第36話 頑張る美蘭、助っ人現る?

「ぜえぜえ、以外とキツい場所にあるな」


 結局、目当ての石の鉱山跡は岐阜県が多かったので、美蘭も岐阜に来ていた。さすがに地学部の目的地に近いとあらぬ誤解を受けそうなので、少し離れた別の鉱山跡にした。春になると石拾い体験もできるところもあるが、Xmasプレゼントに間に合うわけないから魚川に教えてもらった布路卯楽山ふろうらやまに来ていた。


 ここのズリ場、つまり採算が取れないクズ石の捨て場が鉱石を見つける確率が高い。採算が採れないだけでコレクターには十分なレベルが拾えることもある。しかし、閉山してかなり時間が経っているためかなりの量の草が生い茂り、しかも枯れているから枯れ草を抜くのにも一苦労する。

 道は一応整備されていたが、やや老朽化していたから登山用の靴を履いてきたのは正解であった。石のハンティングはトレッキングとよく似ている。


「女子が手作りして物を贈るのもこんな気持ちなのかなあ」


 ザクザクとスコップを使って根っこを取り除いていると、同じようなハンターらしき二人組が居ることに気づいた。夫婦かカップルなのか、なかなか採れないねと言いながらも楽しそうに探している。


「いつか、あんな風になりたい。いや、蛍のことだ。デートは化石掘り一択になる。そうなるとさらにアウトドア一式用意しないと」


 ブツブツ言いながら、発掘作業していると先ほどのハンター夫妻(仮)が近づいてきた。ライバルではあるが、敵対する気はないので無難に挨拶をした。


「こんにちは。あなたたちも石を採りに来たのですか?」


「ああ、妻がどうしても自分で採りたいというから寒いけど来た。冬だから寒くて誰もいないと思っていたから、君がいたからちょっと驚いたよ。大学生かな? 若いって強いなあ」


「お主はミートテック着てるだろ」


「ひ、ひどい。人の前でそんな言い方」


「え、えーと、クリスマスプレゼントにあげたい人がいるのです。だから意地でも来たのです」


 美蘭は照れもあってぶっきらぼうに答える。どうせ知らない人だ。なんとなく話してもいいかなと思った。


「うむ、青春だなあ。よーし、おねーさん達も手伝おう」


 奥さんがハンマー片手にニコニコと提案してきた。


「いえ、そんな悪いです。あなた達も寒いところを遠くから来たのでしょう? ならば自分達の分を先に取ってください。俺は俺で頑張りますから」


 二人の話し方からして関西弁は含まれず、なじみのあるアクセントだ。ということは、同じ関東地方から来たのだろうとわかる。遠路はるばる来て、他人に手伝いをさせるのは気が引ける。しかも、採れるかどうか分からないものだ。


「いやいや、若者の恋を応援するのも旅の楽しみだ、私達を思い出すなあ、そうだろ?」


 奥さんの方が旦那さんに話しかける。


「いや、僕達が出会った時は君はとっくに大学卒業してたでしょ。それって青春とか若者になるの?」


「細かいことは気にするな、取り敢えず探すぞ」


「もう、母さんは何でも首を突っ込むなあ。少なくともかおるあおの土産分はちゃんと採ろうね」


(悪いことさせちゃったな。でも、なんとなく会ったことあるような? いや、俺はずっと関東しか住んでいないし、岐阜には知り合いも親類もいないし。それより目当ての石を見つけないと)


 美蘭はスコップで石を取り出してはチェックを始めた。石英に混ざって透明感のある石が蛍石の確率が高い。


(うーん、やはり小さいな。でも、無いよりマシだから候補にしよう)


「ほら、あっちのお兄さんも作業始めたから、私達も始めるぞ」


「あ、ところで良ければ名前は?」


 旦那さんの方が話しかけてきた。


「石川といいます。大学生です」


「石川?」


 奇妙なことに二人共顔を見合わせた。何やらアイコンタクトらしきものをしてから奥さんが名乗った。


「私達は森……岡、森岡という、よろしくな石川君」


 自分に何か変なところがあったのかと美蘭は不思議に思ったが、山の日は落ちるのが早い。早く作業に戻ろうと目の前の石のチェック作業に戻った。


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