、、ちょうどいいじゃないか!」
震えながら、気を抜けば景色が真っ白になりそうになりながら、紡は必死に震える声を上げだした。身体はガクガクと震え、足元は今にも崩れ落ちてしまいそうな感覚に陥りながらも、それでも声を上げずにいられなかった。
「ほ、、本当ならいきなり戦場を経験する事になるんだ。こっこんな数人しかいない盗賊なんてまがい物が練習台になって来てくれたんだ。だっだから…」
たどたどしくも、声を出していくうちに少しずつ話し方に力が乗って来ていた。言い訳や気休めなのかもしれないけれど、それでも…
しんっと静まった空気がやって来たかと思えば、馬車内にいた年長の男性がくっと笑いはじめ、それが合図となったのか、周りの仲間達も笑い始めた。
「なんだ?おめぇ。足元が牧羊の小鹿じゃねぇかよ」
「なっ!?そっちこそ奥さんに浮気がばれて顔面が真っ青になってた。酒場の主人みたいな顔をしてたじゃないか」
男性に図星をつかれ、紡も溜らず言葉を返した。それが更に周りの緊張を解いたのか、馬車の中に笑い声が響き渡る。
「しっかしお前の言う通りだな。俺が村を旅立って鍛えた筋肉達が、丁度いい力試しを探してた所だ!」
「ばっかおめぇ。結局は技の冴えよ!。俺が見回りの時に努力した素振りの冴えの方がよっぽど力にならぁよ」
皆が自分の不安を弾き飛ばすかのように、口々に自慢を口にする…。村を出てまだまだ日が浅いこともあってそんなに対して変わらないだろうと心では冷やかしつつも、紡自身にも余裕が芽生えたのは、皆と身体を来た始めた事がきっかけなのかもしれない。
「よっしゃ。あの時は巨大なボアの怪物が相手だったが、今回はひょろそうな馬に、もやしみたいな身体が相手のやつらしかいねぇじゃないか。御者も含めて山育ちの俺達が、自然で鍛えた厳しさってやつを教えてやるぜ」
最年長の男性がそう言葉を締めくくると、村の若者達はやる気を出して馬車の中に置いてある、木こり用の斧や畑用の鍬を各々が自身を鼓舞するように適当な言葉を投げ捨てながら手に持っていく、
本当に言葉というのは声に出してしまえば、なんという事もない言葉でも周りに自分の気持ちが電波していくものなのだろう。だから、村の全員はこの戦いに負けるかも知れない。。。なんて言うような言葉は必死に飲み込んで、冗談や雄叫びを上げるように檄を飛ばすのだ。
僕の好きな英雄譚の主人公や、そこに追従する仲間達もこんな気持ちだったのだろうか。皆が皆、死ぬかも知れない恐怖を抑え込みながら、それでも全員が生き残る希望に、縋るように…あるいは実現させるように祈りながら、声を届けていったのだろうか。
少しの間だったのだけれど、旅の間にトレーニングを続けたせいなのか、僕の精神力は後ろ向きに前向きな考えになったようだ。
そうだ、どうせ一度死んだ人生なのだ。あのような理不尽に何も出来ずに死んだ前回と違って、今回は自分で抗うことが出来るのだから、
「行こう、以前は村を救った僕達の、今度は村を出た僕達の初陣だ!!!」
馬車の止まる音がする。馬車の外には数頭の馬の蹄が大地を蹴って近づいてくる足音が大きくなってくる。そんな音を振り払うかの様に、僕達は力強く馬車の外へと飛び出していった。
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