第25話 調べ物しながら画策は続く

「うーん、まずは接点の薄いモネ先生にどう近づくか」


 部室内で鉱石の本と宝石の本を読み漁りながら、蛍は悩んでた。常識が無いと言われる蛍ではあったが、専攻を取っていない、部活も違う、ほとんど接点の無い先生にズケズケと婚約や指輪のことなんて聞くのはマズいのはさすがにわかる。

 花音も蛍と同じクラスなので専攻は音楽だ。


 そうすると、後輩の出番だ。誰か美術の専攻はいないのか。金町も杉も専攻は書道や音楽だし、七海や他の後輩はどうだったか。そして、藤尾が言っていたダイヤではないが、ゴネたとはいえ質入れの買い取り額を渡したという話からしてジルコニアではない石だったはず。そこから糸口はないか改めて図鑑をめくっていた。


「あら、蛍。宝石の本読んでどうしたの?」


 花音が話しかけてきた。とりあえず調べている本当のことは伏せて、嘘ではない範囲で答えるかと蛍は思って適当に答えた。


「無色透明の宝石ってどれくらいあるかなって。

 メルカナで綺麗なダイヤモンドみたいな『天然石ネックレス』を見つけて、中古でも安いなと思って買おうとしてよーく見たらホワイトトパーズと書いてあってさ。危うく曰く付きダイヤと勘違いしてポチるところだったから」


「曰く付きを欲しがるって……。あんたゼロ感だもんね。ま、ホワイトトパーズも確かに研磨したらダイヤみたいだもんね。合成でもミヤコセラミックみたいな高級品もあるし。あと、合成でもキュービックジルコニアより輝きの強いものがあるよ」


「え? ジルコニアよりも?」


「そう。しかも、ひと昔前までダイヤモンド測定器が騙されるモノだったとか」


「それ、詐欺師にとってウハウハな合成宝石だね」


「今は測定器の精度が上がったけどね。それでも高校生のお小遣いでは難しいな、金町ならともかく」


「金町はまたなんか宝石を採りに行くって。そういえばモネ先生もなんか指輪してたな」


 まだまだ自分が知らないことばかりだ。そしてさり気なくモネ先生の話に繋げた。


「モネ先生のは婚約指輪だかペアリングって噂。でもセキュリティ考えて右にはめてるとか、レプリカとかいろいろ噂ある。石もその合成かも。でも、最近は別の指輪してたな、別れたのかな?」


 守田刑事は生徒には伏せていると言っていたが、婚約の噂は巡っているようだ。


「じゃ、前に見たキラキラしたあれは婚約指輪なの? ダイヤでもジルコニアでもない石? 婚約って誰だろ? あのお嬢様な先生の相手だから石油王?」


「それがね……」


「コラッ、妙な噂話をするのじゃない!」


 花音が話を続けようとした時に、副顧問の三田先生に叱られた。珍しく副とはいえ地学部ここに顧問がいるのは珍しい。いや、自分が疑われているからきっとさり気なく監視しているのだろう。


「じゃ、噂話じゃなく質問です。モネ先生の指輪の石はなんだろうと予想してたのです。あの先生はお金持ちだからジルコニアや水晶ではないと思うし、ダイヤは盗まれそうだから私の予想はホワイトトパーズだと思うのですが。水晶よりホワイトトパーズの方が輝きが強いし、高級品なので」


 三田先生は答えに詰まった。


「すまん、石の種類はそこまでは知らん」


「えー、地学部の副顧問なのにぃ? ミラ……美蘭先輩もそうだったけど、男性は高い宝石さえ贈ればいいと勘違いしがちだけど、宝石の知識、新誕生石や石言葉など知った方が女性へのプレゼント選びが捗りますよ」


「そういうことは生徒が心配しなくてもいい」


 三田先生にまた叱られた。ちょっとおちょくり過ぎたなとさすがに蛍は少しだけ反省した。


「先輩、三田先生は失恋したらしいです。そっとしてあげた方がいいですよ」


 杉がそっと蛍に耳打ちした。それはもっと早く教えて欲しかった。とにかく、モネ先生に確認する策を練るのは家に帰ってからだ。









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