第40話 楽しい時間なのに邪魔が入る
そうして夕飯が始まった。やはり寒い季節のため、食堂には地学部以外はほとんどいないから貸し切りのようだ。とはいえ、ミッションコンプリートまで予防対策はするに越したことはない。話すときはマスク着用にして小声にする。
とはいえ、後半は恐らく食事どころではなくなるので、前半は黙々と食事を済ませていった。
「金町は明日に持ち越しだね」
「黄色いトパーズが欲しかったけど、今日の結果からして透明なやつでもいいかな。先生が取ったものと俺の水晶と比較したけど、同じ無色透明の原石でもやっぱり輝きが違うな。で、先生。誰に贈るのでしたっけ?」
先生の目が明らかに泳ぎだした。さっきの耳の赤さといい、嘘は付けないタイプのようだ
「だ、誰かに贈るなんてそんな。地学部のサンプル群に」
「それは私達に任せてください。さっき金町君は『贈りたい人に贈ってください』と言ったときは頷いてたのに」
蛍が早くもカフェインで興奮したのか、詰め寄る。
「い、いや、あれはそういう意味でなくて」
「先生、とぼけても無駄ですよ。お風呂の時もそうでしたが嘘は付けないタイプですね。僕はもう誰かに片思いしてるのは分かってますよ、と言ったら観念したじゃないですか」
杉が冷静にツッコミを入れる。
「そうです。少なくとも失恋したから元気無いのはバレバレでした。で、今は失恋から片思いに戻ったのもバレてます」
杉から教えてもらったのに、蛍はまるで自分が推理したように言う。
「副部長、推理を横取りしないでくださいよ」
「まあ、私もあの事件に巻き込まれたから判ったことだしね。あの事件で傷心中のモネ先生でしょ?」
「蛍先輩、ストレート過ぎます! コーラでもそんなにカフェイン効いてきたのですか?!」
そうしているうちに三田先生の顔が急激に赤くなっていく。お酒のせいではないのはジョッキのビールは半分ほどしか減ってないことから明らかだ。
「金町、杉。どっちがバラしたのだ?」
「バレるも何も。先生は嘘つけない人ですね。わかりやすい」
花音はうんうん頷きながらドリンクを飲む。
「それに先生も沈黙のシグナル出してたじゃないですか」
蛍が畳み掛ける。
「な、なんだ、それは」
「杉君のヒントでわかりました。付け焼き刃でも石言葉まで勉強したのですね。普段付けているアレキサンドライトのネクタイピンにヘマタイトのブレスレットです」
「あれは色が変わるのが面白いのと、ブレスは健康にいいかと」
「そんな軽い気持ちではアレキサンドライトなんて買えませんよ。合成でもいいお値段ですから。もう顔と態度に出てるし、男子は知ってるのにまだとぼけるのですか? 二つとも石言葉は『秘めた想い』です。」
「……地学部は恐ろしい。もしかして地学部ではない宝石好き女子にもバレているのか?」
「んー、そこまではバレてないと思いますが。だから、地学部の合宿で宝石拾いにしたのですよ。
あのクォリティーならプレゼントにいいですし、表向きは合宿での成果のお裾分けにできるから重たくないし。金町君の彼女へのプレゼントに採集に来たのは本当ですけど」
「……先生の負けだ」
「ホッホッホ、愉悦、愉悦と」
「蛍、国語の成績の割にはそういう言葉は知ってるのね」
「悪役令嬢ものばかり読んでるからかな」
先生は残ったビールをグイッと煽った。お酒の力でこの混乱を乗り切ろうとしているのか、杉の予想とおりに饒舌になるのか。
蛍がネタばらしをして、愉悦に浸っている時にスマホの着信音が響いた。さっきとは違う別の番号だ。指輪の落とし主かもしれない。
「チッ、これから楽しい時間なのに。指輪の落とし主だと思う。ちょっと席を外すね」
「行ってらっしゃい、蛍先輩」
「蛍がいなくなっちゃったから、ある意味盛り上がりに欠けるけど、未成年の私達でも束になれば相談に乗りますし、ここだけの話にもできますよ。あ、プレゼントのラッピングは任せてください」
「私は石言葉だけでは弱いと思って花束用の花言葉調べてます! 重たくない愛の言葉の花を探しますから! 花束もプチブーケならセーフです!」
花音と七海が嬉しそうに申し出る。先生は突然の展開とドッキリを仕掛けられた人のように赤くなったまま固まっていた。お酒の力はまだ効いてないようだ。
「あー、楽しそうなのに。早く済ませようっと。もしもし、石川ですが」
『もしもし、指輪の落とし主の伊藤と言います。見つけていただいてありがとうございました』
三田先生より年上っぽい声の男性が出た。三十代半ば、いや、それより上のような声だ。
蛍が電話に応じたが、このときはすぐに終わると思っていた。
(美蘭ではない普通の電話か。しばらく黙っているか“ず~も”でないと不自然だからな。昼間はちょっと遊んだし)
珍しく、魚川は見守りモードに入っていた。
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