英雄への踏み出し方④
「どうした!!、村の為に来たっていうのに、お前らの覚悟はその程度だったのか?」
声を張り上げたラクトに、村人達はハッと我に返り、一瞬息が詰まったかのように掠れた声を出しながら、
徐々に大きな雄叫びへと団結していく。
やがて雄叫びが一つの纏まった爆音に変わったタイミングを見計らい、ラクトは自身の拳を天に振り翳した。
「そうだ。それでいい!!
声を上げろぉ!恐怖は吐き出せ!!
俺達がここへ来たのは何故だ?
恐怖ですくみ上る為じゃない!
恐怖を打ち破る為にここに来たんだ!!
この程度の恐怖で、お前達の村が飲み込まれると思うなよ!」
ラクトの演説で一人…また一人とその目に決意を宿し、自身の武器である鍬や斧を天へと掲げる。
その決意は周りへ伝播していき、村の一団が団結し武器を振り上げた状況に、ラクトはニッと満足し満面の笑みを浮かべ、周りもつられてほだされて行く。
「俺はギフト所持者だ!
俺が一体を引き付けて確実に退治してやる。」
ギフトと聞いた村人達は一様に声を揃え、勝てるぞと自身を更に鼓舞していく、
この世界においてギフトというのは、それほど一般と比べるとかけ離れた力を持つものが多く、誰もが憧れ、望む能力であったのだった。
周囲の反応に満足したラクトは急にこちらを向いてニヤッと笑った。
途端に紬の背筋に悪寒が走る、
どうしようもなく嫌な予感がしたかと思うが、もう遅い、ラクトは紬の方に指を刺して堂々と宣言した。
「そこの紡もギフト所持者だ。残りの二体の内一体を倒して見せる」
その発言に村の一団は紬がギフト所持者なんて初耳だと驚いたような表情を浮かべたが、
今この状況において村の一団からすれば予期せぬ幸運が味方についたかのように、
紬に対して期待の表情が込められていく、
(今から恐怖の拭い方を教えてやるよ)
ラクトの話した方法というのは、
実際はなんていう事は無い、完全に逃げるという選択肢を無くしてしまうだけの究極の消去法だ。
見事にその場の勢いによって巻き添えされた紡は、当然暴露された話題に呆気にとられながらも、村人達の期待の視線から逃れられず…
ヤケになったかのように声を上げて、店から持ってきた長い包丁を天へ掲げた。
その紬の行動を見たラクトは正解だと言わんばかりに笑みを浮かべると、天へ掲げた拳を怪物に向けて突き出した。
「行くぞお前等!!とっとと終わらせて、村総出で猪肉のバーベキューとしゃれこもうぜ!」
大声と共に化け物の群れに駆け出したラクトに続き、村人達も一斉に走りだしていく、
近づけば近づく程、存在が大きくなっていく怪物に飲まれないよう、村の一団は必死で声を上げて足を止めずに前へと踏み出す。
ラクトの手から突然三つの稲妻が走り出し、猪の怪物達に帯電したかと思うと、急に左右にいた猪二頭が巨大なハンマーで殴られたかのように真ん中の猪の怪物から離れていった。
「磁力を付けた!!あいつらはもう、近づけられねぇ。
俺は右!紡は左だ!、真ん中の猪はお前らに任せる!」
ラクトは自身にも電流を帯電させると、飛ぶような速さで右方向の猪に跳んでいった。
我先にと言わんばかりに行動を起こしたラクトの自信のありように、同じギフト保持者なら…と、村人達の期待の目線を向けられた紡はもう後戻りは出来ず…
震えそうな身体に活を入れて村人達の群れから離れると、三頭の怪物の中で恐らく一番背の低い子供のような猪に向かって一人、
左へ駆け出していった。
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