英雄への踏み出し方③



---------------------------------------------




ザッザッと不揃いでありながらも、森林の中を村人の若人達の一団が勇ましく進行していく、

先導を切るのは村長の息子である屈強な体躯の青年であった。

周りが緊迫した空気に包まれていながらも、皆が勇気を振り絞って一歩ずつ前にいくその姿勢に、

紡も気を引き締めながら一歩ずつ歩いていく、



「なんだ?店員さん。今からそんな顔つきなのかぁ?、そんなんじゃ村に戻る頃には顔の表情がカチンコチンで戻らなくなっちまうぜ?」



急に横に現れた紫髪の長身の青年がケラケラと笑いながら、紡に向かって話しかけて来た。

周りの村人も、紡の顔つきを見ながらゲラケラと笑いだし、緊張がほぐれていく、

逆に紡は顔を真っ赤にしながら、下に俯いた。



「そういえば、自己紹介が遅れたな、俺はラクト、ラクト・アルディウス。そっちは?」


「つむぎ…境目 紡」



ニカッと笑いながら紹介してくるラクトに、少しムッとしながらも律儀に自己紹介を返す紡に、

ラクトはうんうんと頷いた。



「響きがアジア人みたいだな。いい名前だ。」


「もしかして、ラクトも異世界から来たの?」



そうだぞっと軽くいうラクトに、紡はポカンとしながらも、同じ世界の出身かもしれないという嬉しさで顔が緩む。



「不思議な話だよな。この世界って」



急に切り出した話題に紡がどういうことなのか考え込んでいくが、

ラクトは気にせずに自分の考えを話始めた。



「元の世界では、言語や国籍の壁があるっていうのに、こっちの世界に来てからは種族ですら違うのに話す事が簡単に出来るんだからさ。」



おまけに文字まで共通して認識できるんだぜ?って続けるラクトに、確かにそうだと考えを改めなおす。



「本当に、初めてここに来た時は糞みたいな環境だと思ったけど。


誰とでも対等に自分の考えを話す事が出来る所…

みたいな所は、くそったれな神に感謝するべきかも知れないな」



だから、紡とだって話す事が出来る訳だしなっと続けるラクトに

凄く心が強い青年なんだと紡は関心を示した。

そんな風に、考えた事も無かった。

ずっと生き抜く為に必死で、獣の音が響き渡る森林に怯えながらかけぬいた後も、

生きる為に、必死でこの村で働く事だけを考えていたけれど、そうやって色々な事を考える時間も必要なのかもしれない。


思考に没頭していた紡に、ラクトは問いかけるようにところで…と続ける。



「紡はさ、なんでも切断できる能力を持ってるのか?」



急にラクトから受けた一言に紡の思考は停止した。

ラクトに限らず、この村でも一言も今まで自分の能力を明かした事は無かったのに…。



「あー…ごめんな。連れの能力なんだ。間違っていたら悪いな」



紡ぎの視線に気が付いたのか、ラクトは頭を掻きながら、困ったような笑みを浮かべて謝ってくる。


確かに、自分以外にも色々な能力を持ってこの世界に降りてきた人がいるのなら、

相手の能力を解る人がいても不思議ではないのかもしれない。



「そうだよ。村のみんなには言ってなかったんだけど。なんでも切れる能力みたいなんだ。」



けれど、、、



「可笑しいよね。ファンタジーだとなんでも切り払える最強の力だと思うのに。

肝心の僕は多分…元の世界の大型犬が嚙みつきに来たとしても、身体がすくみあがる程に憶病なんだ。」



まるで、自傷するかのように、紡は言葉を吐き捨てた。


「ファンタジーの主人公はさ、理不尽な死が起きてもさ、何事もないかのように新しいステージで、それは楽しそうに次の人生を謳歌するんだ。


それを出来る程の力を持っている筈なのに、

僕はどうやっても主人公達のように踏み出す事の出来ない。


…そんな憶病者だったんだ。」


今迄憧れだったファンタジーの世界が、体験すればする程、こんなに理想と違う事に幻滅する。

そんな、理不尽が爆発したのか、紡の言葉は止まらなかった。


ラクトはそんな紡の言葉を最後まで聞き、少し考えた後、二かッと笑った。



「憶病でいいじゃねえか。

誰だって死ぬのは怖いし、蜂に刺される時だって恐怖で身が竦むもんだよ。

それでいいじゃないか。」



でもな?とラクトは続ける。



「誰だって憶病者なんだ。けど、なりたい自分になる為に、周りに自分がする事を言いふらしたり、自分が逃げない為の誓いを立てて皆が自分を奮い立たせていくんだ。

人間だから紡は憶病でいいんだよ。ただ、知らない事や怖い事に踏み出す為の、スタートの切り方が解らないだけさ、」


ラクトは俺だって戦うのは怖ぇよっと、最後に茶化しながら言いきった。

そんなラクトに紡は質問を投げかけようと…



「いたぞおおおおおおおおお!!」



先頭から急に響き渡った大声に、ラクトと紡は他の一同と同様に顔を引き締めた。

先頭の青年の視線の先を追うと、三頭の全長3m以上はある巨大な猪の怪物が、森林を抜けた先の草原で、こちらを警戒して雄叫びを上げた。


すさまじい爆音に村人達は恐怖で足が震えだした。



「怖ぇよな。」



ラクトは横にいる紡に質問する。

紡は当たり前だというかのように視線をラクトに向けるが声が出てこない。

ラクトはケラケラと笑いながら、それでいい。と紡に声をかけた。



「今から恐怖の拭い方を教えてやるよ」



ラクトはそういうと、今だ恐怖で森林から前へでる事が出来ない先頭集団の、更に前へと飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る