37話 夢のこと
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「ほら、行くよ。ヒロト」
「‥‥‥分かってる分かってる」
‥‥‥‥‥‥。
「君は変わったものを好むんだなぁ」
「至って健全だとも」
‥‥‥。
「私たちはもっと頑張らなきゃ、ということだね」
「おう。任せたぜ、リーダー」
「まーたヒロトは。‥‥‥もう」
「‥‥‥ト様‥‥‥ヒロ‥様。――ヒロト様」
――ティアナの声で、ようやく俺は目を覚ました。上体を起こすとなんだか気分が重くて、頭を抱えた。
「いかがなさいましたか?」
そんな俺を案じてティアナは訊ねてくれたが、それほどキツイものでもなかったので、
「‥‥‥いや、大丈夫だ」
と答えた。
「ソファーで寝てしまわれると、風邪をひく可能性がございますのでお気をつけください」
「‥‥‥あぁ」
俺はソファーで寝てたことをそこで思い出した。ティアナの言った通り、風邪をひいたかもしれない。いや、違うな。変な夢を見てたからだろう。ん、やっぱ風邪?
‥‥‥ダメだ、寝起きで頭が悪い。
そういえば。
「俺を起こしたってことは、何か話でもあったんじゃないか?」
ティアナは笑顔で静かに頷いた。
「さすがヒロト様。なんでもお見通しということでございますね」
「‥‥‥いいから用件を話してくれ」
ティアナは「失礼致しました」と言って、表情を変えた。
「クーゲラス森林より東部に、
「は、
「この森の近くって
「いいえ。全くということはないですが、多くはありません。何らかの原因があると思われます」
ティアナはそう答えた。原因は不明だが、とにかくその
「なんか不気味だなぁ。俺を狙ってるのか?」
「――可能性は否めません」
セシリーの声。気づけばティアナと並んで立っていた。
「
なるほど。何かしら目的があって動いている訳だな。もし俺が目的じゃないなら、構わずスルーしていってほしいものだ。というか、俺が屋敷を
「まぁ別に放っておいても問題ないだろ――」
「放っておくことはできませんね」
「そのようですね」
‥‥‥ちょっ、タイミング酷いな。明らかに俺の発言を待ってから否定に入っただろう。戸惑いを隠せないよ。
「ど、どうして放っておけないんだ?」
「この森には様々な魔獣が生息しております。
ティアナに続けてセシリーも説明する。
「森の生態系が崩れれば――今回の場合、森が
‥‥‥つまり、放っておけば面倒なことになるということだった。うむ、確かにそれは放っておく訳にはいかなくなる。
でもわざわざ出向きたくないなぁ。
と、俺はいつの間にかその感情が表情に表れてしまっていたらしい。
「ヒロト様、私共で
ティアナがそう言った。すると俺はすぐに満更でもない顔になった。
「マジで? 良いの?」
「はい。私とセシリーであればそう時間はかからないかと。屋敷をヒロト様お一人にすることになりますが、ヒロト様にはそちらの方が都合が良いでしょう」
何なにティアナ? やけに俺のこと理解してくれてるじゃないの。ティアナらが面倒な
「‥‥‥じゃあ、頼んでもいいか? 二人共」
「「はい。行って参ります」」
セシリーとティアナは声を合わせてそう答えると、即座にその場から消えて居なくなった。
あっさりと行ってしまったが、そんなに簡単な仕事なのだろうか。俺は少し心配になったが、気にするのは止めた。
それよりも、夢のことが気になって仕方なかった。
女性と俺が、途切れ途切れで話をしている描写だった。それは、俺の知らない描写ではない。
お察しの通り、俺の記憶の一片である。俺はあの声を、あの女性を知っている。
なぜ、今になってその記憶の片々が夢として出てきたのかは、全く心当たりがない。
ただ、あまり思い出したくないことではあった。これは俺がこの世界に来て、冒険者として生活していた頃の記憶である。
魔王軍幹部である今、その記憶は求めていないはずだったのだが。
こんな体験は初めてだ。珍しいこともあるものだな。誰の悪戯かは知らないが、まぁ
さて。俺はセシリーとティアナが戻ってくるまで、ダラダラさせてもらおうかな。
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