第20話 拒絶の結界

そいつが現れたのは突然の事だった。




「定めの巫女が現れたと聞いて来てみれば…まだ力にも目覚めていないんじゃん」




 勝手な事を言いながら、そいつは空から地面に降りてくる。


 赤毛のロングヘアーを後ろで一つにまとめ、面白そうにミコの顔を眺めてくる。


 人間の様な風貌をしているが、そいつが人間で無い事を示す様に、大きな翼を持っていた。




 ミコは警戒するように一歩後退り、一緒に居たセイラを守るように立つ。


 放課後、セイラは当然のようにミコについて来たのである。


 多分、セイラそこそこ戦える子なのだが、いつもの癖でつい人を守る様に立ってしまう。




「そんなに警戒しなくても、今すぐどうこうしようって訳じゃないし。ああ、自己紹介まだだったよね!」




 そいつは手を胸に当て、軽く会釈をする。




「私は朱雀の化身、炎華ほのか。一応あんたの敵だよ」




 そう言いながら、手のひらをミコにかざし、




「これは挨拶がわり!」




 火球をミコに向かって投げつける。


 ミコは、焦らず護符を一枚取り出し、水の壁を作り出す。




「へぇ〜!一応、戦えるんじゃん」


「最近、お前みたいなの多いからね!」


「その他と一緒にされると、なんか腹立つじゃん!」




 炎華は全身に炎を巡らせ、ミコの顔面に向かって拳を向ける。


 ミコは、顔の前で両腕をクロスし、拳を受けるべく身構える。がーー、




「占星・獅子爪牙ししそうが!」




 ドォガ!




 炎華の拳と、セイラが繰り出した術が激しくぶつかり、爆炎を生み出す。




「セイラ!」


「ミコさん、下がって!」




 セイラの言葉と同時に、後ろに大きく飛ぶ。


 爆炎の中をすり抜け、炎華が迫り来る。


 ミコは、五芒星が描かれた護符を地面に叩きつけ、再び一歩下がる。


 炎華が札の上を通る瞬間、素早く韻を組み、




「相生・大地!」




 護符のあった地面は盛り上がり、蛇のように炎華を捉える。


 先程まで柔らかく動いていた地面は、コンクリートのように固まり、炎華を放さない。


 ミコは土の力を借りて、炎の力を使う炎華の力を打ち消すのではなく、吸収して大地に流す事にしたのだ。


 


「へぇ〜、なかなかやるじゃん!」




 身動きが取れないはずなのに、まだまだ強気な発言をする炎華。


 


「なぜ、私を狙ってくる?」




 答えてくれるかどうかは分からないが、取り敢えず炎華に質問をしてみる。




「お前、一夜から何も聞いていないのか?」


「一夜?なぜ一夜の事を知っている?」




 炎華は、唐突に一夜の名を出して来たことに、少し驚いた。


 


「はっ!お前、一夜の主人だと思っていたが、何も聞かされていないとはな!その程度の関係って事じゃん!」




 むっ 




 確かに、ミコは一夜の事をあまり知らないかも知れない。


 しかし、ミコなりに一夜の事を分かり初めていた所なのだ。




(なんで、こいつにそんな事言われなくちゃいけないんだ!)




 ミコは少し腹が立って、炎華を睨みつける。




「図星…じゃん」




 あはははっ!




 炎華は、笑いながら捉えられていた土を炎で燃やし、灰とかす。


 そのまま、何事も無かった様にミコに向かって歩き出す。




「ミコさん!」




 セイラはミコを守るような位置に陣取り、構える。




「知らないのなら教えてやる!一夜は長年私の相棒だった。お前なんかよりもずっとずっと長い時を一緒に過ごしていたのだ。定めの巫女が邪魔をするまではな!」




 炎華は、ミコを睨みつけながら、身体から炎を放つ。




(しまった…)




 ミコは体を反転させ、セイラを庇う様な位置に立つ。




「一夜は私の物だ。返して貰おうか!」




 熱気がミコの背中を撫でる。が、それだけだった。




「炎華。いい加減にしてもらいましょうか?」


「一夜!」


「ミコ様、遅くなって申し訳ありません」




 いつもと変わらぬ笑みを浮かべ、ミコを見る一夜。


 ミコに背中を向け、炎華と向かい合うように立つ一夜に、とてつもない安心感を覚える。


 炎華は炎を治め、甘ったるい声を出す。




「一夜〜!やっと来てくれたぁ〜。お・そ・い・ぞ☆」




 そう言いながら、炎華は一夜に抱きつく。




(え…誰)




 先程の炎華と喋り方まで違うではないか。


 


「やめて下さい、炎華。私は貴方と相棒だった記憶などありません。こっちは勝手に付け回されて迷惑でした」


「またまた、照れちゃって☆コイツを痛ぶっていれば来てくれると思ってたよ!」


「貴方の為に来た訳ではないのですがね…」




 溜息混じりに言う一夜だが、炎華は一夜から離れようとしない。


 そんな二人を見ていると、少し苛立ってしまい、ミコの腕には力が入ってしまった。




「ミ、ミコさん、少し痛いです…」


「ご、ごめん、セイラ! 」




 セイラを抱きしめたままだった事をすっかり忘れていた。


 なぜか、少し顔を赤くしたセイラはミコからそっと視線を外す。




(なんか…ムカつく!)




 この二人の痴話喧嘩に巻き込まれて、あまつさえ、セイラを巻き込んでしまった事に苛立ってしまった。


 ミコは立ち上がり、未だに痴話喧嘩を続けている二人を睨みつける。




「いい加減に…しろーー!」




 その瞬間、ミコの叫びと共に、溢れ出る力を外に解き放っていた。


 力はミコの周りで光を放ち、その光から逃れる様に、一夜は後ずさる。




「まさか!」




一夜が焦ったように目を見開く。


 ミコを包む眩い光は一夜と炎華を拒むように結界を作り出す。




「おっと、ちょっとめんどくさい事になったじゃん!一夜、また遊びに来るからね!」




 そう言うと、炎華は翼を広げ、彼方に消えていった。


 ミコ自身も、自分の体に起こった現象に頭がついて行かない。


 自分では何もコントロールすることが出来ず、ペタリとその場にしゃがみ込む。


 


 はぁ、はぁ、はぁ。




「な…に?どうなってるの?」


「ミコ様!」




 一夜はミコに近づこうとするが、




 バチっ!




「くっ!」




 結界に阻まれて、一夜は逆に傷を負ってしまう。


 


はぁ、はぁ、はぁ。




 パニックになり、息が上がってしまう。




「ミコさん!」




セイラは、小さい体で、ミコを包みこむように抱きしめ、




「大丈夫、大丈夫ですよ…」




 セイラは、ミコの背中を優しくゆっくり叩きながら落ち着かせる。


 はぁ…はぁ…。




 「ありがとう…。セイラ。もう大丈夫みたい」




 そう言うと、大きく深呼吸してみる。




(いったい、何が起こったんだ…)




 そう考えていると、




「拒絶の結界…」


「え!?」


「定めの巫女が持つ力…拒絶の結界です」




 一夜は、絶望したような顔でポツリと言う。




(拒絶…私が、一夜を?)




 ミコは、地面に目を落とし、一夜とは目を合わせぬまま、




「一夜、詳しく教えてくれるよね?」




 そう呟く事しか出来なかった。

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