38話 抜かずの剣士
-アーベル一行-
兵士らを待たずに進んでいたアーベルは、ようやく足を止めた。
足元は依然として鋭く尖った岩で覆われていた。
カラカラと鳴り響く
やはり何者かがこの
「だが‥‥‥まあ。だからどうということはない」
アーベルはそう呟いた。
そして、兵士らがアーベルに追いつくことができた。
「
「よーし戦闘だ、アーベルさんよ!」
兵士らは岩に絡まり不格好ながらも、
ところが、アーベルは臨戦態勢に入ってはいなかった。ただ鋭い岩の頂点に足を置いて直立していた。なので兵士らはざわつき出した。
「何突っ立ってるんだアーベルさん!」
「どうして剣を抜かないんだ!?」
そんな疑問が飛び交っていた。
「この程度なら、俺が出向く必要はない」
このアーベルの答えに、兵士らは一瞬静まり、しかしまた一層に煩くなった。
「あんたそれでも勇者一党の剣士かよ!」
「団結力のないやつなんざ放っておこう!」
兵士らはアーベルを
「黙ってついてきたり騒いで勝手に行ったり‥‥‥。忙しい奴らだ」
勇者に頼らず自分たちで
無論、アーベルは意図して兵士らを騒がせた訳ではない。
――兵士らは
骸骨の大部分を斬られた
そういう点でも、兵士らが躍起になって
戦闘の様子を眺めるアーベルは、ようやく動き出した。
「
アーベルの目の前に、岩山一帯のマップが立体的に表示された。
「《
マップ上に、大量の赤い点が現れた。
「これは俺の戦いじゃない。‥‥‥《
アーベルは何か自分に言い聞かせるように呟くと、また
このまま何事も起こらなければ、後は兵士らの体力勝負だ。そんなことを思いながら、アーベルはマップを眺めていた。
「――おりゃあ!」
「くたばれぇ!」
兵士らは声を張り上げながら剣を振るっていた。だんだんと岩山の環境に適応してきた兵士らは、
「あの男、本当に剣士か?」
「それもただの剣士じゃない。"王国最強"との称号すらあるらしいが‥‥‥とても信じがたいな」
兵士らの話題は、アーベルのことであった。
王国最強の剣士、アーベル。彼はユリウスが勇者となる以前から勇者一党に属しており、当初より市民からは"最強"と謳われていた。
「だがそれは曰く付きだろう? 皆が最強と謳うその剣を、誰も見たことがないと聞くじゃないか」
「確かに。今回だって戦っていないしな」
「さてはそういうことか‥‥‥」
「うん? どういうことだ?」
一人の兵士が、ある考察にたどり着いた。
「あの男、親のコネか何かで勇者一党の一員となったんだろう!」
「――なるほど! それで弱いのでとても戦えないということか。ただのインチキ野郎じゃないか!」
アーベルの素性を確信した兵士らは、"無能に従わされている"ことへの怒りも相まって、さらにモチベーションが上がったようだった。
「あんなヤツの力なんか借りずとも、
「「おぉ!!」」
「我らの勇ましさこそ正義だ!!」
「「おぉ!!!!」」
「剣を抜けない剣士など、剣士にあらず!!!!」
「「「うおぉぉぉ!!!!!!」」」
"剣を抜けない剣士など、剣士にあらず"
アーベルには兵士らの声がよく聞こえていた。
「剣士にあらず、か。ずいぶんと飛躍した思考だが、戦えるのであればそれでいい。俺はやるべき時にやるだけだ」
アーベルは鋭く尖った岩の頂点に、一人立ち続けていた。
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