第28話 蛍の謎解き
「ネットで見ると、それなりの値段がしたからモアサナイトを付けていたと考えました」
「さすが、地学部ね」
「えーと、私はそれがどんな石なのか知らないのだが」
「恥ずかしながら私も」
宇佐美先生は感心したが、三田先生と守田刑事が尋ねてきた。確かに当事者にはわかっても普通の人はそんな石は聞いたことないだろう。
「簡単に言うとダイヤより輝きが強い宝石です。ただし、天然は隕石の中にしかないので、市場に出回っているのは全て合成です。
そしてダイヤモンドチェッカー……ダイヤを鑑定する機械を騙すことがある厄介な石です。最近は機械も改良したそうですが。
少なくともジルコニアより高いですが、ダイヤと間違えさせるほど輝きが強く、機械を騙す鑑定士泣かせの石だったと。先生はお金に困って贈った指輪を奪って質屋に入れたけど、ダイヤではないと言われて激高したのでしょう。それで本物を石膏像に隠したと思って破壊したと」
「石川、教師を侮辱するのか」
「ええと、叔母が県庁勤めでして、様々な仕事をします。時には県民税の取立てや差押えに行ったりして債務者から抵抗されるらしいけど、叔母が行くと楽に取り立てが進むようで。
話が逸れました。差押えを受けるのは税金などを沢山滞納する多重債務者ですが、彼らは何故か特徴が似ているそうです。
身なりがくたびれている、なんとなく匂う、ゴミ屋敷と。高梁先生の家の中までは知りませんが、前二つが当てはまりますね。特に最近は服装がブランド物なのにくたびれてました。教壇に立つことが少ないとはいえ、さすがに教師の格好にふさわしくない。今は給料日前です。
質屋で換金したお金が無くなって生活が苦しくなってガスや水道を止められているのではありませんか?
かと言って、プライドがあるから少なくとも結婚するまではモネ先生のお金に頼ることはできない。
それに私を校長室に呼び出したとき、防犯カメラを壊した犯人の格好を『上下の黒いファストファッション』と断定してました。あんな画質でどうしてファストファッションとわかったのですか?」
「一般的な例えだ、断定はしていない」
ここまで言っても、まだあがくのかと図太さにある意味感心した。さすが(推定)多重債務者だ。ちょうど守田刑事もいるし彼に手柄を立てて貰おうと蛍は彼に呼びかけた。
「ここで私の推理ばかりしても埒が明かないです。私は仮説を立証するためにここに忍び込んだのは認めます。高梁先生自身もおっしゃいましたね。『犯人は現場に戻ってくる』と。
先生も本物の指輪の場所に気づいてここへ来たのでしょう。守田刑事さん、そこの油絵を調べてください。恐らく左下の彗星の核の部分に不自然な膨らみ、或いは剥がれた跡があります」
明らかに高梁が動揺している中、守田刑事が怪訝な顔をして彗星の絵画に近づいて言われた部分を見ると「おや?」と言った。
「確かに石川さんの言うとおり、彗星の先の部分が四角く白いキャンバスがむき出しだ。何かを仕込んで油絵の具で塗り固めたものが剥がれたようだ」
「そこに本物の指輪入の袋があったのです。私が入ったとき絵の前に高梁先生がいました」
「な……! 絵の様子が変だと見ていただけだ!」
「先生、油絵の具ってなかなか乾かないですよ。さっき私の前に立ちはだかったとき、絵にぶつかったでしょ。服に絵の具が付いてますよ」
「えっ?!」
もちろん嘘であるが、引っかかった高梁が慌ててハンカチを取り出そうとしたとき、油絵の具付きの袋が同時に落ちてきた。すかさず守田刑事が拾いあげ、袋を開けるとダイヤの指輪が出てきた。中の刻印を読み上げていく。
「ええと、『YOSHITERU to MONE』と彫ってあります。高梁先生、下のお名前は
「はい……」
さすがに観念したのか大人しく高梁先生は守田刑事に連れられて出て行った。現時点では器物損壊だけど、生徒へ脅迫まがいな事を言ったし、窃盗未遂もしたし、多分、もう会うことはないだろうなと蛍は思った。
「じゃ、もう時間過ぎているから授業に行きます。三田先生、多村先生になんとか遅刻を取り消してもらってください。皆には保健室にいたとでもごまかします」
「あ、ああ」
「石川さん」
教室へ向かおうとした蛍を宇佐美先生が呼び止めた。
「なんであの絵の中にあると思ったの?」
「天然のモアサナイトは隕石の中です。彗星も成分は違っても隕石の一種です。それにひっかけて隠したのかなって。単なる思いつきです」
「さすがね」
「宇佐美先生こそ、なんであんな男と婚約までしたんですか。婚約まではともかく、結婚までしたらタカられるだろうし、借金の後始末ばかりしそうで危なかったじゃないですか」
「あの人は昔は大地主の家だったらしく、お金は無いのにプライドだけ残った見栄っ張りでね。そんな彼をほっとけなくて自立して欲しくてあれこれしたし、私や実家に頼らないよう矯正したつもりだったのだけどね。両親の反対もなんとか説得して。
だから、あんな高い指輪を贈られた時はまた借金したのだと思ったわ。保険としてダミーを付けていたの。彼が真面目になるという願いは全ては私の幻想だったわね」
モネ先生は寂しそうに笑った。
「なんか、自分の容疑を晴らしたい一心だったのに。なんだろう、モネ先生を泣かせてしまったような罪悪感は」
『蛍は一人の人生を救ったのだ、胸を張るがよい』
「ありがと、魚川君」
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