第51話 蛍と美蘭、捜索を開始する
それから間もなく美蘭が到着して、蛍は少し安心した。魚川の秘密を共有しているのは彼だけだ。
「うわ、本当に無くなっている」
「どうしよう、私が本を返しに目を離したばっかりに」
涙目になる蛍を慌てて美蘭がなだめる。
「落ち着いて。ええと、今日の出来事をまずは順に教えてくれないか」
そうして蛍は魚川から聞いた禍々しい石のこと、本を返しに花音の家と図書館に行ったこと、留守中に花音がやってきて部屋に入ったことを話した。
「総合すると禍々しい石の細かいことはともかく、その持ち主が花音ちゃんであり、石の闇に呑まれて魚川さんをさらったのか。ハンマーがあるのに水浸しではないところ、そのままリュックなどに入れて持ち去ったのだろうね。スマホが使えなくなっているのも、その石の奴が妨害電波でも流しているのだろう。俺のスマホも圏外だ」
蛍から話を聞いた美蘭が推理をする。
「ミラ兄は魚川君とテレパシーできるのよね、それで連絡つかない?」
「今のところ、何も聞こえない。こんな事態なら普通は呼びかけているはずだから。奴が邪魔しているのか、テレパシーが使えない距離なのか、或いは……」
「それ以上は止めて!」
蛍は強い調子で遮った。普段は塩焼きにするとか言ってた割に万一の事態は考えたくないようだ。
「誘拐だとこちらに何か対価を求めてくる可能性が高い。まずは花音ちゃんの家に向かおう。帰っていないとは思うが、接触を待つだけなんて嫌だろ?」
「うん……」
「美蘭君、一緒に夕ご飯でも……あら、どこか出かけるの?」
蛍の母が部屋に来た時、ちょっと彼女が驚いたのは蛍はコートを羽織り、いつものハンマーとザックを背負っていたためだ。
「花音が間違えて持っていったものがあるから、今から急いで行って返してもらうの」
「でも、ここから自転車でも時間がかかるわよ」
「俺のバイクに乗せます。ただ、彼女がまだ帰っていないかもしれないから、その時は待たせてもらうし、帰る時間が遅くなるかもしれません。そうしたら二人で夕飯取るので」
美蘭が蛍の母に説明する。
「まあ、美蘭君がそういうなら。成人だから保護者にもなるし、でも相手のご迷惑にならないようにね」
「はい、ママ」
そういうと素早く二人はバイクに乗って出かけていった。
「もしかしたらデートかしらね。鈍感なあの子にも春が来たのかしら」
母は事情を知らないからのんきな想像をしていた。
(魚川君、どうか無事でいて)
蛍はバイクに乗りながら必死に祈ることしか出来なかった。
〜〜〜〜〜
「あら、蛍ちゃん。またどうしたの?」
蛍がヘルメットを脱ぎながら尋ねる。
「おばさん、花音は帰っていますか?」
「まだ帰ってきてないわ。そろそろ夕飯なのに」
二人は顔を見合わせた。花音は魚川を連れてどこかに行ったのか。とにかく心当たりをあちこち探すしかない。
「んー、買い物などしてるのですかね? どこかよく行く場所ありますか?」
「うーん、よく行くのは図書館だけどもう閉まってるし、荷物抱えたまま寄り道しない子なのに」
花音の母も娘の帰りの遅さに困惑しているようだ。
「わかりました。花音のスマホが通じなかったので、来てしまいました。突然お邪魔してすみませんでした」
蛍が一礼してヘルメットを被り直し、再びバイクに乗った。
「ミラ兄、学校へ行ってみよう」
「根拠あるのか?」
「全く無い。でもどっか探していないと落ち着かない」
「わかった」
そうして美蘭はバイクを高校の方角へ向けて走り出した。
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