第14話 想いと思惑
ミコは自室の部屋の窓から顔を出し、夕日を眺めていた。
(最近多すぎだわ…)
ミコは気を失い、またもや自室に運び込まれていた。
あの時ミコに流れ出して来た記憶は、あの女の霊のものだろう。
(清花と言ったか…)
アキラを殺し、アヤカを苦しめている清花をこのまま放っておく事は出来ない。
信之介というあの青年は、アキラやアヤカのご先祖様で間違いは無いだろう。
しかし、ミコは彼女をただ清め、消し去る事を躊躇っていた。
『愛情だって憎しみに代われば、強い呪いを生み出す事も出来るんですよ』
いつか、一夜が言っていた事を思い出す。
清花は、愛情から憎しみを生み出し、自分自身にも『地獄に堕ちろ』と、呪いをかけているように見えた。
もしそうだとしたら、呪いを解いてあげたい。
ミコには複雑な女心も、恋も、憎しみに変わるような愛情も、まだ感じた事が無かった。
恋も愛を知らないミコは、本当に清花を理解してあげる事はきっと出来ないのだろう。
そんな自分に清花を助ける事が出来るのだろうか。
ただ、清花の記憶を共有したミコはとても悲しい気持ちになっていた。
(きっと、柚葉はそんな事望んでいなかった…)
最後のとき、柚葉は二人の幸せを願っていた。
信之介は柚葉を本当に殺したのだろうか?
もし、信之介が柚葉を殺していたとしたら、柚葉は二人の幸せを願うのだろうか?
清花や柚葉、信之介の事を考えると、ミコの頭はグチャグチャにこんがらがってしまう。
ミコは、今日何度目かのため息を吐く。
元来深く考え込む性格では無いのだが、ここ最近、色々と考え込む事が増えた気がする。
(自分らしくないなぁ…)
と、ミコが真剣に色々考えているのに、部屋の外からは、騒がしい声が聞こえてくる。
「ミコの様子を見ないと安心して帰れないだろ! 」
「いいえ、ミコ様は今お休み中ですので、私以外の入室はお断りさせて頂いております」
「おい! ミコ! 大丈夫なのか!? って、なんでお前はOKなんだ! 」
「騒がしいですよ。そろそろお帰りください」
カズマと一夜の声が代わる代わる聞こえてくる。
その途中で、アワアワと言う、二葉がパニクっている声が聞こえてくる。
ミコは、「しょうがないなぁ」と、立ち上がり、部屋の外に出て行くのだった。
ミコが目を覚ましたのを確認し、安堵したカズマは神社を後にしようとしていた。
一夜と二葉は夕食の準備をしているので、ミコは一人カズマを見送る為に神社の境内まで来ていた。
「カズマ、今日はありがとう。まさか『泣き虫カズマ』に助けられる日が来るなんてね」
「それ、本当に礼を言ってんのかぁ? こちらこそ『男女(おとこおんな)』を助けてやれる日が来るとはな! 」
そう言って、お互いに顔を見合わせ、
ぷっ!!
二人で吹き出してしまう。
「あはははははっ!そうだね。もうカズマは泣き虫じゃない! もう私が助けてあげなくてもよくなったんだね! 」
「そうだな! 今度は俺が助けてやる番だ! 」
ミコは、嬉しいような、少し寂しいような気分になっていた。
ふと、本当はお互いに思い合っていたはずの、清花と柚葉を思い出す。
顔には出さないように注意しながら、笑顔を作り、カズマを見送る。
「じゃあね! また明日」
ミコはそう言い残し、後ろを向き家に向かって歩き出す。
「ミコ! 」
カズマに呼ばれ、足を止め、振り返るミコ。
「お前が何に悩んでるか分からないけど、迷わない人間なんていないと思う。迷って、答えが間違ったら、そこから修正できるのが人間だと思うし、それからでも遅く無いんじゃないかな。そこからきっと一番いい答えが見つけられるんじゃないか? 」
カズマは恥ずかしそうに指で頬を掻く。
「要するにだ、他人の事ばっかり考えてないで、自分のやりたいようにやって、ぶち当たってみろよ! それでもダメなら…俺も一緒にぶち当たってやるからさ!」
カズマは照れを隠すように、歯を見せ、ニカっと笑う。
(ああ…そうだな)
「カズマ…ありがと…」
ミコは少しはにかみながら、カズマに向かって笑顔を見せた。
少しカズマの顔が赤かったような気がするのは夕日のせいだろうか。
カズマが急に大人になったようで、胸がざわつくのを感じた。
ただの幼馴染、腐れ縁…でも、ミコの事を分かってくれている、良き理解者。
ミコは、心が軽くなるのを感じていた。
夕食にもどって来た後、ミコの顔は心なしかスッキリしていた様に感じた。
ミコ以上にミコを観察してきた一夜は、表情の違いにすぐに気がついたのだ。
(あの男が何かしたのですかね? )
あのカズマという男は、ミコを強くする為に必要はないと切り捨てていたのだが、役に立つ事もあるのだろうか。
人間らしい姿をしている割に、一夜は人間の感情にとても疎い。
喜怒哀楽は顔を見れば理解出来るものの、心の機微は理解し難い。
ましてや、他人の事で悩むことなどあり得ない。
一夜はいつでも自分のやりたい様にだけやってきた。
それが一夜なのだ。
『そうだな。一夜が人間らしくなれば、私と分かり合えるようになるのかもな』
前の主はそう言っていた。
一夜はそれ以来、なるべく人間らしく振る舞う様にしていた。
しかし、やはり人間の感情を理解する事は難しかった。
一夜が初めて『哀』の感情を感じた時は、前の主が死んだ時だった。
それが本当に、人間のものと同じような感情だったのかはは分からない。
彼女が死ぬまでの間、一夜は触れる事さえ出来なかった。
彼女の強い力は、意志とは別に、禍々しい一夜の存在を拒んでいたのだ。
触れられるようになった時にはもう、動か無い、しゃべらない、もう二度と一夜の名も呼んでくれなくなったのだ。
一夜にもし、心というものがあるのならば、その時に感じた自分の一部が抜け落ちた様な感覚がそうなのだろうか。
しかし、今、一夜の目の前にはミコがいる。気高く、美しい魂は幾多の時代を超え、ミコに宿ったのだ。
(離れはしない…)
窓から入る月の光が照らし出すミコの顔はとても美しい。
寝ているミコの息遣いを隣で感じ、自分の左手をミコの右手に重ね、指に自分の指を絡める。
右手でミコの額に触れ、指を滑らせ髪を撫でる。
式神として呼び出された時、ずっと側に居る事を約束したのだ。
それは誓いなのか呪いなのか分からない。
ただ、失いたくない物。
ミコの側に居れば、あの時に抜け落ちた自分の一部を補うことが出来る。
ずっと一緒に居る為にもミコには強くなって貰い、何者にも負けぬ力を手に入れて欲しいのだ。
再び、死が二人を別つまで…
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