第五章 地学部の秘密の大作戦(または頑張れ先生&美蘭)
第30話 蛍たちの唐突な提案
「先生、ちょっとお話いいですか?」
花音と蛍が地学部の活動が終わり、他の部員が帰ったことを確認し、一息ついていた三田先生に近づいた。あの事件以降、いつのまにか産休に入っていた平井先生に代わって顔を出すようになっていた。
それでも相変わらず、元気は無い様子だが。
「なんだ?」
「急で申し訳ないのですが、テスト休みの中の土日に一泊二日で地学部の鉱石採取合宿をしたいのです」
花音が部長として提案する。
「本当に急だな、どうしたのだ?」
「いえ、金町君が彼女のクリスマスプレゼントとして宝石をハンティングするそうで、私たちも応援しようというのと、自分もあわよくば宝石見つけられないかという企……うぐっ」
蛍の説明を花音は手で遮る。
「どこへ採取へ行くのかと聞いたら岐阜県だと。そこには多種多様の鉱石があるそうなんです。地質的にも勉強になりそうだと」
「まあ、本音は女子も宝石が欲しいのだろう? 石川が言いかけていたように。確かに日本は甲府の水晶みたくかつてはあちこちで宝石が採れたと聞くな」
「そうなんです。岐阜にはトパズ勘兵衛の話のようにトパーズが採れて一儲けした人がいる話が残ってますから。秩父の方が近いし、ガーネットが採れていたそうですが、現在は立ち入り禁止です。それで金町君は岐阜までトパーズを取りに行くとか」
「トパズ勘兵衛?」
三田先生が聞き返す。まあ、こういったトリビア的な話は蛍の方が得意だ。
「明治時代のお話で、岐阜で水晶に似ているけど加工しにくい硬い石が出てきて、困っていたところ、外国人に高値で売れたからトパーズと分かり一代で財を成したのが高木勘兵衛という人で『トパズ勘兵衛』と呼ばれたと。そこはトパーズ以外にも運が良ければジルコンにコランダム、ベリルなど採れるそうなんです」
「石川、目が宝石と金のマークになってるぞ」
「だって、女子は宝石好きですよ。人が付けている宝石もわかるし。先生のネクタイピンもアレキサンドライトでしょ?」
「よく分かったな。ちょっとしたいたずら心で付けていたのだが」
「だって、窓際と蛍光灯の下で色が変わるなんて、そんなに無いです。宝石好きなら当然ですよ。いつか詳しくないなんて言ってたのに詳しいじゃないですか」
「いや、平井先生が産休になったから付け焼き刃で本をいろいろ読んだのさ。色が変わるのは面白いなって」
「それに確か、アレキサンドライトは……うぐっ」
再び花音が蛍の口を手で塞ぐ。
「蛍、余計なことは言わない。とにかく、金町君の恋の応援と多様な鉱石採取のチャンスと思って企画しました。宿は既に金町君が取っていたのを人数変更して仮予約してありますし、採取が不発でも近くに鉱石博物館もありますから見学するのもいいかと」
「それで引率として必要な訳か」
三田先生は納得した表情をした。
「だって、平井先生はなかなか来ないと思ったら妊娠が分かって産休に入ってしまったのですもの。きっと度々起こしていた発熱も妊娠による不調だったのね」
「まあ、平井先生はそうだが。でも、金町の恋の応援と言っても彼女と付き合って一年は経ってるよな? 今更何を応援するんだ?」
三田先生が首を傾げる。まずい、確かにそうだと二人は顔を見合わせた。
(蛍、あんたの出任せスキルに任せた)
花音のアイコンタクトを察して、蛍は咳払いをして声を潜めた。
「これは金町君から聞いた秘密だったのですが、金町君は実は石を見つけて加工して婚約指輪を作りたいそうなんです」
三田先生と花音が「ぶはっ!」と変な声を出したのは同時だった。
「表向きは去年は水晶だから違う鉱石にすると言ってましたが、本当は婚約指輪用の石を探すと。
しかし、日本にはダイヤは採れないも同然。なので、輝きではダイヤに負けないホワイトトパーズを見つけて、ある意味お手製の婚約指輪にすると密かに張り切ってます。運任せですが、加工できるサイズが見つかるかもしれないとかなんとか。
もちろん直ぐに加工できないから、今回は原石見せてプロポーズすると。
あ、これは内緒にしてください。どっかで情報が漏れて彼女の真奈ちゃんに知られたらサプライズになりませんから」
「さ、最近の高二はいろいろとわからん。これがアオハルってやつなのか」
(こりゃまた壮大な嘘をついたわね)
花音はくらくらする頭を押さえながら、言葉を継ぐように言った。
「それに蛍……副部長は先日の事件で嫌な思いをしたから、思う存分鉱石採取してリフレッシュしたいとリクエストがありました。二人のために引率お願いできませんか?」
「ダメと言っても宿まで押さえているのではなあ。仕方ない、調整して同行しよう」
やったと蛍と花音がキャッキャッとしていると三田先生がヘマタイトのブレスを付けた腕で頭をあててため息をついた。
「はあ、高校生だなあ。青春だなあ」
しかし、二人が喜んでいるのは金町の恋の応援ではない。
目の前にいる失恋がバレバレなのに周りには気づいていないと思っている鈍い副顧問のための計画であるから、第一段階はクリアしたことによる喜びなのだ。
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