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初めの死は餓死だった。














  

何も能力を持たないと思っていた私は、

村の住人と全く良い関係を気付けていなかった両親の、唐突な事故死によって天涯孤独となり、

文字通り村八分で誰も味方のいない状況に陥り、

生き方も解らずに、状況を変える為だけに村を飛び出した。



この世界の魔物に尻尾を巻いて逃げ延び、


喉が渇けば雨が降り終わった後の水溜まりの泥水すら飲んで乾きを癒し、


元々鍛えてもいない身体で当然狩猟が出来ず、何処の者か証明出来る身分でも無い為に、

他の街に必死の思いでたどり着くなり、物乞をしながらその場を凌いで来たが、


そんな生活が長く続けられる訳もなく…

私の弱い身体では直ぐに限界を迎えて動かなくなってしまい、段々と孤独に薄れゆく意識の中、




私の人生はあっけなく、誰にも見放されて孤独に道端の路地裏で生涯を終えたのだった。











しかし、



次に気がつけば私は村を飛び出した直後の地に寸分違わず立っていた。

まるで、全てが巻き戻されたかのように、

しかし、私の記憶はこれまで経験した全ての物事を覚えている。





ーーーー




「ほんと、隙さえあればお前は食べ物を食んでいるな」



苦笑いするラクトにジト目を送りつつ、昨日催された討伐による祝勝会で余っていたボアの肉を、無言で咀嚼する、食べ物を食べながら喋れば、コイツはいつだって決まって笑いながら、行儀が悪いと返してくるからだ。


そんな態度にラクトは何が楽しいのか笑いながら隣の椅子に腰かけ、こちらへ向けてこう言った。



「それで、今の俺達は何回目なんだ?」



この異世界人は聡い、私の能力を知った上での質問であれば、これから起こる出来事に対して、

人類は神へ何度敗れたのか見越した上で聞いて来たのであろう…



「私の精神的な年齢が、君の100倍の年齢に想定する位には‥かな?」



今回のセリフこそ、君の顔を変える事が出来るかも知れないと思っていたが、、、


いつまでも変わらず「つまりは数えるのも馬鹿らしい数字って事なのかよ」と、ケラケラ揶揄うように笑いながら、いつものニカっとした表情を見せた。



「それじゃぁ今回の俺が、

"今度こそ!"これ以上アルメナの精神年齢を上げさせる訳には行かないな!」



この男の自信はどんな絶望の淵に立たされても、最後の時まで貴方は変わることは無いのだろう。

それでまた、初めて会ったあの時と同じように、当たり前のように助けてくれようとするのだ。

私の長い苦悩を止めてくれた人よ。


自身でも気がつかないうちに、先程のラクトの言葉が嬉しくて、無意識に笑みが溢れていたようだ。キョトンとするラクトを見るのは久しぶりだろうか、


もういつの日のやり直しだったのか解らなくなってしまったけれど、


何度も繰り返したやり直しの中で、

繰り返した先で何処の街へ向かっても、

変わらず誰も彼もが見向きもせずに、私の横を通り過ぎていく中で、


絶望していくだけだった乞食の私に、初めて手を差し伸べてくれた人よ。


(物乞いをしながらでも生きる気があるのなら、俺の為にお前の人生を託してみないか?)


貴方のお陰で初めて私の絶望した人生に光が差し込んだのだ。


例えその先が、三年後に神によって行われる、

更に救いの無い理不尽な人類の終焉を知ってしまった事になっても、


貴方に会えた事が、絶望するだけだった私の人生を変えたのだ。


貴方の役に立つ為に、

文字通り命をかけ続けて森の野草や木の実を食しては、野垂れ死に続けながら知識を深めた事を知ったら貴方はどう思うだろうか、


村で学べなかった文字を覚える為に、人生の何度かを娼婦に身を落としながら稼いだ金を学費に回し、勉学を受けた事を知れば、貴方は幻滅するだろうか、


資金調達を覚える為に、覚えた各種文字を使い何度も成功と失敗、または博打やイカサマなんかも覚えた事を知れば貴方は笑い転げるだろうか、



今度こそ、私が貴方を死なせはしない、

私自身に力は無くとも、

未来は、私が必ず貴方を救う未来へ辿り着いてみせる。



「そんなガチガチに固まった顔をして、何かあったのか?」



どうやら少しラクトの方を見過ぎていたらしい。

苦笑するラクトをキッと睨みつけるが、彼は手をひらひらさせるだけでいつも通り笑みは崩さない。


相変わらずの対応に溜息を吐きながら、

今は決まった筋書きに対して物事を考える事に集中する。そろそろ秋に変わり、ここから目的地に向かう頃には、食物や流通も厳しくなる冬を迎える。


どうせこの何度目にもなる現時点で前世の元恋人は、旅の道中で色んな厄介毎と共に有能な人材を拾って来るのだ。


トラブルに巻き込まれる時間も考えると早い方がいい。



「そろそろ支度しなさい。この街を出なくちゃ行けないわ。」


「はいよ」



私の言葉にラクトは即答し、宿に置いてある自身の荷物を纏めて行く、

…元々荷物が少ない彼の事だから、荷物を纏めるのは直ぐでしょう。



「なぁ。アルメナ。

多分俺の事だ…

前の俺は何を思いついたんだ。」



荷物を纏めている最中のラクトから不意に質問が返って来た。

背中越しで見えないけれど、少し背筋がピクピク動いているのは、恐らく呆気に取られた私の顔を想像して笑っているのだろう…


私にとっては分かり易い彼の癖だ、

が、納得が行かない。


けれど、その通りだから何も反論ができる返しは無かった。


(そうだなぁ。…次の俺に任せるとするなら、

やっぱ大きくあれだな!!)


脳内で私だけしか経験していない前回の記憶を呼び戻す。


最後の時だと言うのに、思い出す彼の顔はいつも通りニカッした笑顔で、

そんな彼のこんな大それた台詞を、

今回の彼に私から告げるのだから、できる限り真似をした自信満々の笑みを浮かべて一言。



「今回の貴方がするのは、

神と戦う前に大陸統一よ」



とアルメナは言い放ったのだった。

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