第52話 何故か勘が当たる、そして対決へ

「着いたぞ」


 美蘭が門の外でバイクを止めた。ヘルメットを外して見ると普通の夜の学校だ。セキュリティがかかっているから周辺しか見られない。


 ……通常ならば。


「うえっ、俺でもわかる。この学校に禍々しいというか嫌な空気が充満してる。蛍の勘は当たったようだ」


「そうなの? 私には全然分からない」


「さすが、あらゆることに鈍感オブ鈍感な蛍だ。しかし、相手の攻撃が無効という訳だから今はそれが役に立ってるな」


『ほ、蛍か。美蘭もそこにいるか』


 突然スマホが復活して魚川の声が聞こえてきた。


『魚川君っ! 無事? どこにいるの? 花音はどうしているの?』


『奴が一時的にスマホを使えるようにして連絡するように指示された。二人で学校の屋上に来いとのことだ。道は開けてあるともな』


 それだけ言うとまたスマホが圏外になった。やはり相手もITを使いこなすようだ。


「ミラ兄……」


「行くぞ。確かに門が開いているし、恐らく奴の力でセキュリティも解除して屋上の鍵も開けたのだろう。やってこいと言わんばかりのシチュエーションだ」


「花音、何で呑み込まれたの? 魚川君を拐った理由は何?」


 自問自答する蛍に美蘭は急がせた。


「それは早く屋上へ行って本人に聞くしかない。バイクを校内に動かしておかないと切符切られるな」


「じゃ、私が先に行ってる」


「いや、一緒に連れていって欲しい。禍々しい気配が強くて正直、気分がおかしいんだ。正気であるお前が誘導してくれ」


 こんな弱気なことを言う美蘭は初めてみた。それだけ相手が短時間で闇を増長させたのだろう。


 そんなに彼女は闇を抱えていたのか、でも真の敵は石だ。ハンマーで破壊すればやっつけられるかもしれない。蛍はハンマーを右手に持ち、左手を美蘭に指し出した。


「わかった。ミラ兄、誘導するから手を繋いで」


 美蘭の手をしっかりと握り、蛍は解錠されている扉から入っていった。


 中は真っ暗なのでスマホのライトを付けて進む。本来ならバッテリー消費するから滅多に使わないが、どうせ圏外だからこのくらいしか役に立たない。


 美蘭は校内に入った瞬間に顔をしかめだした。かなり気分が悪そうだ。


「瘴気と呼ぶべきなのか、とにかくひどく汚れている。相手は屋上なのに校内にこんなに充満しているなんて」


「ミラ兄、気休めかもしれないけど、こないだの水晶、まだいくつかあるから持ってて」


 蛍はハンマーをポケットに刺すように入れ、反対側のポケットからいくつかの水晶を美蘭の服のポケットに入れた。


「ありがとう。でも、お前にもらったホワイトトパーズもあるからな。そういえば俺が贈った蛍石、ペンダントとブレスレットは付けてくれてるのだな」


「うん、ヘルメット被るからイヤリングは諦めたけど、ミラ兄が作ってくれたものだからお守りになるかなって。パワーストーン的には魔除けはないけど光る石だもん、少しは闇に対抗できるかなって」


「蛍……なんか、昔より変わったな。前は全くオカルトなんて信じなかったのに」


「現実主義は森山の叔母さんの影響もあるかな、あの人は私より現実主義だし『力こそ正義であり全て』がポリシーだもん。でも、魚川君の存在でさすがに認めるようになった」


「そうか……。三田先生にもひと肌脱いだし、成長してるのかな。まだまだ鈍いが、今はそれが役に立ってる」


「さり気なくディスっている気もするが、非常事態だから不問にする」


「おい、そう言いながら握る力が増してるぞ。握力いくつあるんだよ」


「さあ? 地学部って運動部に近いから体力やら握力が上がっているのじゃない? さて、屋上のドアに着いた。行くよ、ミラ……兄?!」


 美蘭が蛍を強く抱きしめた。


「さすがに不気味さが強くなって不安になってきた。悪い、少しでいいからこうして落ち着かせてくれ」


「ミラ兄……」


 こんなことをされたのは初めてだから、蛍も顔が赤くなり心臓の鼓動も早くなっていく。


「万一のために言っておくよ。蛍、お前が好きだ」


「え?」


「初詣に誘ってそこで告白しようと思っていたが、この先が見えない事態だ。俺が闇に飲まれるかもしれない、正気を失うかもしれない。死んでしまうかもしれない。だからその前に言いたかった」


「……死んじゃやだ」


「非常時だから返事は求めない。さて、ドアを開けよう」


 そうして蛍たちは屋上へのドアを開いた。







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