異世界的な旅立ち方➁



「しっかしまぁ…」



馬車を操っている青年が、ぼぅっとしながら手綱を握りながらため息をついて周りを見回している、とはいってもほぼ何も変わらない平原の景色だ。旅だった当初ならともかく、数日も同じ景色を見た今なら、何度見まわしても珍しいものは見えず、暇を持て余したままだ。



「こう何もないと、暇で暇で仕方がないなぁ」



「本当に…そうだねぇ」



僕も僕で、交代制である内の御者の補助役として隣に座って同じ景色を見ているが、こうも何も無ければ同じく日差しの暖かさに頭がぼぅっとして、のどかに返事を返すことくらいしかする事が無いわけである。

後ろの交代を終えて自由時間となっている青年達は、思い思いの時間を身体を鍛える事に費やしている。



「こう何も無いと、それこそ何か面白い出来事の一つや二つ起きちゃくれないものかねぇ。こう…手頃な魔物とかが出てくるとか」



「めったな事言うものじゃないよ」



笑いながらふざけるように御者役の青年は話を切り出してくる。

それに合わせて紡も少し笑みを含めながら軽く言葉を返しておく、実際の所、そんな場面に出くわしてしまう事がごめんだが、ここまで何もないと事件の一つや二つは起きてほしいと思ってしまう所である。



「そういえば、この先って」


ふと、思い出したかのような仕草で御者の青年はこの平原の先の山をみやる。


「あの山を越えてずっと先へ進めば、目的地の大きい街につくんだが…どうやらあの山は街を追われたならず者達の住処らしい」


にやりとした口調で御者の青年はこちらに目線を向けてくる。そんな事は初耳だが、一緒に村で過ごしていた青年がどうやってそんな情報を仕入れられるというのだろうか。



「通っていく時に茂みでお花でも積んでみろ?

急に茂みから光り物を持った大男が飛び出して大事な息子と人生がおさらばよ!」



「おお、それは通る時に震えあがりそうだ。」



紡は大げさに身震いをする仕草を取って見せた。その反応が正解だったのか、御者の青年は声を上げて笑い出した。大体予想はつくが会話を繋げる為にも、どうやって情報を仕入れたのか聞いておかないと、



「…それで、その情報は?」



「そうだなぁ。 今俺が考えた」



「だと思ったよ」



苦笑いしながら、返事を返すと、御者は満足して道端の少し大きい石ころをよけるように馬を斜めに操っていく、実際の所山で暮らす者にとって食料は足りているだろうし、あんな木々の生い茂った山では、人を襲おうにも直ぐに隠れられて逃げられてしまうものである、逃がした者がたどり着く先はならず者を取り締まる所に駆け込むわけで、山狩りなんてされてしまえばたまったものではないのだ。


もし、襲われるのだとしたら、道が狭く、大きい石つぶてが落ちていて馬車を満足に動かせない場所か、徒歩で移動する旅人を逃がさないように、街から離れた見晴らしのいい景色にするだろう、



「まぁ、実際はこんなおんぼろ馬車でも、目的地に着くまでに襲われる可能性はあるわけだからなぁ」



頼んだぞぉ見張り役っと後ろの見張り要員である者に聞こえるように、御者の青年は声を上げる。後ろから見張り役の青年が笑い声がきこえながら任せろと返事を返してくるが、正直こんなおんぼろ馬車を襲うようなリスクはとられる事はないだろう、



「そうならない事を祈るよ、妄想の中では楽しい余興だけど、実際おきてしまうと僕達は何も出来ずにやられちゃうさ」



「戦争の募集への旅路から、あの世を移動する旅路に切り替わっちまう」



そろそろ交代の時間だと、後ろの見張り役が御者役を変わりに来た。御者役の青年は紡の役割へと変わり、程よく御者の補助役で何もする事なく、眠気がやって来た紡は馬車の中で眠る為に中へと入る前に、



「眠っている間にそうならない事を祈るよ」



と冗談めかして馬車の中へと入った。

馬車の外から、俺の運転は信用ならないってのかよ と不満げな声をわざと作って聞こえるように伝えてくる見張り役だった青年と、まぁまぁと笑いながら宥めようとする青年の会話が聞こえてくる。


本当に、数日の内に皆仲良くなったものだと思う、

これが、何気ない異世界の日常な風景なのだろう、英雄達から見れば僕を含めて等しく脇役なのだろうけど、脇役にだって等しく物語はある訳で、


割と僕はこの物語も気に入り始めてきた。暇な日常の中で身体を鍛え自信をつけて来た事で、自己肯定感が上がったのかもしれない。



「何にやにやしてんだ?」



同じく休憩している男性が馬車の中で身体を鍛えながら話しかけて来た。

そんなに無意識に笑みを浮かべていたのだろうか。



「最近僕も身体つきが変わって来たからね。そりゃぁ嬉しくもなるさ」



その一言で納得したのか、男性はまた自身の身体を鍛える為に鍛錬を再開しだした。紡も同じく身体を鍛えようかと考えたけれど、先程の馬車の眠気がまだ体に残っているのか、少し瞼が重たく感じ始めたので、休息をとる為に隅に寝そべる事にした。



次起きればまた、鍛錬をした後、見張り・運転・補助と続いた後、夕方には馬を休ませて休息の準備だ。


今はゆっくり休む事にしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る