第49話 大掃除は果てしない・花音編

「あー、去年の参考書はどうするかな。復習に使うかな、どうするかな。ノートは授業以外は要らないと」


 花音は自分の部屋で片付けをしていた。紙の本と電子書籍と併用しているためにそれなりに物が増えていた。


「あと、こないだの岐阜の石も未整理だったわね。私もトパーズ取りたかったな」


 花音が採ったのは高温石英、水晶、錫石であった。地学部のサンプル用に選り分けた後、余ったら各自持ち帰っていいと言われたので、結構な数になっていた。


「あのときは高温石英が透明感あるそろばん玉みたいで面白くて持ち帰ってきたけど、ちょっと多すぎたわね。あとは水晶と錫石と。ま、この錫石はガラス光沢だからいいかな。ケースに入れてラベリングしなきゃ」


 水晶は万能効果のあるパワーストーンとも言う。科学的には二酸化ケイ素が長い年月をかけて結晶したものだが、そこにロマンや神秘を求めるのだろう。そして自分の願望も。


「効かないと思いつつも集めてしまうわね」


 ため息をついて、採取したものやお店で買った水晶やローズクォーツを眺める。これで願いが叶うなら水晶鉱山があった甲府では武田信玄が天下を取っていただろうと思うのは飛躍しすぎだろうか。


 現実には宝石で歴史が変わったのはマリー・アントワネットの首飾り事件くらいだと考えている。

 あとはホープダイヤモンドやコ・イ・ヌールなどのいわく付き宝石、それは歴史的という程ではない、後世の脚色がほとんどだ。


「そういえば、山で石を拾ってはならないなんてオカルト話もあるわね」


 錫石をつつきながら独り言ちる。


「そんなこと言ってたら、地学部や鉱石ハンターや鉱山の人が全部呪われるけどさ。でも、鉱夫さんなんかは自分で掘った金や鉄、宝石の鉱石が自分の物にならない理不尽さを感じてたのかな」


 自分の物にならない……。何だか自分のようだ。いや、彼は人であって物ではない。

 でも、あまりにも相手にされない。彼がずっとあの子を向いているのはわかっている。

 いとこで幼なじみという自分では手に入れられない立場に、嫉妬すら覚える。そして、彼の気持ちにに気づかない彼女にも苛立つ。目の前にダイヤが在るのに見えていないようだ。


 なんであの子だけ。だんだんネガティブな考えに捕らわれてきた。いつもはそんなことは考えない。割り切っていこうと思っていたはずだ。新しい出会いもあるかもと思っていたが高校生活もあと一年ちょっと。


 不毛な片想いで三年間が終わるのか。片想いでもかつての三田先生のように無償の愛として過ごせるのだろうか。いや、彼は覚悟が足りなかったから皆で後押しした。無償の愛ではなく、臆病な片想いだったのだ。


 あの子さえいなければと考えかけて、気を取り戻す。今までにない何かとても辛辣で恐ろしい考えに飲み込まれかけたようだ。


(石のオカルト話を連想したせいね)


 花音はサンプルを仮整理して、とりあえず錫石はケースに収まらなかったので、エプロンのポケットに入れて他の片付けに取り掛かることにした。


 ポケットから禍々しい黒い煙のようなものがにじみ出ていることに花音は気づく由もなかった。









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