第47話 大掃除は果てしない・美蘭編

 こちらの石川家でも大掃除は行われていた。

 美蘭は蛍より整理整頓できているから、自分の部屋はあらかた終わっている。あとは仕上げの掃除機と雑巾がけくらいだ。


「やっぱり水晶より綺麗に輝いてるなあ。ブルートパーズなんて着色処理するよりこっちが断然いいよな、って鉱石マニアだからかな。皆、色が付いている方が好きだもんな」


 蛍にもらったホワイトトパーズを眺めてニヤニヤしていた時、階下から母の声がした。


「美蘭ー、ちょっとタンスをずらすの手伝って」


「今行くー」


 石をサンプルケースにしまい、階段を降りていった。


 他の皆から聞いた話では、彼女は二個も見つけたが、それとは別に指輪を拾い、その落とし主の状況に同情してあげてしまったようだ。「少しでも幸せになって欲しい」とまで言って。

 その落とし主の話で蛍が大泣きして三田先生を真剣に説得したというのも驚いた。


「お揃いにして欲しかったけど、アイツは優しいからな」


 普段こそガサツだし、化石破壊魔だし、人が食べてる物を狙うし、仙人でも「クソ魚」と呼び、万一の時は人類未踏のグルメにすると言っている鬼畜なのだが、後輩の面倒をみたりと以外といい面は忘れ去られている。

 ……いや、こうやって整理すると鬼畜度の方が高い。今更ながらなぜ好きになったのだろう。


 それに、こないだのプレゼントは受け取った第一声が「な、何か企んでる?」だった。ここまでしても信用されていないのか、鈍いのか。三田先生を説得したのだから少しは恋愛が分かるようになったと思ったが、まだまだ道のりは遠いようだ。

 やはりストレートに言うしかない。初詣にでも誘おうか、その時に告白かな、と考えながら降りていたら母親に呼び止められた。


「美蘭、タンスは一階よ。なんで外に出ようとしてるの」


「ごめん、母さん。考え事して歩きすぎた」


「しっかりしてよ、ここの次はリビングの裏、冷蔵庫の裏とホコリを取らなくてはならない場所いっぱいあるのよ。電気代値上がりしているから節約のためにも清潔にしないと」


 だから、今年の掃除は気合が入っているのか。でも、男手はもう一人いる。


「父さんは?」


「腰痛起こしてるからと言うから、小物を磨いてもらってる」


「さっきチラッと見たけど、小物磨きって言って鉱石眺めてサボってたようにしか見えないけど。腰痛起こしてるなら、まだ整骨院開いてるから行かせたら?」


「またサボってるのね、しょうがないわねえ。確かにサボる口実無くすためにも整骨院へ行かせるわ。お兄ちゃん達も返ってくるのに、困ったものね」


 母はそう言って父の部屋に行き、やれ整骨院行け、腰が痛くて出掛けたくないと軽いケンカが始まってしまった。


 取り残された美蘭はとりあえず一人でタンスの裏側の掃除機をかけ始めた。


「アイツ、石の墓場も放置してるから大掃除なんてできないんだろうなあ。一緒になっても尻に敷かれる未来しか見えない気がする。いや、今年は魚川さんがせっつかせているかな」


 忙しいながらもどこにでもありそうな風景だが、数時間後に命の危険に晒されるとは予想もしていなかった。




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