第29話 一段落からの企み事
「あー、疲れた疲れた。真犯人も校内とはびっくりだわー。ま、もうクラスでハブられないよね、花・音・部・長」
「悪かったわよ、同調圧力ってやつがすごくって」
放課後の地学室。蛍がジト目で花音を見るとバツが悪そうに謝ってきた。地学部の皆にだけはちゃんと事実と真犯人を知らせようと思って来たのだ。
「しかし、モネ先生はダメンズだったのか。箱入りお嬢様だから、男性とのお付き合いに免疫が無かったのかなあ」
「そういえば、蛍はまた魚川さんとスマホ繋げっぱなしだったんだって? おかげで警察の通報早まったけど」
「そうだね。それで助かった。
しっかし、
その時、美蘭が三田先生と共にお菓子の袋を下げて地学室に入ってきた。
「よぉ、話は伯母さんと三田先生に聞いたぜ。お疲れ様。これ、差し入れのミカン大福」
「あら、美蘭先輩。文化祭以来ですね。お菓子ご馳走さまです」
「多分、地学部で勉強サボってるから、連れ戻しに来いとの伯母さんからのお達しだ。もちろん食べてからでいいから」
「ママ、今度はミカン大福で釣ったのか。今日くらいは勉強休ませて欲しいわ。
でも、いちご大福偽装事件のおかげでヒントが得られて解決になったのだよね。なんか複雑だなあ」
蛍が早速大福をパクっと食べる。
「明日、改めて臨時朝礼で話があるのだろうけど、どこまで話すのかな。下手すると男子達が死屍累々となりそうなのが予想できるわね。別の意味で臨時休校になりそう」
花音が袋の中のペットボトル茶を配りながら、ちょっと嘆く。
「でも、花音部長。生徒の先生への恋は淡いのが相場です。今回は未遂ですが、なんというか推しが結婚するようなものですよ。
それに恋愛絡みの話は噂レベルにとどめないとモネ先生が辛くなるから可哀想です。別の理由、高梁先生はストレスだかで石膏を壊したことにして退職ということにするのではないでしょうか」
七海がもっともらしいことを言う。そして杉が声を潜めて続けた。
(それに、心配なのは三田先生も同じです)
どういうことだと、そっと杉のそばに皆が集まる。蛍が三田先生の方を見ると、心ここにあらず言った風情でお菓子にもお茶にも手を付けずに複雑な顔を窓に向けていた。
(三田先生はずっとモネ先生が好きだったらしいです。高梁と付き合い始めてもずっと心配していました。今回、こんなことになってモネ先生は助かりましたが、傷心の彼女には今近づく訳には行かない、でも何かをしてあげたいと、葛藤しているはずです)
(観察眼鋭いね。事情通だし、人の心を分かってるね。なんだ、杉君から聞けばもっと早く判ったじゃん)
(ええ、ヒントは先生のメンズアクセです)
「アクセ? 宝石? 詳しくないって言ってたのに。あっ、そうだ、金町。真奈ちゃんへのプレゼント決まったの?」
蛍が問いかける。
「んー、候補はいくつかある。採れそうなエリアは大体絞ったし、あとは立入禁止かどうかの確認くらい」
蛍はさらに問いかける。
「真奈ちゃんへのプレゼントだから宝石質のものだよね?」
「そりゃな、いつか魚の化石を贈ったら微妙な顔されたから」
「ふむ」
蛍か珍しく神妙な顔をした。
「三田先生っていくつだっけ?」
「二十七歳です」
「モネ先生は新採でここに来たから二十四歳か。ふうむ。釣り合いますな」
蛍はちょっと考えて、小声で皆を集めた。
(とある計画を立てたのだが、金町に先導してもらおう。女子が動くと勘付かれる)
そうして蛍は小声である提案をした。
(そりゃ、理論的には可能だけど、運によるものが大きいな)
(このままだと三田先生だって塞いじゃうよ。冬だけど自然の中に出るのがいいよ。というか、金町の彼女のプレゼント用に行くのだから意地でも採るつもりでしょ。合宿にして引率させよう)
(そりゃそうだけど)
(副部長、僕、参加します。一年だからまだ進路とかうるさくないし)
(私も参加します! 蛍先輩は糸魚川でも珍しい石拾ってたし、今回も面白そうな石を見つけそうです)
(よーし、金町。あとで採取場所や日程を詳しく教えて。表向きは冬休み前の合宿だ)
(よしっ!)
蛍の提案に地学部の皆が一致団結した瞬間でもあった。
「ちゃんと勉強しろよ」
「ミラ……美蘭先輩。水を指すのは止めて」
(でも、楽しそうだなあ。俺も参加したいが同じ石を採りに行くのもなあ、うーん)
(おーびー故の悩みじゃの、美蘭)
〜第四章完〜
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