第39話 作戦打ち合わせ、いよいよミッション第三段階
宿に着いたのは五時半と少し遅くなってしまった。
男子はひとっ風呂浴びてくると言ってたが、女子は夕飯の時間に間に合わなくなりそうだからと夕飯後の適当な時間にすることにした。
その間に役割分担の協議をするのである。
「トパーズの手入れは三田先生がするとして、ラッピングは私がチョイスしよう。男の人のセンスって少しズレてるから」
「私、一緒に贈る花束を調べるために電子書籍で花言葉辞典買いました! 検索より使えます! トパーズは「友情」が入ってますからね。補強しないと! 赤い薔薇の花束はよくプロポーズに使われるけど、『あなたを愛します』はちょっと重たいですね。同じ言葉のピンクのコチョウランや赤い菊も却下。もう少し控えめな想いを表す季節の花はないでしょうか?」
花音と七海は張り切っている。蛍も何かしないとな、と思ったらスマホがなった。番号が表示されているところ、魚川ではない。
「もしもし」
『もしもし、渡羽図警察署ですが、先ほどの指輪の落とし主が現れました。お礼の電話が後ほど来ると思います』
「あ、ご丁寧に連絡どうも」
『男性の方でしたから、不審がらずに出てくださいね』
「はあ」
電話を切ったあと、花音が興味津々に聞いてきた。
「何、美蘭先輩? それとも魚川さん?」
「ううん、警察署。指輪の落とし主が名乗り出たって」
「早いね。やはり落とし物だったのだね」
「でも、持ち主は男性なんだって。あれ女性向けだったからプロポーズ用の指輪だったのかな。でも、チェーンの傷がわからないな。うーん、何か意味ありげなものかな。フラレて捨てたなら名乗り出る訳ないし」
悩み始める蛍を七海が引き戻す。
「蛍先輩、それよりも今夜のミッションが先ですよ。意志を確認して皆で後押しするのです」
「はっ、そうだった!あとでお礼の電話来るというけど、三田先生の追求会と時間が被らなければいいな」
「ミッションじゃなく追求会って……、あんたねえ」
花音が呆れて蛍をたしなめようとするが、当然聞く耳を持たない。
「今頃、金町と杉君がお風呂で第一次攻撃して聞き出そうとしてるのではない?」
「金町先輩がストレートにツッコミ、杉君が冷静に外堀を固める様子が見えるようです。って、急いで花を選ばなきゃ」
七海も腕を組みながらウンウン頷こうとして、慌ててタブレットに目を戻す。
「うーん、愛を表すものと希望を表すものと迷いますね。希望はどうとでも受け取れるけど、もうちょっと控えめな愛だか秘めた想いだかそんなの無いかなあ。赤いゼラニウムは『君ありて幸福』。うーん、候補にして、逆引きの目次から探してみるか」
七海は自分の世界に入ってしまった。
「七海、悪いけどそろそろ時間だから食堂へ行こう。一ヶ月くらいの季節外れならお取り寄せでなんとかなるのじゃない? そして金町達は第一次攻撃はクリアしたのかしら、フフフ」
「蛍、なんだかさっきから、応援なのか野次馬なのか分からない邪悪な笑みを浮かべてるわよ。食堂着くまでに顔を直しな」
食堂に着いた時、すぐに湯上がりの三人組が到着したが、気のせいか三田先生は少し耳が赤かった。
(蛍先輩、予想が当たったみたいですね)
(金町たちがウォーミングアップしたから、あとは私達が仕上げね、フフフ)
(『私達』って私も下世話な追求に加わってるの?)
(花音はラッピング担当でしょ。もはや共犯者だ)
(ううっ)
「お帰り〜、あとちょっとで夕飯だね。楽しみ楽しみ」
蛍が意味ありげな笑みを浮かべていった。
「まあ、最低限の物は採れたから祝杯ですね」
杉がさっそく誘導する。やはり次期部長にはいいかもしれない。蛍も援護する。
「そうだねえ、やはり本命はトパーズだなあ。
でも高温石英も水晶に似たものが沢山採れたよ。地学部保管用と自分の持ち帰り用に分けられるくらい。じゃ、トパーズ採れた祝杯と明日の健闘を祈るために飲み物はコーラをくださーい。あとデザートの時にホットコーヒーも」
「俺もコーラください」
「僕はアイスコーヒーで。お風呂でのぼせちゃった」
杉は澄まして言うが、ホットコーヒーより早く飲めるからカフェインの力でテンション上げるのだろう。したたかな奴である。
「私と七海ちゃんはノンアルカクテルのスパークリンググレープ」
「おいおい、皆なんか張り切ってるな。先生だけ何も飲まない訳には行かないよな」
(金町、カードを切れ!)
蛍が金町に目配せをすると、金町も食堂の店員さんに目配せした。杉の提案を本当に受け入れて実行したようである。ここまでできる奴がなぜ公立高校へ来たのか謎ではあるが。
「生徒さんからお話聞きましたよ。川でトパーズ採集していたんですってね。今はなかなか見つからないのに見つけたのはすごいですね。これ、宿からのちょっとしたお祝いです。どうぞ」
先生の元に生ビールが置かれた。彼は驚きながらもお礼を言って受け取った。
「あ、ありがとうございます」
(よしっ!!)
地学部の生徒全員が心の中で第三ミッションの一をクリアしたことを喜んだ瞬間でもあった。
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