第34話 頑張れ美蘭
一方、美蘭はタブレットを前にため息をついていた。
「やっぱり
金町から蛍が欲しがっていると聞いた
「モース硬度2では川べりにはないな。水で削られるだろうし。ズリ場の廃棄石から探すにもそこも立入禁止かもしれないし、風化している恐れもある。そうすると市場に出回っているものしかないのか。しっかし、少ないだけあってほとんど売ってないな」
ある意味ダイヤモンドよりも入手のハードルが高い石である。あくまでコレクターにとってではあるが。
「フツー、高い宝石が欲しいだろうにアイツはなんで変わってるのだ。その前に普通の化石も水晶も木っ端微塵にするやつがこんな繊細な石を保管できるのか? いや、そんなことは今更だから止そう」
他の鉱石でもガラス質なら綺麗だが、調べると立入禁止、私有地などハードルが高い。翡翠は伯父と拾いに行ってた。トパーズは今度の地学部のミニ合宿で拾いに行くという。
いくらOBであっても、冬休みでもそこにまで付いていくには気が引ける。美蘭は他のOBより地学部を訪ねる頻度が高いのだ。だから、地学部の後輩達にも気づかれているし、金町からもせっつかれるし、彼女が欲しがっている石の情報を入手したというか聞かされた。
「手編みのセーター作ったほうが早い気がして来た。それか化石か。しかし、サメの化石にしろ、シダの化石にしろ、クリスマスプレゼントというにはなんというか、いや、それでも喜ぶのだろうけど。
はあ、我ながら不毛な片思いしている。なーんで好きになっちまったんだか」
顔はかわいい。黒髪のショートカットも私服のボーイッシュな格好も似合っている。黙っていれば美人なのに、そのガサツさと大雑把さ、こないだ判明したが武闘派の親類の血筋を引いていることもモテからは遠ざかっている。ライバルはいないのはいいことなんだが、いろいろと規格外な上、あらゆることに超がつくくらい鈍感だ。
あのときも部屋に飛び込まなかったら、彼女はレアな仙人入りの石を割るところだった。
「だから幼い頃からお守りしてるし、いろんな意味で危なかっしいからほっとけない。アイツを制御できるのはきっと俺しかいない。
しかし、アイツにもちょっとは気づいて欲しいなあ。いっそ、アイツの部屋の石の墓場から使えそうな石を磨き直してやるのが早いのか。しかし、ああいうタイプは絶対に手入れをしないのに勝手にいじったと怒るパターンだ」
美蘭が弱音を吐いたその時、スマホが鳴った。
「はい、もしもし。あれ? 魚川さん? わざわざスマホで連絡ですか?」
『いきなりテレパシーも何かと思ってな。お主も鉱石取りにどこかいくのじゃろ? 石が取れそうな鉱山跡の情報を教えてやろうと思ってな。石は決めたのか?』
「難航してます。欲しがってた逸見石は絶産で立入禁止でした」
『ならば、ぴったりの石があるじゃろ? 海外でも沢山取れているし、日本にも各地に鉱山跡がある』
「そんな石ありましたっけ?」
『蛍と同じ名前の石じゃよ。名前もそこから来ていると前に本人から聞いた』
「そういえば、確かに蛍石は持っていなかったな。あれならば候補地たくさんあるだろうし、ワイヤー巻けば原石アクセにできるな。 少しはオシャレしてほしいし。よし! 方向は決まった。それで、どこが採れるのですか?」
美蘭は思わぬところでアドバイスがもらえるとは思わなかったのでガッツポーズを取った。
『蛍石は……ふうむ、やはり岐阜県が多いな』
「え、岐阜県ですか。岐阜は広いけど、ルートが似ているとさすがにストーカーと思われかねせん。他の候補地は無いですか?」
『では、蛍の行く場所から少しずらした候補地をあとでデータで送る。健闘を祈るぞ』
「良かった。な、なんとかなりそうだ。しかし、蛍石も柔らかい、1ダースは予備を採るくらいの勢いにしないと次から次へと壊しかねない」
『壊しかねないって、異性のプレゼントも雑なのか、あやつは』
美蘭の苦労はまだまだ続く。
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