第二話 異世界的な旅立ち方①

あの怪物の戦いの後、

旅人だったラクトとその隣にいた人物は、いつの間にか村からいなくなっており、僕こと境目紬はいつものお店の皿洗いとして精を出していた。働いていた村の生活も月日が経ち、いつの間にか秋を迎えて冬籠りの準備をする事になったのだ…が……、



「……はぁぁぁ、………」



結論から言えば…

あのボアの怪物が出ていた影響で、周囲の狩猟用の生物達の餌が枯渇していたらしく、今回の冬をこの村の人数で耐え凌ぐ事は厳しいと見込まれていた。


しかし、

どうやら今年は村の人々の話題になった世界情勢のとある出来事が発生したお陰もあり、食べ盛りの若い男性を中心とした村人数名達が、村を出て出稼ぎに行く事によって、出稼ぎ先でもご飯にありつけるようだ。。。



「……ぁぁぁぁ………」



更に極端に言えば、

元々村からすればよそ者であった僕は、ようやく村の一員になったのだと思っていたのだけれど、あのボアの件でギフト待ちだと知られてしまった影響や、ボアを一人で討ち取った実績もあってしまった事から、都合よく村の代表とされて今回の件に参加することになった。



「……………」



率直な言い方を伝えるのなら…

食い扶持を減らす為に、体裁よく村から見事に追い出されたのである。流石にため息の一つや二つに魂まで口から漏れ出てしまう勢いなのだ。


以上の事柄を纏めると、

カウンターで出来上がった品を運んでくる時に聞こえて来た戦争の話について、今まで全く関心が無かった僕だが、


いざ自分が村の有効活用の為に、口減しから微兵迄有効活用されてしまったからには、全く事情が異なって来てしまう状況だった。


一難去ってと言うが、また一難どころか今度は戦争だ。

どう考えても前途多難である。どうやら余程神は僕の事が嫌いらしい。

…祈る神が無くなった僕だが、藁にも縋りたいこの気持ちは一体誰に祈れば良いのだろうか。


せめて学園物の不幸系主人公のような、日常的な不幸ならまだしも…

ただの一般人が、大型バスのような身体と速さで突進して来る猪の怪物に、産まれたての小鹿のように震えながらも奇跡的に生還したかと思えば、


…今度は生存確率が某有名大学の倍率よりも厳しい戦場へご出向である。こんな駄作な人生設計図に誰が心躍ると言うのだろうか、心と身体が震える事しか出来やしない。


そうやって現実逃避を続けてはいたものの、

村の村長によって徴収対象となる若者の選考はいよいよ終わりを告げて、


長年村の行商を行っている商人が操る荷馬車へと、血の気が引いて真っ青な顔をしている僕を含めた村人達は乗せられて、めでたく無く村の門出を迎えたのである。


人間とは不思議なもので、初めは荷馬車と共に身体もガタガタと震えていたのだけれど、数日間も震え続けていれば、いい加減身体の方も慣れるみたいだ。


恐怖には鮮度があると言うが、

成る程鮮度というのは色んな所に存在するらしい…


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と言う事が、

村を救った一旦を担った僕が、口減らしとして戦場に駆り出される事になった人生の振り返りである。


もし僕に文官がいるとしたら、こんな物語をいかにして美辞麗句を並び立てて英雄譚の一幕に仕立て上げるのだろうか、僕には文官の才能がない事が残念でならない。


しかし、美辞麗句でも並べでもしなければ、この中世の英雄譚で殆どの人生録と言うものは、アニメや漫画の一コマのように楽しいものでもなく、


ただ一日中荷馬車に揺られ

飽きたらゆったり走る荷馬車の横を歩き

さほど変わらない目の前の山の景色を見やり

疲れたら荷馬車に戻り揺られる


そんな人生を書き連ねるだけの紙の無駄になる事しか無いのだと、思い知ったのだ。文章に変換するのならば、

○月○日、今日も山の景色は綺麗だった。

○月×日、今日も平野に揺られ続けた。


と言うくらいのものだ。

これでは小学生の日記である。



「96,97!!」



流石に数日も何もない事が続いてくると、

戦争に赴く恐怖や気持ちも薄れて、…けれども何か今のうちに出来ることは無いのかと考えた事で、今日も荷馬車の横では、村から共に出た若者達が、荷馬車の天幕の上や横で思い思いに身体を鍛えながら進んでいく事となった。


初めは恐怖に対する嫌な気持ちを紛らわせる為に、それぞれが思い思いに何かしら身体を動かしていた筈なのだけれど…、



「おいおい見ろよこの三角筋をよぉ」


「ぎゃはははは、ばっかおめぇ、村から出て数日でそんなに変わるわけねぇだろ」



共に身体を鍛えるという一体感がそうさせたのか、馬車に搭乗した村人達は筋肉を通して心を通わせていて、それがとても心地よく感じられた。



「おぉ、よく見たら筋ばってきてんじゃないか」


「解るか!?この俺の夢のシックスパックへの道のりが!」


共通の行いが距離を縮める事もあるんだなぁっと、僕達の住んでいた現代であれば考え辛い移動方法なのだが、そんなに悪いものでもなかったらしい、



嬉しい誤算といえば、

僕自身がほんの少し、身体に筋肉がついて来た事で、自信がついた事だろうか、



「その筋トレ方法良いですね!コツとかあるんですか?」


「おう、こいつはな?ここで止めれば下腹部に乳酸が…」



自信がついた事で、

こんな風に、筋トレの方法を聞いたりしながら、コミュニケーション能力がつきはじめたのだ。

案外、こう言う何もない生活も良い事がいっぱいあるのかもしれない。

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