第38話 一方の美蘭は?
「こっちは紫色の小さいのが二個採れた。そっちは?」
「こちらも紫色の欠片と白いものが一つですね。ちょっと四角い形がわかるかどうか」
美蘭は結局は森岡夫妻の手を借りて発掘していた。一泊するから明日も採取できるが、彼等の負担を早く減らしてあげたい。チラッと聞こえた名前からして子どもたちは親に預けて子ども用のお守りかお土産を取りにきたのだろう。
とにかく数撃ちゃ当たる世界だ。坑道に入れない以上はこのズリ場が頼りである。
「しかし、この寒い中に彼女にプレゼントとは張り切ってるね、石川君」
旦那さんが話しかけてきた。この人は見た目もそうだがふんわりとした雰囲気の人だ。奥さんはワイルドというか気が強そうだからバランスが取れているのだろう。
「鈍くてガサツだけど、いろいろ危なかっかしくて、ほっとけない子なのです。この石は石言葉にも知性とかあるから受験も頑張って貰わないと。俺と同じ大学を希望しているから」
「いや、そんなに好かれてるならいい子なんだね」
「んー、黙っていると本当にかわいいのですけどね。名前負けしているというか。この石と同じ名前なんですけど」
美蘭が言った瞬間、二人の動きが止まった。何かおかしなことを言っただろうか。
「え、ええっと、フローライトちゃん?」
「いえ、和名の蛍です」
「そっか、き、キラキラネームかと思ってビックリしちゃった。さ、探そう探そう」
旦那さんが気を取り直したように石のチェックを再開した。気のせいか慌てていたが、キラキラネームと勘違いさせてしまったからと美蘭は思って作業を続ける。
(やはり、蛍ちゃんの知り合いか親類だ。バレるとややこしくなる。旅の恥は掻き捨てみたく打ち明けた恋バナの相手が遠縁と知ったら気まずい)
(うむ、まさかこんな離れた場所で会うとは。しかし、彼女はこんなイケメンに好かれても鈍いのは相変わらずだな)
(この人の幸せのためにも、水晶でもいいから探そう)
二人で何やら話しているが、何か見つけたのか子どもたちの分にするのかとか、そういうことだろう。口をはさむことではないと美蘭は地道にズリ石の重さをみる。
「あー、
「お子さんですか? いくつくらいですか?」
さっきチラッと聞こえた名前と違うような気がしたが、深追いせずに美蘭は世間話を続けた。
「双子で三歳。妻がサッカーファンでね、選手にあやかって付けたんだ」
「いい名前ですね。サッカーやってくれたらいいでしょうけど」
この夫婦は自分の両親と同じようにサッカー好きだけどマトモな方向に働いたようだ。改名はこの年齢なら親の承諾無しで可能だが、蛍の『ミラ兄』と呼んでくれるのが無くなるのは寂しいと言う気持ちで手続きは迷っている。
「ま、それは二人の好きな道に行かせるさ。父親が野球選手だけどあえて息子たちに野球をやらせなかった人もいるし」
「おっ、小さいけど透明感ある水晶が出てきた。水晶も万能のパワーストーンだからお守りにいいかもね」
「この調子なら最低限の目標は行けそうだね」
こうして表面上は和やかに採取は進んでいった。なんとなく夫妻の落ち着きがないのは気になるが。
「鉱脈なら石に方向性というか筋があるけど、ズリ石発掘は地味に疲れますね。しかも枯れてるとはいえ草もあるし」
「だから冬に来たのだ。草をむしる負担も少ないし、虫刺されの心配もないし。お、三個目の蛍石だ。ちょっと緑色かな」
「順調ですね。あ、そうだ。さっき言ってた紫外線ライト持ってきたのだった。当ててみよう。光るタイプなら楽に見つけられる」
ライトを取り出すと、夫妻は何故か遠ざかった。目に悪影響とか気にするタイプかもしれないと思いつつ、点灯して照らして見るとさっきとは比べ物にならないくらい光る石が出てきた。透明な石と思い込んでいたが、一見茶色い石も紫外線で光っている。美蘭はそれらを拾い集め、より分ける。もっと早く思い出せばよかった。
「森岡さーん! 結構採れましたよ! 山分けしましょう」
美蘭は嬉しそうに石を集めてきた。小ぶりではあるが両手一杯に持っていた。
「ふむ、全員分のお守用にできるな。これとこれは結構青いから二人のお守りにしてもらおう。この水晶はお父さんに持っててもらうかな」
「え、お母さんは?」
「この黄色いフローライトにする。ブラジル代表みたいな黄色だけど、いつか二人が海外へ活躍するように。黄色は珍しいし」
「やっぱりサッカーをさせたいのか。石川君は?」
「アクセサリーにしたいからあいつに似合いそうな色を迷ってるのです。やはり知的な青か、穏やか青緑か」
「いいねえ、青春だ。アオハルに引っ掛けて青に近い色がいいのじゃないか? 君が見つけたのだから残りは君が好きにしていいよ」
「お母さん、からかいすぎ」
「では、お言葉に甘えます。そろそろ日も落ちるし、今日はこの辺りで作業を終えます。お二人共ありがとうございました」
「おう、私達は荷物整理してから降りるから、先に降りていってくれ。うまく行くように祈ってるぞ」
先に美蘭が降りて言って、二人はやれやれと肩の力を抜いた。
「まあ、彼が子どもの頃に一回か二回しか会ってないから覚えてないだろう。美蘭くんは義理の甥だし。しかし、こんな所で再会とはすごいな」
「しかし、久々に見たけど石川さんの息子があんなにイケメンになるとはなあ。名前はキラキラだけど、真っ直ぐ育ったようだね。蛍ちゃんはフローライトの下りで思い出した。美蘭君が恋バナ打ち明けた人が親類と知ったら、きっと恥ずかしくて悶えるから偽名使ったのは正解だね」
「しかし、偶然が過ぎる。何らかの意志が働いているのか?」
「珍しいね、現実主義のユウさんがそんなことを言うなんて。さ、僕たちも宿に帰ろう。お義父さんお義母さんと碧達はこども牧場で楽しんだかな」
森岡こと森山夫妻も山を降りていった。
(ちょっとした遊び心じゃ、なんて言ったら三人から怒られるかのう)
「なんか言ったか?」
「うんにゃ、鳥か動物じゃない?」
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