第32話 蛍、とことん自分のことは激ニブ
帰宅後、蛍は金町と打ち合わせをしていた。
「金町、結局はどこで何を探すの?」
『いやあ、ネットで調べたら立入禁止区域が増えててさ。やっぱりマナー違犯するやつが増えたみたい。俺が去年採ったところも今年から禁止になってた』
「翡翠は皆が拾ってたのに」
『あれも正確には翡翠がある渓谷は立入禁止。河口にあたる海岸は観光にもなるから、市が目をつぶっている状態らしい。でも、こぶし以上の大きさを拾うのは禁止とかあったぞ』
「世知辛いなあ」
『で、だ。裏ワザがあって川ならOKというところはある。鉱山から流れた欠片が川の流れですり減って宝石部分が残ると、石より重い宝石なら翡翠同様留まるから』
「もったいぶらないで、どこに何を探すのか教えてよ」
蛍はちょっと苛ついた。ちょっとだけトレジャーハンターになりたかったから現実を知らされてガッカリしたということもある。
『ガーネットが拾いたかったのだけど、秩父は立ち入り禁止で却下。さっきの条件に合うところ、七海ちゃんが調べてくれた石言葉に合うものだ』
「もう、じれったいなあ」
『場所は岐阜県。探すのはトパーズ!』
トパーズ?? 確かにかつては採れたが枯渇していると聞いたことある。
「岐阜って雪深くない? それにトパーズって? 十一月の誕生石だけど、石言葉は何だっけ? えーと、図書館で本を借りてきたな、どこだっけ」
『とりあえず気象データみたらその辺りは冬でも雨マークだから雪にはならない。寒いけどな。で、トパーズの石言葉は『友情、希望、誠実、潔白』』
「友情というのは微妙だけど、希望や誠実はいいね」
『パワーストーン的には『正しい方向を指し示す』』
「それはダメ男に引っかかったモネ先生にピッタリだ」
『ただ、トパーズは今は採れなくなったという話もある。万一不発になった時には鉱物博物館があるから水晶掘り体験ということになるけど』
「なんか、あらかじめアサリが蒔かれた潮干狩りみたいだなあ」
『手ぶらよりはマシだろ。あとはわずかにジルコンやクリソベリル、コランダムが取れるとあるが、写真見ると宝石質は期待しない方がいいレベル。トパーズはそこそこ良さそう』
「真冬に川砂浚いは死ねる」
『計画したのはお前だろ。釣り具店やアウトドアショップなどで水や寒さに強い手袋など用意するのだな。あとは川べりの石を地道に探すか』
「ううう、私自身も翡翠拾いに行った時はまだ暖かったし、ハンター気分だったけど、水にまで浸からなかったもの。結果はマニアックな糸魚川石一個だったし」
『いや、その石川の最後に一発当てる運をここで使うんだ。デカいトパーズを見つけるかもしれない』
「ちなみに色は? ブルーは天然ではほとんどないから黄色?」
『無色透明が多い。だから最初は硬くて加工しにくい水晶と勘違いされたって』
「むむう、ホワイトトパーズはダイヤより輝き強いけど、原石の魅力に気づいてくれるかな。あとは三田先生に自力で見つけさせたいから私が見つけたらどうやって誘導させるか。あ、岐阜って遠いから泊まりだよね? 宿の手配もどうするかなあ」
『ふっふっふ、金町家の財力とコネを侮るでない。近くに宿があるのを既に押さえてある。しかも団体料金にしてもらった』
「あんた、そんな金持ちでどうして公立高校へ来たのよ」
『モネ先生と同じ七不思議と言っておく。とにかく、三田先生に概要だけ言っておけよ。テストも近いし、別の予定があるかもしれないから調整してもらうかもな』
「わかった、場所や宿を決めてくれたことに感謝する」
『お前もそろそろ決着つけろよ』
「私? 進路は進学と決めているけど?」
『そうじゃなくてなあ。皆、薄々気づいているのに』
「何が?」
『森下だって推し活のふりしているけど、かなわないと諦めてるみたいだし』
「何の?」
『……。不毛になってきたから止めとく。あとは三田先生の失恋情報は杉の情報と噂だけで動いているけど、裏付けしないとただの合宿になるし、どうするかな』
「三田先生はある意味堂々と発信しているよ」
『そりゃ、バレバレな態度だけど、他に補強材料をだな』
「ううん、杉君のヒントで私も石言葉の本とか調べたからさ、三田先生は沈黙のシグナルを今も出して片思いは続いてるよ」
『なんだよ、それ?』
「あ、そろそろママに夕飯食べろと言われるからまた明日ね」
『おーい、答えを教えろー』
金町が答えを知りたがっていたが、通話を切った。これ以上遅くなると母が「冷めるわよ! 今はガス代も上がってるのにもったいない」と言われるのが今は恐い。石川家において母は叔母さんとは違った意味の最凶のポジションにいるのだ。
合宿の話も期末テストの成績次第では取りやめさせられる。それも脅威であった。
「合宿行くためにもママへのポイント稼ぎしなきゃ。言われる前にリビング行くか」
(本当に美蘭は不憫じゃ。なんとかしてやれんかの)
やり取りを聞いていた魚川は石の中で泳ぎながら思い悩むのであった。
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