第50話 大掃除はまだまだ終わらないからの事件発生

 あれから数時間後。蛍の部屋はようやく石の墓場の分類が終わったところであった。時計を見ると午後四時近くになっており、薄暗くなっていた。


「や、やっと水晶と化石のニ種類に分けた。あとは修復できそうなのとできない物の区別だ。いっそ化石は庭の一角に埋めてお墓でも作ろうかしら」


『それは一見すると良い行いに見えるが、庭へ不法投棄とも言わんか?』


「ううっ、産地の違う石を捨てるな、環境に悪いって金町が怒ってたやつでしょ。世知辛いなあ。しかし、生き物の形をしたものをゴミに出すなんて雑な扱いはできない」


『木っ端微塵にして数年放置した者の言葉とは思えぬな』


「うぐぐ。じゃ、気分変えて本棚の整理にしますか。げ、図書館の本を三冊も返してなかった。期限は一週間前じゃん!」


『今更だが、大人になったら雑に暮らしそうじゃの。わしがせっつかなかったら今頃はゴミ屋敷じゃ』


「げげっ! こ、これは花音から借りた『悪役令嬢は婚約破棄され破門されましたが拳ひとつで無双して世界を制覇する』、略して“こぶせは”シリーズが三冊も出てきた! か、返しに行ってくる!」


『いや、既に雑か……』


「聞こえてるよ、って今はツッコミしてる場合じゃない! 図書館は返却ポストあるけど、花音は怒ってるかも! チャリで飛ばせばなんとかなるかも! わび菓子か詫び石は後にする! とりあえずハシゴして行ってきまーす!」


 蛍は慌てて本をバッグに入れ、飛び出して行った。


(いつも騒がしいのう。って、花音殿の家に行くのなら本体この石も持って行ってもらえば一発で問題の石が近くにあるのかどうかがわかったのだが、明日にしてもらうか。美蘭のトパーズは気配はなかったから安全だろう。

 伊藤さんは不遇な過去があるから、危ないとしたら彼だが遠すぎるから電話して様子を聞くしかないのう)


 魚川は魚川なりに悩んでいた。


(持ち主から記憶を読んで我の存在を知っていたら、下手すると浄化できる我を攻撃してくるかもしれぬからな。蛍は鈍いが、ある意味そう言った闇にも鈍いというか耐性があると言える。あとで帰ってきたら頼もう)


 そう思って寛いでいた矢先、下から蛍の母の声が聞こえてきた。


「蛍ですか? さっき、本を返してくると出掛けました。今頃は図書館まで自転車漕いでいるから、電話も気づいてないのかと」


「じゃ、部屋に入らせてもらっていいですか? 貸しっぱなしにしていたものをいくつか回収したいのですが」


「うーん、散らかっているからすぐ見つかるとは思えないけど、蛍が帰ってくるまで待ちますか?」


「いえ、急ぎなのです。プライバシー侵害しない程度に部屋を探しますから、それで見つからなかったら、後で本人にまた連絡します」


「それならば仕方ないですね。本当に蛍が迷惑かけてすみません」


(なんか聞いたことある声だのう。蛍はどれだけ借りパクしていたのだ)


 そう思っているとよく見知った人が入ってきた。テレパシーは使うとまずいので黙っていると自分の石をつかみ、ザックに入れていく感覚がする。


(な、何を?! まさかこの子が闇の石に呑まれたのか。ものすごい邪気を感じる。かといって、ハンマーがそばにあるのに破壊しない、つまりは我を取引の材料にするのか)


 為す術もなく、魚川はザックに入れられてしまい、声の主は蛍の母に「すぐに見つかりました、ありがとうございました」と言って移動を始めた。


(もしかして、わしは拐われた? 蛍にはテレパシー通じないし、美蘭に伝えるとこの子にも伝わる。スマホは何かで“じゃみんぐ”されて使えない。まずい、まずいぞ)


 魚川は焦るがどうしようもなく、そのまま一緒に移動するしかなかった。


 ~~~~~

「え? 花音はうちへ向かったのですか?」


 三十分ほど自転車をこいで、やっと花音の家に着いた蛍はぜえぜえと息を切らしながら、家族の答えにあっけにとられていた。


「ええ、貸して貰ったものを返して貰うと言って、あなたの家に向かいましたよ」


 どうやらすれ違ってしまったようだ。もっと早く気づいていればこんな事にはならなかったのにと悔やみつつ、対応してくれた母親に本を渡す。


「多分、この本がそうです。私もさっき気づいて返しに来ました。すれ違ってしまったことや遅れてしまってごめんなさいと伝えてください」


 対応してくれた花音の母親に本を渡しつつ、「では、急ぎますのでこれで失礼します」とだけ告げて自転車を漕ぎ出した。


 次は図書館である。返却ポストがあるとはいえ、一週間も滞納してしまった罪悪感はさすがに持ち合わせていた。こないだの合宿で少しは常識に目覚めたのかもしれない。


(そういえば「返却のお願い」メール来てたけど忘れでたなあ)


 やっと、図書館に着き、閉館時間を過ぎていたので返却ポストに入れたときには達成感というか、ミッションコンプリートした安心感で、帰りはゆっくりと自転車を漕いでいた。


(やっと本を返した。今日はここまでにしてあとはルーティンワークの魚川君を磨くことだけにしよう。大晦日まであとちょっとだけ猶予があるし、無理はしない。あ、スマホも忘れてきちゃったな)


 ~~~~~


「ただいまー。やっといろいろと返してきた」


 蛍がリビングに入ると母が予想外の言葉をかけてきた。


「さっき、花音ちゃんが借りていた物を回収に来たわよ」


「やっぱりすれ違いになっていたか。もっと早く気づけば良かった」


 後悔しつつも部屋に戻ると違和感に気づいた。いくら鈍感な蛍でも分かる。


 魚川の魚石が無くなっていた。蛍が慌てて階下に降り、母に尋ねる。


「ママ。花音は何を回収したの?」


「そこまでは聞いていないわ。部屋に入らせてくれと言ってすぐに見つかったとだけ」


 まずい、禍々しい石の正体はともかく持ち主は花音だった恐れが高い。闇落ちした理由がわからないけど魚川君が危ない。


 部屋に戻ってスマホで呼びかけた呼びかけたけど、応答はなかった。しかも、なぜか圏外になっていてどこにもかけることができない。魚川君といい、現代のあやかしはITを使いこなせるようだ。応答がないのもきっとその禍々しい石が妨害電波でも流しているのだろう。そうなると携帯は使えない。蛍は階下に降り、親に聞かれる覚悟で電話をした。


「もしもし、ミラ兄? 家電でごめん。大変なの、魚川君がさらわれた!」


「何だって! とりあえず今そちらへ行く!」




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