第26話 デジャブからの判明
『それで進展は無しなのか、蛍』
「そうなの、珍しく三田先生がいて。私の監視だろうけどさ、失礼しちゃうわ」
布で磨きながら蛍はぼやいた。石は尖った部分がツルッとした光沢が出てきたけど、透明になる日はまだまだ遠そうだ。せめて均一にツヤが出ないと。
「魚川君はなんか情報得られたの」
『うーむ、美術室と準備室はまだ閉鎖状態で無人、職員室は噂どおりモネ先生のことには触れないようにかん口令が敷かれているようで、妙な空気が流れているのはわかった』
「結局は収穫無しか! 雑魚めぇ!」
力を込めて摩擦熱起こそうとヤケを起こしかける蛍を魚川はなだめる。
『お主な、一応持ち主とは言え雑魚呼ばわりは下品じゃぞ。話は最後まで聞け。
前もお主が言ってた犯人像は指輪を石膏像に隠すと予想した身近な人と言った。警察は内緒にしろと言ってたのは果たして男子生徒のためだけじゃろうか?
そして、もう一人触れてはいけない扱いの人がいるはずじゃ。そこから導かれるのは誰じゃ?』
「モネ先生の婚約者。しかも、うちの高校の教師ということになる。三田先生は失恋したばっかりと聞いたから違うな。振られた腹いせなら指輪を質に入れないで、捨てるか破壊する方が嫌がらせのダメージ大きいもの。一旦あげた婚約指輪を質入れするくらいだから、お金に困っている人だと思う」
『ふむ、ならば、金融情報までハッキングするかの』
サラッと人間界では犯罪なことをこの魚は言う。確かに手に入れた人の使い方しだいでは悪用されるし、逆らうと割るだろう。せいぜい自分は万一のときは人類未踏のグルメにしようと思うくらいだ。
「い、いや、それは最後の手段にしよう。
犯人以外のお金の情報を魚川君に見てもらうのはさすがに私でも気が引ける」
『意外と真面目じゃな』
「お金持ちと知ったら、お昼とか何かと奢らせてもらおうと画策しちゃう。モネ先生はオーラが眩しくて近づけないけど」
『セコいな、お主』
「私は容疑者だから身動きとれないから、そういう情報は地学部の噂好きな人から聞き出そうかと」
その時、Zoomoの入室サインが入った。美蘭である。
「あ、ミラ兄」
「おう、勉強ちゃんとしてるか?」
どうやら、蛍の母からたんまりと
「い、今は休憩中で魚川君を磨いてる、磨きながら事件のことを二人で推理してたけど、なんかピースが足りなくて」
「そうか? じゃあ、今日やれと言った古文テキスト第二章の一問目の……」
答えはとりあえず丸暗記してきたから、ごまかせるはずだ。
「問題文の出典は?」
美蘭が引っ掛けをしかけてきた。そんなもの覚えているわけが無い。
「……すみません、ずっと魚川君を磨いていました」
「下手な嘘は破綻する。特に蛍はそういうの下手だ。ところでよ、聞いたか?」
「事件の手掛かりは大してないよ」
「違うよ! 太喜屋のいちご大福の産地偽装! 甘乙女だと思ったらランクが落ちるいちごだったんだよ! 店先にお詫びが貼られていて、返金応じるとかなんとかすごい騒ぎだよ!」
こちらは容疑者扱いなのに呑気なものだ。いちご大福のいちごなんてみんな似たようなものじゃないか。
「何がどう違うかわからないけど、こないだ食べてたあれもそうだったのね」
「ああ、グルメな人が『甘乙女にしては甘さと酸味が落ちる』とか気づいて、店に掛け合ったけどクレーマー扱いされたから、糖度計やらいちご各種を買い揃えて比較測定してデータを突きつけたと言うからすごい執念だよ」
美蘭に取っては大ニュースらしい。こんなに騒ぐのは広島カープがクライマックスシリーズに勝ち進んで日本シリーズに進んだ時以来だ。
「どこにでもマニアはいるのね……。しかし、機械を使って計測なんて。ん??」
「どうした?」
「なんか、昼間の会話とデジャブを感じる。えーと、タブレットは、と。ごめん、ちょっと思い出すために一旦切るわ。あとでね」
「おい、ちゃんと勉強しとけよ、テスト近いだろ!」
なんかうるさいが、とりあえずログアウトして美蘭を追い出した。同時に魚川も追い出した形になるが、また繋げればいいことだ。確か花音と話をしたキーワードは、と蛍は思い出せる限りの言葉を入力する。
「無色透明、ホワイトトパーズ、合成、ダイヤ、機械を騙す。いや、測定器と」
いくつか言葉を組み合わせを変えながら検索をかける。
「あった。きっとこれが藤尾店長が言ってた偽物の正体。モネ先生は相手がそういう人と知りつつ、ダミーの指輪を付けていたのか。確かにダミーでもそれなりの値段はする。そしてお金に困ってそうな人……ユウ叔母さんは県庁にいるから個人情報ではなくても何か知ってるかも」
蛍は親類に質問メッセージを送って情報を可能な限り教えてもらった。
「犯人はアイツだ。本当の隠し場所もあそこだ。早く保護しないと。魚川君、犯人がわかったよ。明日は早起きするよ!」
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